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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第九章 夏季休業
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 翌日早朝、マリアとアルフォード、それにレリオンは和やかに会話しながら歩いていた。


「⋯⋯だからね、ウーノおじさんたちには本当に感謝しているの」

「素晴らしい御仁たちだの」


 いつの間にかマリアから敬語が取れていた。


「うん! それでギルガルドさんはね⋯⋯」


 今までに多少なりともお世話になった冒険者の話は続く。


「マリアちゃん、遅かったな⋯⋯って、なんで今日もそんな格好なんだよ⁉」


 昨日と同じくギルド内に入った瞬間に視線が集まる。その中には好機に満ちたものもかなりの割合で存在する。


「「あっ」」


 マリアは自分の淡い水色のワンピースを見下ろして落ち込む。アルフォードも似たりよったりの反応だ。


「しかも爺さんが増えてるし⋯⋯」


 ギルガルドは頭痛がするのか頭を押さえた。


「おじさん、大丈夫?」

「誰の所為だと思ってるんだ」


 ギルガルドにはもはや怒鳴る気力もないようだった。


「⋯⋯あれ? そういえば人が増えてないですか?」


 ギルガルドの後ろを見れば立っているのは2人ではなく3人。記憶違いだったかと首を傾げる。


「んっ? ああ、こいつは昨日話しているのを聞いていたみたいでな。旅の仲間に入れて欲しいんだと。一応マリアちゃんたちとは初対面じゃないらしいが⋯⋯」


 こいつと言われたのは20代後半ぐらいの青年。


「えっ?」


 よく見ればどこかで見た覚えがある顔に慌てて記憶を探る。


「⋯⋯すいません。どちら様でしょう?」


 だが名前までは出てこなかった。


「サウリだ。⋯⋯まさか忘れられてるとは思わなかった」


 少なからずショックを受けたのか声が暗い。


「⋯⋯見覚えはあったんですけど、名前が出てこなくて。サウリさん、サウリさん⋯⋯もしかして前に会ったのってブルメルの冒険者ギルドですか?」

「そうだ」

「思い出しました。確か素材の買取の時に話しかけて来られて⋯⋯」

「俺の目の前で絡んできたやつをあっさり倒してたな」

「だからあれは相手が弱かったんですってば」


 マリアは頬を膨らませる。


「⋯⋯本当に知り合いだったんだな」


 ギルガルドは半信半疑だったようだ。


「前に少し話した程度ですし、顔を見るまで、その⋯⋯忘れてましたけどね」

「⋯⋯そうか。可哀想に⋯⋯」


 ギルガルドは優しくサウリの肩を叩いて慰めた。


「王都に来たらまたすぐに会えるかと思ったらなかなか帰ってこないし⋯⋯」

「⋯⋯エイセルまで行ってたからどうしても時間が」

「帰ってきたと思っても俺がギルドに来る時間にはいつもいないし⋯⋯」

「王都に帰ってからは個人で簡単な依頼を受けていただけだし、普通よりも遅く来て早い時間には完了していたから⋯⋯」

「誰に話を訊いても嘘か本当かわからない返答しか返ってこないし⋯⋯」

「それは⋯⋯。って、そもそもなぜ王都に?」

「今そこに話を戻すのか⁉」


 今さら過ぎる疑問にサウリは目を剥いた。


 結局断わる理由もなく、サウリも旅の仲間に加わった。ちなみにギルガルドのパーティー、《氷雪の嵐》の2人──フェルトとダスケルは今回の話を聞くと即決で参加を決めた。

 斯くして、一見すると奇妙なメンバー構成と相成った。


「ところでその爺さんは誰なんだ?」


 話が一段落したところでようやくギルガルドが疑問の声を上げた。


「あっ、紹介するの忘れてた」

「⋯⋯おい」


 非難するような呆れたような視線がマリアに突き刺さる。


「⋯⋯うっかりしてたんです。サウリさんの所為ですよ」

「俺の所為かよ」


 誰からともなく溜息を吐くと、自然とレリオンに視線が集まる。そしてレリオンが口を開こうとした直前のことだった。


「⋯⋯すいません。ギルマスがお呼びです」


 言い辛そうにギルド職員が割って入ってきた。


「⋯⋯至急とのことで、申し訳ありません」


 ギルド職員は居心地が非常に悪そうだったが、それでも必死に自分の責務を全うしようとしていた。


「ギルマスの呼び出しって⋯⋯」

「嫌な予感しかしないな」

「そうだの」


 重い溜息を吐いたのはマリアとアルフォードとレリオン。


「「「⋯⋯」」」


 《氷雪の嵐》の3人は固まり、サウリは虚ろな目で何事かブツブツ呟いていた。


「おじさんたち、しっかりしてください」


 声をかけても反応がないので仕方なくアルフォードと手分けしてマリアは4人の手を引っ張ってギルド職員の案内に付いていった。


「待っていたよ」


 ギルガルドたち4人はギルマスに会うという緊張でガチガチだったが、その予想よりもかなり若い姿に拍子抜けしたように肩から力が抜けた。


「⋯⋯それでお呼びということですがそのような理由で? それも至急と」


 代表してアルフォードが尋ねると、レオナールの目に悪戯っ子のような光が宿る。


「えっ? 大物が来たら普通挨拶ぐらいするでしょ? 人としての礼儀だよ。呼びつける気はなかったんだけど、あのままだと普通にそのままお帰りになられそうだったしね。そのまま帰すと周りが煩いんだよ」


 大物? と首を傾げるギルガルドたち4人。マリアは青ざめ、アルフォードとレリオンは外見上は平静だった。

 そんな様子を見てニッコリと微笑むとレオナールは恭しくレリオンに頭を下げた。


「⋯⋯初めまして、私はここ王都の冒険者ギルドのギルドマスターを務めさせていただいております、レオナールと申します」


 レオナールの言動に何も知らない4人は目を瞬く。


「⋯⋯王家筆頭侍医のレリオン・シュタット前辺境伯様とお見受けします。このような場所まで足を運ばせてしまい申し訳ございません」


 レリオンは彫像になっている4人を見て気まずそうにしている。


「⋯⋯儂はどこにでもいるただの老いぼれだ。少なくとも今の儂はそのような大層な肩書など持っておらぬよ」


 言外にお忍びだったのだと非難する。


「⋯⋯レリーと気安く呼ばれるのが夢であったのだがな」


 もうそれは叶わないだろうと、そう言って思い溜息を吐く。


「それは申し訳ないことを⋯⋯」


 レオナールはそれしか言えなかった。


「なんでアル坊には普通に話して儂には敬語なのだ」


 レリオンの目には光るものがあった。


(⋯⋯レリオンさん、地雷が多いよ)


 固まるギルガルドたち4人と焦るレオナール、落ち込むレリオンに囲まれ、マリアとアルフォードは何もできることがなく、全員が元に戻るまで隅っこで小さくなっていた。

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