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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第二章 ダンスパーティー
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 パーティーの前日の放課後、翌日のダンスパーティーの準備が終わった後の教室でマリアはアルフォードに話しかけられた。

 教室にはマリアたちの他に人はいない。皆明日のパーティーに備えて今日は早めに寝るんだと準備が終わるや否や寮に戻ってしまった。ここ最近何かとマリアと一緒にいることが多いエリザベートもその例に漏れず早々に寮に戻った。


「ここ最近僕を避けているのはなぜだ? 僕がその⋯⋯」


 マリアにはアルフォードを避けているつもりは全くなかった。ただ、アルフォードと暫くまともに話していなかったのは事実だ。ただそれも新たに友達ができたことと、パーティーのためのダンスの練習が忙しかったためだ。


「あんなに悩んだ僕は一体何だったんだ⋯⋯」

「なんかごめんね」


 正直にそう告げたマリアの言葉にアルフォードは崩れ落ちた。

 そんなアルフォードにマリアが追い打ちをかける。


「でもなんで今まで聞いてこなかったの? 直接話すのは無理でも手紙を書くとかいくらでも方法はあったでしょう?」


 アルフォードが愕然とした表情を浮かべた。


「そ、その方法があったか⋯⋯」


 そしてマリアはブツブツと何かを呟いているアルフォードをその場に放置して寮に戻ろうとした。

 そこへエリザベートが教室に戻ってきた。


「⋯⋯この状況はどういった状況なのかしら」

「ちょ、ちょっと色々あっただけよ。それよりもどうしたの? 寮に戻ったんじゃなかったの?」


 マリアは必死にアルフォードとの関係を誤魔化そうとした。


「ノートを忘れたことに気がついたのよ。それで色々って?」

「そ、それはその~」


 結局追及されたが⋯⋯。


「あっ! まさか告白とかされたんじゃないでしょうね。あなたみたいな年齢の子を口説こうとする奴なんて相場がロリコン趣味の変態って決まってるんだからね。断って正解よ」


 そう言ってこくこくと頷いた。

 誤魔化せたのは良いがどうやらエリザベートの中でアルフォードはロリコン趣味だということになったようだ。

 少し可哀そうだがマリアはこれ以上追及されるのは面倒なので肯定も否定もしなかった。

 その後マリアはエリザベートに引き摺られて寮に戻ったのでアルフォードがどうなったのかは知らない。

 ちなみにエリザベートが忘れたノートを取りに来たというのは建前で、実際は寮の部屋を訪ねたがまだ帰って来ていなかったマリアを心配しての行動だったりする。授業がなかった筈なのにノートを取りに来たということに何の疑問も持たなかったマリアが気づくことはおそらくないだろう。


 パーティー当日、マリアは緊張した面持ちで会場であるホールに来ていた。

 傍には他に人がおらず、その瞳には不安気な色が浮かんでいた。


「何で皆先に行っちゃうのよ。少しぐらい待っててくれたって良いじゃないの⋯⋯」


 朝着替えるのに手間取っていると皆、先に行くと告げてマリアを置いて行ってしまったのだ。

 そもそもドレスは誰かに着せてもらうことを前提としている。1人で着替えようとして手間取ってしまうのは当然と言えよう。

 エリザベートもいくら仲が良いといっても所詮は貴族、使用人の1人もいないマリアの苦労がわかるはずもなかった。

 アルフォードはその辺の事情がわかっていたようで待っていてくれようとしていたのだが、エリザベートに発見され、こんな変態とマリアを一緒にさせられないとそのまま会場まで連行されてしまったのだった。


「皆どこにいるんだろう」


 マリアは辺りを見渡したがいかんせん背が足りず人が邪魔で遠くまで見通すことができなかった。

 そんなマリアを見る人々の目線は大きくわけて二種類だった。

 1つはマリアの様子を可愛いと微笑まし気に見守る人たちがいた。その中には下級貴族の女性が多いが中には少数だが男性もいた。内心では身悶えている怪しい人物もいたのだが、マリアがそれを知ることはないだろう。

 そんな好意的な視線の他に敵対的ともいえる視線を送っている一団がいた。上級貴族と呼ばれる人が主だ。いわゆるプライドが高いだけの集団だ。マリアを見る目はまるで道端のゴミを見るようなものだった。

 他にも好奇に満ちた目で見る者もいたがそれは少数派だった。

 マリアがエリザベートたちを探すのを諦め、どうしようと思案に暮れていると先程馬鹿にしたような視線を送っていたうちの1人の上級貴族の少女がマリアに近づいて行った。それに目聡く気がついた下級貴族の少女たちが厳しい目を向けるがそれを意に解さない。


「ちょっと貴女」


 最初マリアは誰に向かって声を掛けたのかわからなかったが、周りを見渡してそれらしい人がいないことを確認すると漸く返事をした。


「私に何か用ですか?」


 マリアの問いかけに少女はすぐには答えなかった。

 不思議に思って少女をよく見ると肩がわなわなと震えていた。


「何か用ですって? そんなこと決まっているじゃない。平民の貴女なんてこの場に相応しくないの。わかったらさっさとこの場から去りなさい。一体どんな手を使って手に入れたのか知らないけれどそんなドレスを着て来たってダメよ」


 少女は一気に捲し立てた。


「えっ? でもこのパーティーは全員参加だって⋯⋯」


 マリアの困惑の声に少女は不思議そうな顔をした。


「何を言っているの? そんなの貴女以外の全員に決まっているじゃない。そもそも貴女がこの学園にいること事体がおかしいのよ」


 少女の言葉にマリアの瞳には涙が溜まり始めた。


「で、でも⋯⋯」

「でもも何もないわよ。わかったらさっさとここから立ち去りなさい」


 マリアは会場から出ていこうとした。

 辺りの人々は割って入るようなことはせず、ただ遠巻きにことの成り行きを見るだけだった。喋るような人間はいない。いつの間にかその場は静寂が支配していた。そこへ──。


「これは一体どうしたのだ?」


 来ると噂されていた国王が登場した。

 さっきマリアに散々言いたい放題に言っていた少女が嬉々として説明する。


「そこの自分の身分をわきまえない平民に少し注意をしていただけです」

「ほう、それでは何でその子は泣いているのだ?」

「少し言い方が厳しかったせいかもしれません」


 さっき上級貴族の少女と一緒にいた青年が言った。


「具体的には何と言ったのだ?」

「平民がこの場にいるのは相応しくないので立ち去るように言いました」


 少女は誇らし気に言った。


「ほう」


 国王は眼光を鋭くした。


「それは本当か?」


 国王はマリアに訊いた。


「は、はい」


 その声は心なしか少し震えていた。


「この学園の決まりには平民がパーティーに出てはいけないという決まりがあるのか?」

「ありませんがそもそも平民がこの学園にいること事体がおかしいのです」

「だから追い出しても良いと? この学園に平民が入学できないなどという決まりはあるのか学園長?」


 国王はいつの間にか近くに来ていた学園長に訊いた。


「いえ、そのような決まりはございません」

「そうか⋯⋯。それではお前たちは何を持ってこのマリアがここにいてはいけないというのだ?」


 国王がマリアの名前を出したところで少し騒めいたがすぐに静かになった。


「そ、それは」

「まさか生徒が貴族ばかりだからというような理由ではないだろう?」


 図星を突かれて上級貴族は答えられず黙った。

 国王はその様子を面白そうな目で見ていた。

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