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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第九章 夏季休業
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色々とやりたいことを詰め込んだ結果です。もしかしたら書き直すかもしれません。何か意見があれば教えてください。

「⋯⋯そろそろ良いかな?」


 葉が姿を消し、幹が炭化し始めたところで新たな指示を出す。


「アル、消火!」

「⋯⋯わかってる!」


 すでに矢は飛んでこなくなっており、やることもなく暇になった4人は黙って見学していた。


「「『《ウォーターフォール》』」」


 先ほどのものとは規模が違い、瞬く間に火を消し去っていく。


「あっ、まずい。全員その場から動かないで! 『光よ、我らに危害を及ぼさんとする者が近づくことがなきよう守りたまえ、《守護結界》』」


 マリアの技量では《守護結界》の詠唱破棄は不可能だった。早口でまくしたて終わり、光のドームが形成されるのと、大量の水が霧となって押し寄せてくるのはほぼ同時だった。


「⋯⋯これは計算外だったな。つい咄嗟に《守護結界》を張っちゃったけど逃げられちゃうかな?」

「いや、多分これを一方的に攻撃できるチャンスと見るんじゃないか? タイミング的にこれは見えなかっただろうし」

「そうかなぁ?」


コツン


 言い終わるのとほぼ同時に何かが障壁に当たる。


「⋯⋯打ってきたな」


 矢を見てギルガルドが呟く。


「ああ。ナイス判断だ、マリア」

「う、うん。あっ、でも咄嗟だったからそんなに持たないよ」

「どれぐらいだ?」

「⋯⋯何もなくて1時間。矢1本あたり3分ぐらい」


 咄嗟にしてはなかなかの出来だった。


「⋯⋯たぶんだが霧が晴れる方が先だな。あっちも当たるか賭けの攻撃はそこまでしないだろうしな」


 おそらく次はある程度近くまで敵が来ているはずだとアルフォードは続ける。


「だいぶ見通しが良くなったから、遠距離は手数が多いこちらに対してあちらには不利でしかない」

「えっ? でも生死に関わらずだったら範囲系でサッサと片がつかない? Dランク以上の魔物よりも人間の方が体は脆いし」

「⋯⋯単純にそろそろ魔力切れだと思っているんじゃないか? 結構派手にやったから」

「ああ、そういう。傍から見れば派手だけど、周りを利用してるから見た目ほどじゃないんだけどね。後、たぶんおじいちゃんは戦力に数えられてない。誰がどの魔術を行使しているかなんて、見た目だけじゃわからないし」

