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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第九章 夏季休業
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 水上タクシー乗り場に着くと、適当な船頭に声をかける。


「おじさん、『フェアリー・ガーデン』っていうお店までお願いできますか?」

「あいよ⋯⋯7人かい?」

「はい」

「悪いがこれは5人乗りでな。後4人しか乗れねぇんだ。悪いが3人は違う舟に乗ってくれるか?」


 そう言われてしまったので、マリア、アルフォード、レリオンとギルガルド、フェルト、ダスケル、サウリに分かれる。ベルは勿論マリアの肩の上だ。


「風が気持ちいいね、ベル」


 水面を滑るように進む舟に座り、風にたなびく髪を手で押さえ、ベルに同意を求める。


「ウン」


 マリアは落ち着いて街を眺めると国境の田舎街にも拘らず、エルドラント王国の下手な大都市よりも活気があることに気づいた。


「なんていうか、過ごしやすそうな街だね。活気があって、皆明るい顔をしていて⋯⋯」

「おっ、お嬢ちゃんわかるか? この街を治めている領主様は立派な方で、貧しい者へ躊躇もなく手を差しのべてくださるんだ」


 誇らし気に船頭がマリアに話しかける。


「⋯⋯へぇ~」


 思わずエルドラント王国と比べてしまったマリアは少し声を沈ませる。


「お嬢ちゃんたちはエルドラントから来たのか?」

「はい。今日着いたばかりです」

「エルドラントの出身の奴なら貴族嫌いでも仕方がないかもしれないが、この国の貴族も王族もあの国とは一緒にしない方が良い。民のことを思いやってくださる人格者ばかりだ」

「そうなんですか?」

「ああ。中でも素晴らしいのが王弟殿下のアラニウス様だ。まあ今は行方不明になられているんだけどな⋯⋯」

「⋯⋯行方不明?」


 王族が行方不明など、不穏過ぎる。マリアは思わず問い返す。


「ああ。⋯⋯もう10年以上前に忽然と姿を消された。ただ家出をされただけとも、エルドラントの貴族に攫われたとも言われている」

「そうなんですか⋯⋯」


 マリアは何と言って良いのかわからず、それでもなんとか言葉を絞り出した。


「ああ。黒に近い紺色の髪に、お嬢ちゃんみたいなきれいな蒼い目の方なんだが、何か知らないか?」


 一応念のためというようにそう船頭は尋ねた。


「ん~、心当たりはないな⋯⋯アルは?」

「僕もないぞ」

「私もないな」

「ワタシモ」


 その返答に船頭は重い溜息を吐いた。


「やっぱり知らないか⋯⋯」


 そう言って再度溜息を吐くと、もう店に着く旨を告げた。


「ありがとうございました」


 舟が止まると船頭にお礼を言いながらお金を払って舟を降りる。


「ここか⋯⋯」


 看板を見上げ、店名に間違いがないことを確認すると、マリアは意を決して店の扉を開いた。


チリーン


 涼やかな鈴の音が店内に鳴り響く。


「いらっしゃ、⋯⋯いらっしゃいませ!」


 若い店員の女性は店内に入ってきたマリアとアルフォード、そしてレリオンに笑顔を向けたが、その後ろから入ってきたギルガルドたち3人の姿を視界に入れ、頬を引きつらせた。それでもなんとか気を取り直し、ギルガルドたちにも笑顔を向けたことにはプロ根性がにじみ出ていた。

 サウリはギルガルドたち3人に埋もれ、気にも留められていない。そのことに気づいてしまい、サウリは表情を暗くした。


「本日はどのような服をお求めで?」

「この子の普段着を頼む」

「かしこまりました。ただいまいくつかお持ちいたしますね。そちらの椅子におかけになってお待ちください」


 意図してなのか、それともただの偶然なのか店員はギルガルドたちを視界に入れようとしない。その事実にフェルトは傷ついたような顔をした。

 マリアは言われた椅子にちょこんと座ると、店内を改めて見回した。


「色んな服がいっぱいだね、ベル」

「ウン。イロンナイロノフクアッテキレイ」


 そんな取り留めもない話をしていると、両手に大量の服を抱えた店員が戻ってきた。


「お待たせ致しました」


 店員は空いていた椅子の上に服を全部置くと、そのうちの1つを広げた。


「今の流行はこのような丈の短いスカートにニーハイソックスの組み合わせでして⋯⋯」

「⋯⋯丈が短過ぎません?」


 いつも膝下丈のスカートのマリアには、太腿の半ば程までのミニスカートはひどく短く感じられた。


「? そうですか? それでしたらこちらなどどうでしょう?」


 そう言って見せられたのは確かに先程よりは丈の長いワンピースだった。それでも膝は露わになる程度の長さでしかない。


「う~ん⋯⋯私、冒険者をやってるので短いスカートだとちょっと都合が⋯⋯」

「冒険者⁉ あなた冒険者やってるの⁉ ⋯⋯いらっしゃるんですか?」


 店員が思わずといった様子で言葉を乱す。


「はい」

「あなたみたいな子どもを冒険者にするなんて、親はいったい何を考えて⋯⋯」


 親の顔が見てみたいと言葉を漏らす。


「親ですか? お父さんはもう何年も前に亡くなりましたよ」

「母親は?」

「私、あれが親だとは思っていませんから」


 マリアはそうバッサリと言い切った。


「あれが親だと言うのなら、エルドラントの多くの貴族が普通の人か人格者になりますよ」


 誰も何も言わない。ただ沈黙だけが流れる。


「⋯⋯そう、ですか。差し出がましいことをお訊きしてしまい、申し訳ございません」


 店員はそう謝ると、気を取り直したように次の服に手をのばした。

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