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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第九章 夏季休業
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「⋯⋯それで構わぬ。すぐに集めてくれ」


 国王は少し考え込んだ後、苦々しい表情でそう告げた。


「わかりました」


 短くそう答えると、エリーザは国王に背を向けて歩き出した。その手は爪が手に食い込みそうなほどきつく握られていた。


「⋯⋯エルマン」


 国王はそんなエリーザの背を見送りながら静かに宰相の名を呼んだ。


「はい」

「⋯⋯ここは誰が治める地だ?」


 ただ淡々と事実を確認する。その声には何の感情も籠ってはいない。


「⋯⋯端も端ですがギリギリ王家直轄領内です」

「そうか⋯⋯」


 そう呟くと国王は目を伏せた。


「⋯⋯私も随分と嘗められたものだな」


 力なく笑うと足元の荷物の中を探り始めた。


「彼女の命令を聞かない奴らには少々痛い思いをしてもらうか」


 短槍を手にした国王の瞳からはハイライトが消えていた。


「⋯⋯建物は壊さないでくださいよ」

「⋯⋯それぐらいわかっている」

「私としてはその妙な間が気になるんですがね」


 宰相も溜息を吐きながら自身の武器である大槌を荷物から取り出す。

 荷物から武器が出てきたことで周りの兵士たちが身構える。


(おいおい、何を考えてんだよ)


 ギルガルドは2人の行動の意図が読めずに固まる。


「最初は何で行きましょうか?」

「そうだな。⋯⋯揺らしてみるか」

「⋯⋯中には侍医たちもいるのですよ?」

「あやつらなら問題ない。それぐらいなら自力で対処できるはずだ」


 国王は完全にフェルト、ダスケル、サウリの3人の存在を失念していた。

 もし仮にマリアたち3人と分断されていたら自力でどうにかできるかどうかはかなり怪しいのだが、国王がそのことに思い至ることはない。現にレリオン、ベル、マリアたち5人とすでに分かれているのだが。


「⋯⋯随分と物騒な物を」


 エリーザは戻ってくるなり目に入った光景に思わず頬を引きつらせる。


「これは⋯⋯ただの護身用だ」


 国王の若干視線を泳がせた返答に、それを聞いた者は誰もが嘘だと感じたが、それを突っ込む者はこの場にはいない。


「⋯⋯そうですか」


 エリーザも納得ができていないと顔には出ていたが、自分を無理矢理納得させるように頷いた。


「そんなことよりも集められたのはこの場にいる者で全員か?」

「はい」


 元からこの場にいた者を含め10人足らず。その人数の少なさに国王は重い溜息を吐く。


「⋯⋯エルマン」

「はい」

「やれ」


 言葉は短かったが、エルマンはそれだけで国王の意を汲み取り直ちに実行に移す。


「『《アース・クエイク》』」


 その言葉の意味を理解できたのは国王と宰相本人を除けばただ1人だけだった。


「総員直ちに地面に伏せろ!」


 エリーザがそう叫び終わるよりも前に地面が立っていられないほど激しく揺れた。


◇◆◇


 時はほんの少しだけ戻る。


「⋯⋯えっ?」


 不意にアルフォードが思わずといった様子で声を漏らした。


「アル? どうしたの?」


 後ろを歩いていたマリアが不思議そうに尋ねる。

 目の前にはただ通路と時折扉が点在しているだけで、おかしなものは何1つない。


「⋯⋯全員その場にしゃがめ」


 決して声を荒げたわけでもないのにその言葉には有無を言わさぬ力があった。


「マリア、一応光の結界を頼む。効果時間は1分もあれば良い」

「う、うん。『光よ、我らに危害を及ぼさんとする者が近づくことがなきよう守りたまえ、《守護結界》』」


 全員がしゃがみ、意味もわからず言われるがままにマリアが防御の為の魔術を完成させるのと激しい揺れがその場を襲うのはほぼ同時だった。

 小さな石の欠片や埃が降ってくるが、全て光の障壁に遮られて誰かに被害が及ぶことはない。


「な、なんだ⁉」


 思わず叫んでしまったダスケルを責める者はいなかった。


「⋯⋯今のは魔術による揺れだな。誰かが直接地殻に働きかけたんだ」


 揺れが収まるとアルフォードが説明をした。


「大規模な魔術は発動までに時間がかかる。これほど素早くできる人間となると限られてくるぞ」


 いったい誰がとアルフォードは若干の焦燥の色をその瞳に宿らせる。


「ちかくって?」


 聞き慣れない言葉にマリアは首を傾げる。


「⋯⋯平たく言えば地面のことだ。細かい説明はまた今度してやる」


 そんなことを説明している場合ではないと、アルフォードはばっさり切り捨てた。


「⋯⋯とりあえず現状がわからないことにはな。外に急ぐぞ」

「わかった」

「「「ああ」」」


 今まで意図的に足音を消していたのを止め、限界まで移動速度を速める。


「⋯⋯アル、予想はついてるの?」

「ある程度はな」


 一番足が遅いのはフェルトであり、それに合わせているためマリアとアルフォードには十分会話する余裕があった。


「さっきユニコーンを送還したか?」

「⋯⋯あっ、そういえばやってない。自分たちで帰ったとは思うけど⋯⋯でもそれがどうかしたの?」


 話の関連性が見えず、訊き返す。


「⋯⋯ギルガルドが飛ばされた確率が一番高いのはどこだ?」


 マリアの疑問には答えず、さらに質問を重ねる。


「えっ? それはユニコーンさんたちのところでしょ?」

「そうだ。ユニコーンたちにしてみれば俺らが目の前で連れ去られたんだぞ。どうすると思う?」

「⋯⋯頭が良い人に相談じゃないかな。たぶんこの場合は長さんかな?」


 焦り故かアルフォードの一人称が普段とは変わっているのだが、マリアはそれには気づいていなかった。


「だろうな。⋯⋯さて問題だ。そこに俺たちと一緒にいたギルガルドが現れたらどうすると思う?」

「えっ? そりゃあ詳しい状況を訊くんじゃ」

「当然そうなるだろうな。そして今の状況とユニコーンたちの性格を踏まえるとおそらくだがその後に城に特攻でもしたんじゃないか」


 そう真実に限りなく近い推測を口にする。


「⋯⋯否定できないのが怖い」


 推測が外れていますようにと祈りながら、人の姿が見当たらない通路を走る。

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