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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第九章 夏季休業
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「っ⁉ あったぞ!」

「本当⁉」


 アルフォードの言葉にマリアは飛び上がらんばかりに喜ぶ。


「ああ。今無効化する」


 魔法陣自体は浅く壁に彫り込まれている程度で、強く擦れば効力をなくす。


「⋯⋯これで良いはずだ」

「うん。問題ないよ」


 アイテムボックスから自分の武器を取り出して頷く。


「⋯⋯武器、持ってたんだな」

「当たり前でしょ? 手ぶらなはずがないじゃない。あっ、おじさんたちも何か武器があった方が良いよね? 弓はないけど安物でよければ短剣は何本かあるよ」


 そう言って床に並べる。


「ありがとな。本音を言えば長剣の方が使い勝手が良いんだが、贅沢は言えねぇな。武器があるだけマシだ」


 そう言ってギルガルドはマリアの頭を撫でた。


「もう! 髪の毛がぐしゃぐしゃになる!」


 ギルガルドの魔の手から逃れつつ、思い出したものがある。


「長剣、確か1本だったらアルが予備で持ってなかった?」

「あ、ああ。でも間に合わせぐらいにしかならないぞ」

「それで十分だ」


 まさか武器が手に入るとは思わなかったギルガルドたちにはそれだけで嬉しかった。


「あっ。それとこれ、誰か使える人いる?」


 箪笥の肥しならぬアイテムボックスの肥やしになるぐらいならと取り出したのはマリアの父、アランの長剣だった。そのままギルガルドに手渡す。


「良いのか? これはかなりの業物だぞ」


 一見すると刃の部分が通常よりも若干長い量産品の安物にしか見えないそれをそう評したギルガルドの審美眼は確かだった。Aランク冒険者のメイン武器が安物のはずがない。


「うん。私が持ってても身長的に使えないし⋯⋯」


 振り切れば刃先が地面に激突することが確実な剣など、使い勝手が悪いとしか言いようがなかった。


「それに使えない私が持ってるより使ってあげた方が剣も喜ぶと思うの」

「⋯⋯そういうことなら使わせてもらう。だが気のせいか? この剣、どっかで見たような」

「き、気のせいだと思うよ。似てる剣なんていくらでもあるし」


 そう必死に誤魔化した。

 アルフォードはそんなマリアを見ながらあんな剣を持っていたかと首を傾げていた。


「そうか?」


 ギルガルドは釈然としない面持ちをしていたが、それ以上何か言うことはなかった。


「そんな剣、持ってたか?」

「えっ? あっ、うん。これは元々私のお父さんのやつ。この間返ってきたの」


 アルフォードからの問いに少々焦りつつ、それがいつだかは明言はしない。


「⋯⋯そうか」


 明言はされなくともこの間という言葉から出所は明らかだった。


「もう、なんでそんなに暗い顔するの? アルらしくないよ」

「痛っ」


 額を指で軽く弾かれ、思わず押さえる。


「何をするんだ⁉」


 マリアは笑って答えなかった。


「⋯⋯じゃれるのも程々にしろ。あまり騒ぐと人が来るぞ」

「は~い」


 ギルガルドに窘められ、渋々と頷くと改めて皆を見回す。


「用意は良いよね? んじゃ、とりあえずここから出るよ。アル、手伝って」

「⋯⋯結局人頼りなんだな」

「そんなこと言わないでよ。だって私の力だけじゃどう足掻いたって不可能なんだもん」


 仕方ないじゃないと頬を膨らませる。


「はいはい。言ってみただけじゃないか。そう怒るな」

「冗談には聞こえなかったんだけど」

「⋯⋯人が来る前にサッサと脱出するぞ」

「ちょっと、誤魔化さないでよ」


 口では文句を言いつつ、頭ではこの後の行動を考えていた。


(牢は壊さない方が良いよね。何かに気を取られてる隙に抜け出すのがベストだけど、それは無理な要求だよね。おじいちゃんは放置しても大丈夫だけど、問題はベルか。ベルに監視がなければ召喚して解決することだけど、人がいたらこっちの動きがバレかねないし⋯⋯ベルには悪いけど、しばらくそのまま耐えてもらうか。たぶんだけど殺されるようなことはないだろうし。良くも悪くも希少価値高いし)


 マリアはまさかベルが自力で逃げ出しているとは夢にも思っていなかった。だからこそ放置を決める。


「アル。転移系はどれぐらいの距離いける?」


 そして思考を脱出方法に戻す。


「⋯⋯大人1人ならその鉄格子の外に出すのが限界だな。後、魔力量的に2、3人が限界だぞ」

「⋯⋯やっぱりそうだよね。私も4人が限界かな。それで魔力もほぼ空っぽ」


 転移系の魔術は例え単距離でも膨大な魔力が必要になる。おまけに対象の重量によって消費魔力量も跳ね上がる。

 前に同じ王都内、対象が老人と子どもといえど徒歩1時間の距離を転移させたローザですら色々とおかしい。国王に至ってはもはやおかしいという域すらも超えている。


「これぐらいで魔力切れなんて、やっぱ実際に使うにはまだまだだよね」

「そうだな。最近練習もサボっていたし、反省してちゃんと練習するか」

「だね」


 それだけできれば上出来なのだが、2人とも身近に規格外な人物がいる所為か自分たちに対する基準もおかしかった。


「んじゃ、時間ももったいないし、牢の外に飛ばすね」


 そう言って鉄格子ギリギリに並ぶように指示すると一番近くにいたギルガルドの背に手を置く。


「『点と点、2点を結びしは線にあらず』」


 朗々と歌うような声が響く。


「『なぜならば2点は同じ点なのだから。故に結ぶことなどできはしない。後はそのことを認識させるだけである。世界よ、認めよ。2つの空間が同じであると』」


 普段の詠唱とは異なり、ひどく抽象的な言葉が紡がれる。

 何か問題があればすぐに介入できるよう黙って魔力の流れに目を凝らしていたアルフォードが驚いた顔をマリアに向ける。


「待て! それは⋯⋯」

「『《転移》』」


 慌てて止めようとするが、マリアが最後の言葉を、魔術名を唱え、発動させる方が早かった。

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