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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第九章 夏季休業
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「えへへ、どうかな?」


 恥ずかしそうにはにかむマリアはその場で軽く回って皆に意見を求めた。

 膝上までの紺色のプリーツスカートは裾の部分にだけ淡い緑色の糸でラインが入っている。だがそれは近くでよく見れば蔓草の刺繍であることがわかる。

 太腿の半ばまで覆う黒いニーハイソックスは、淡い緑のリボン飾りが付いており、さり気ない可愛らしさがある。

 肘までの七分袖の白いブラウスは薄手の生地で作られており、暑苦しさを感じさせない。ふわりと広がった袖口とゆったりとした襟元には、深緑の糸でスカートと同じように蔓草模様の刺繍が施され、襟元の方には黄緑色の紐で編み上げられている。

 いつも右で括っている髪は三つ編みにされ、深緑の紐が編み込まれている。ほとんど髪型は変わっていないにも拘わらず、それだけでだいぶ印象が変わる。

 素肌はさほど晒していないにも拘わらず、全体的にゆったりとしたデザインのためか見る者に涼し気な印象を与えていた。


「⋯⋯なんで髪の毛を編んだんだ?」


 アルフォード散々言葉に迷ったが、結局そんな言葉が口から出た。


「ん~、なんとなく。偶には良いでしょ? それともおかしい?」

「⋯⋯そんなことはないが。なかなか似合ってるぞ」

「ふふふ、ありがとう」


 頭を軽く撫でられ、マリアは嬉しそうに笑う。


「⋯⋯どうせ何着か買うんだろ? 次は俺が選んでやるよ」

「えっ? ギルガルドさんが?」


 対向意識を燃やしたのか、ギルガルドはそう言って店内を見回すと、真剣な眼差しで服を選びだした。強面な男が子どもの服を選ぶ様はある種の異常な空気を醸し出していた。


「ギルばっかりはズルいぞ」

「そうだそうだ。俺らも選ぶからな」


 マリアは想定外の展開に唖然とする。


「え~、なんでそうなるの?」


 その言葉は服選びに情熱を燃やしている男たちには届かない。


「どれ。1つ儂も選んでみるか」

「⋯⋯おじいちゃんまで⁉」


 マリアは体から力が抜けるのを感じた。そしてその場に座り込んでしまう。



「⋯⋯随分と皆さんに愛されてますね」


 その様子を見ながら、店員はどこか楽しそうに笑っていた。


「⋯⋯否定はできませんけど、お金を払うのは私なんですよね」


 いったいいくらかかるのかと溜息を吐く。マリアの中に買わないという選択肢はなかった。


「まあ、偶にだったらこういうのも楽しいですけどね」


 そう言って笑い、元の服に着替え直すと、デザインよりも動きやすさ重視で自分も服を選びだした。

 そうこうして30分ほどが経過した時には、マリアの前には大量の衣類が山となっていた。


「なんでこんなに⋯⋯」


 重い溜息を吐きつつ、それでも減らす気はないようで、全て会計に持っていく。あまりの量に前が見えず、ふらつきながら。

 見かねて途中でアルフォードが助けに入る。


「すいません。これ全部お願いします」

「えっ? これ全部ですか?」


 店員も流石に全部は買わないとは思っていなかったのか、困惑の声を上げる。


「はい。あっ、心配しなくてもお金はありますから」

「あっ、いえ。⋯⋯でもこの量を持って帰れますか?」


 服が売れるのは嬉しいですけどと、店員は心配そうに言う。


「大丈夫です。アイテムポーチは持ってるので」

「えっ? そういう問題ですか?」


 アイテムポーチの容量をほとんど使ってしまうのではと、口にする。


「心配しなくても大丈夫だ。こいつの持っている物は容量の底が知れない高級品だからな」


 ギルガルドがそう言ってどこか自慢気に笑うと、店員は顔を引きつらせた。と言っても、見てわかるかというと微妙な変化だったが。


「伊達に稼いでいませんから、私」

「⋯⋯お前、俺らの収入の軽く数倍は稼いでるもんな」


 ギルガルドは心底羨ましいと、溜息を吐いた。


「⋯⋯そんなこと言ってもまだCランクなんですけどね」

「いや、お前の収入は高ランクの奴らと変わらないからな⁉」


 ギルガルドはマリアと一緒にされては困ると、慌てて突っ込みを入れる。


「それよりも早くお会計お願いできます?」

「あっ、はい。すいません」


 少々不機嫌なマリアの言葉に、店員は服の山を値段と種類別に選り分け始めた。


「3足1組銅貨2枚の靴下が3組に銅貨3枚のブラウスが13着に、スカートが7着。銅貨5枚のブラウスが3着に、スカートが6着。銅貨6枚のジャンパースカートが3着。銅貨8枚のワンピースが6着と小銀貨1枚のものが4着。銅貨12枚のスパッツが4枚で、計265エルです」


 告げられた金額にマリアは目を大きく見開く。それはギルガルドたちも変わらず、唯一表情を動かさなかったのはアルフォードとレリオンだけだった。


「「「「「⋯⋯安っ⁉」」」」」


 そして思わずそう叫ぶ。


「えっ? そうですか?」

「⋯⋯エルドラント王国だったら、普通の服1着分ぐらいですよ」


 そう言いつつ大銀貨を3枚取り出す。


「ああ、なるほど。⋯⋯お釣り、35エルです」


 お釣りを受け取ると、マリアは最初にアルフォードが選んだ1揃いだけ残して、残りを片っ端から仕舞った。


「これ、着替えて行っても良いですか?」

「他にお客様もいませんし、構いませんよ」

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