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「そうなりますと、スカートよりもズボンの方が良いと思いますよ」
そう言って店員に渡されたショートパンツにマリアは難色を示す。
「生足が見えるのはちょと⋯⋯落ち着かないので⋯⋯」
「⋯⋯最近の流行はこういった丈が短いものばかりなのですけど⋯⋯」
困ったようにそう言った店員にマリアはなんと返して良いのかわからず無言になる。
「一応丈が長いものもありますけど⋯⋯」
「っ⁉ 見せてください!」
瞬時に反応するマリアに、店員は苦笑いしながら服を取りに行った。
「う~ん⋯⋯」
マリアは見せられたロングスカートを見て首を傾げた。
黒い厚地の飾り気のない布地は足首を覆い隠すほど長く、見ているだけで暑苦しい。
「中間ってありません?」
「⋯⋯中間、ですか?」
「はい。流石にちょっとこれだと長過ぎるので、膝下ぐらいまでのやつが良いんですけど⋯⋯」
「⋯⋯それはうちでは取り扱っていませんね。おそらくですが、他も似たりよったりだと思いますよ」
「⋯⋯」
そう言われてしまい、マリアは軽く目を伏せると熟考した。
ちなみに他の者たちはマリアの意思が一番だという考えから、意見を求められれば答えるが、無理に自分たちの意見を押し付ける気はなかった。
「⋯⋯下着が見えないか気になるのでしたらスパッツも取り扱いがありますが」
「? 何ですか? それは?」
初めて聞く名称に首を捻る。
「ご存知ありませんでしたか? この国では一般的なのですけど」
店員は服の山の中から目当てのものを探し当てると、マリアに見せながら説明を続ける。
「もし裾がまくれたりしてしまっても下着が直接見えないよう、これをスカートの下に履くんです。伸縮性のある特殊な生地を使っている分、他の衣類よりもお値段は張ってしまいますが、購入される方は多いですよ」
マリアは瞳を輝かせた。
「⋯⋯店員さん、最初のスカートとニーハイソックスを見せてもらえますか?」
「かしこまりました」
店員はいそいそとミニスカートをいくつも並べる。
「ん~、赤系とかの派手な色はあまり好きじゃないんですよね。青とか黒、それから茶色のやつだけ見せてください」
「確かに濃い色味は瞳の色と合わないかもしれませんが、淡いピンクなどならお似合いになられると思いますよ」
店員は不思議そうな顔でそうマリアに薦める。
「ピンクは大っ嫌いなんです」
普段の柔らかな声音からは想像できないほど冷たい声で言い切る。
「す、すいません」
震える声で謝ると、店員は服の山の一部を片付け、新たに別の服を運んできた。
「ん~、どれにしよう」
想像以上に多種多様な服を持ってこられ、マリアはこれだというものを決めらなかった。
例えば一口に青と言ってもこれといって特に飾り気のないシンプルな夏らしい袖なしの淡い水色のワンピースから、袖が紺のフリル飾りになっており、胸もとにも同色の大きなリボンが揺れている愛らしい鮮やかな蒼のワンピースまで、実に種類は様々だった。
「⋯⋯ベルはどう思う?」
迷いに迷った挙句、ベルに意見を求める。
「マリアドレモニアウ。エラベナイ」
「⋯⋯ベルに訊いた私が悪かったよ」
マリアは溜息を吐き、ベルに謝ると今度はアルフォードを見た。
「アルはどういうのが良いと思う?」
「そうだな⋯⋯マリアは色が薄いし、淡い色よりも濃い色の方が似合うと思うぞ」
アルフォードの言葉にマリアは溜息を吐いた。
「私が訊いてるのは服の色じゃなくてデザイン。それぐらい察してよ」
頬を膨らませるマリアにアルフォードは慌てて謝る。
「悪かったって。そう怒るなよ」
「⋯⋯アル、反省していないよね?」
悪びれた様子を見せないアルフォードを、マリアはジトッとした目で見上げた。
「そ、そんなことないぞ。ほら、これとかピッタリだと思うぞ」
誤魔化すようにマリアに服を押し付ける。
「後はこれと⋯⋯こっちだな」
追加でさらに何着か服を選ぶと、マリアの持っていた服の上に乗せた。
「アル⋯⋯私がこれぐらいのことで誤魔化されると思ったら大間違いだよ?」
そう言ってマリアは微笑んだが、目だけは笑っていない。
アルフォードは寒気を覚えたのか身を震わせた。
「ほ、ほら、試着してきたらどうだ?」
アルフォードに背を押され、渋々といった様子で店員に案内され、マリアは試着室に消えた。
「⋯⋯もう少し女心というものを学べ、アル」
「そうだぞ。小さくたって女は女なんだからな」
マリアが着替えるのを待っている間、アルフォードはギルガルドたちから入れ代わり立ち代わりに肩を叩かれながら慰められていた。
「⋯⋯アル坊はどうしてこうも色恋沙汰に疎くなったのか儂には理解不能だわい」
それを見ながらレリオンは小さく呟くと、大きく重い溜息を吐いた。アルフォードを見つめるその眼差しは自分の子どもや孫を見る目と寸分違わなかった。
「着替え終わったよ~!」
少しハイテンションなマリアの声が店内に響き、アルフォードは自分でもよくわからないことでゴッツい体格をした大人たちに慰められるという、なんともカオスな状態がそこで終わったことにホッと息を吐いた。