「それもそうだな」

「⋯⋯皆酷い」


 別に何か悪気があるわけではないのだが、結果的にレリオンを傷つけることとなっている。


「⋯⋯そろそろだね」


 気づけばだいぶ霧は薄くなっていた。


「ああ」


 皆各々の武器を構える。


「戦力外と思ったこと、後悔させてやるわい」


 レリオンの手にステッキはなく、どこか禍々しい気配を漂わせる大剣を持っていた。浮かべている微笑みすら不気味だった。


「んじゃ、残ってるのも風で飛ばしちゃうね。あっ、フェルトさん。何本か矢があるけど集めた方が良いですか? 大して手間はかからないですし」


 レリオンの言動は無視し、マリアは取り出したいつものローブを身に着けながら尋ねた。


「⋯⋯じゃあ頼む」

「わかりました。あっ、もうこれ消すんで、周囲の警戒してくださいね」


 全員が頷いたのを確認すると、《ウィンド》で周囲の残った霧を吹き飛ばす。


「⋯⋯えっ?」


 開けた視界の先では今回の襲撃犯、つまりは盗賊と思われる集団が土下座していた。


「「「「「「「「「「すいませんでした!」」」」」」」」」」


 その数20数名。それがそろって頭を下げる様はなかなかに圧巻だった。


「えっと、これはどういう⋯⋯」


 うまく状況が呑み込めない一同。


「「「「「「「「「「本当に申し訳ございませんでした!」」」」」」」」」」


 説明を求めてもまともな答えが返ってこない。


「いや、だから説明を「「「「「「「「「「ごめんなさい!」」」」」」」」」」」


 それからまともに話ができるまで5分ほど。状況を理解するまでにさらに5分の時を要した。


「⋯⋯つまりはあなたたちは元々猟師で弓しか使えないと?」

「「「「「「「「「「そうです」」」」」」」」」」


 一糸乱れぬ唱和。


「⋯⋯身を隠せる森がなくなっちゃったから降伏するしかないと?」

「「「「「「「「「「ですです」」」」」」」」」」

「⋯⋯随分とまぁ身勝手なことを言ってるって自覚はあるわけ? こっちは別にあなたたちなんて縛り上げてそのまま放置しても良いんだからね」

「「「「「「「「「「勿論です。虫が良い話だとはわかっています。放置だけはどうかご容赦ください」」」」」」」」」」

「⋯⋯あなたたち随分と仲が良いね」


 あまりに声がそろうのでついそんな言葉が口から出る。


「「「「「「「「「「いやぁ」」」」」」」」」」

「⋯⋯いや、別に褒めてないから。呆れてるだけだから」

「「「「「「「「「「え~、そんなぁ~」」」」」」」」」」

「⋯⋯っていうか逃げようとは思わなかったの?」

「「「「「「「「「「あっ」」」」」」」」」」


 どうやらそんな選択肢は考え付かなかったらしい。


「お間抜けさんたちだね。⋯⋯アル、この人たちどうする?」

「んっ、その前に気になることがあるんだが、そもそもなんで盗賊なんてやってるんだ?」

「⋯⋯あっ、そう言えば」


 経歴等は聞いていても、理由は語られていない。


「領主の」

「使いって」

「いう」

「やつが」

「来て」

「狩猟を」

「するなら」

「税金を」

「払えって」

「言って」

「きたんだ」

「でも「ちょっと待って! なんでそんなに区切った上に代わる代わる言うの? 誰か代表して説明して」


 聞き辛いとマリアはキレた。


「⋯⋯わかった。じゃあ俺が説明する。ある日領主の使いっていうやつが来たんだ。狩猟がしたいなら税金を払えって言ってな」

「税金?」

「それが少額ならまだ良い。だがあいつは税として儲けの半分を貰うって言ってきたんだ。せめて8割はもらわなきゃこっちが暮らしていけねぇってのによ」


 領民が暮らしていかなければ税も取れないのに何を考えてるんだかと愚痴る。


「⋯⋯それってどこの領地?」

「⋯⋯アレクセルって街の近くだ。領地の名前なんて知らん。でも少なくとも下があれなら上もたかが知れてるな」


 レリオン、アルフォードが顔色を変える。


「⋯⋯その街から見てどっち?」

「南だ。それ以上詳しい説明なんて俺らにはできねぇよ」

「そう」


 マリアは後ろを振り向いてそこでようやくアルフォードの顔色が悪いことに気づく。


「アル? 大丈夫? 顔が真っ青だよ」

「⋯⋯大丈夫だ。問題ない」

「大丈夫って顔じゃないって」

「大丈夫だ。こいつらは近くの街の衛兵に引き渡すぞ。戻ってる時間はないから次の街だな。確かここから馬で半日ほどだったはずだ。召喚を頼む」

「う、うん」


 これ以上何を言っても無駄だと悟ると手早く人数分のユニコーンを呼び出す。


「ごめん。できるだけ急いでくれる? 無理をさせることになっちゃうと思うけど⋯⋯」


 問題ないというように首を横に降るユニコーンたち。


「ごめんね」


 再度謝ると盗賊たちを片っ端から後ろ手に縛り、順番にユニコーンたちに乗せていった。人間たちが作業している間、暇だったベルは焼けてしまった森に悲しげな眼を向け地面に手をついた。


「『我は請い願う。この地に再生を《森林再生》』」


 何度も練習で口にした言葉は滑らかにベルの口から紡がれる。

 緑の光が地面に降り注いで瞬く間に芽が出てあっという間に木になり森が再生された。


「ヨシ」


 その出来栄えにベルは満足気に頷いた。


 盗賊を縛る作業の方は人数が人数だけにそれなりに時間がかかり、出発をしたのはそれから15分後のことだった。

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