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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第八章 ベルジュラック公爵家
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※グロ注意

 最後はちょっとしんみりとした会話をしている間に、着々と2人の処刑の準備が進んでいた。


「⋯⋯アル、あれって何?」

「何って処刑器具だな」

「いや、それくらいは想像がつくから。私が訊きたいのは何であれだけ数があるのかってこと」


 マリアは次々と並べられていくその量に困惑していた。


「ああ、なんでもあいつは余罪が多すぎて処刑方法が決まらなかったらしい」

「⋯⋯普通は決まってるんだ」

「一口に死刑って言ってもその罪の大きさにどれだけ苦しむ処刑方法になるか変わるな。もう面倒くさいから本人に決めさせることにしたらしいぞ。あいつはプライドだけは馬鹿に高いからな。こんな大勢の前で簡単なやつなんて選べないだろうし、どれを選ぶか楽しみだ」

「⋯⋯楽しみって。アル、趣味が悪いよ」


 ようやく全ての設置が終わったのか国王が今アルフォードが言ったのと同じようなことを告げる。


「⋯⋯おそらく見たことがないだろうから説明しておく。どのようなものかわからなければ選ぶなど無理だろうからな」


 そう言って1つ1つ説明していく。よくこれだけ集めたと言いたくなるほど数が多く、説明するだけで10分以上かかる。マクシミリアンたちの顔色はどんどん悪くなる。


「⋯⋯圧死、焼死、凍死、溺死、餓死、感電死、轢死、斬殺、窒息死、撲殺、絞殺、好きなものを選べ。これなんか普段は魔力の使用量が多すぎて使っていないやつだぞ」


 国王は笑っていた。マクシミリアンを試すような目で見ながら。


「ああ、マジックアイテムじゃないのが良かったか? それだったらそのギロチンはどうだ? 苦痛は少ないらしいぞ」


 国王がそう言っている間、マリアはやけにフェリシーが大人しいことが気になり、よく見ようと必死に背伸びした。


「んっ? どうした?」

「⋯⋯フェリシーだっけ? なんか妙に大人しいなと思って。もっと暴れようとかしそうだと思ったんだけど⋯⋯」

「⋯⋯そういえばそうだな」

「私の身長じゃよく見えないんだけどね。アル、どう?」


 自分で見ることは諦め、アルフォードに丸投げする。


「⋯⋯えっ? 嘘だろ⋯⋯。いや、でもそうとしか⋯⋯」

「⋯⋯アル?」


 マリアが不思議そうにアルフォードを見上げるとアルフォードは何も言わずに脇の下に手を入れるようにしてマリアを抱き上げた。


「えっ? ちょっ⁉ アル!」

「⋯⋯言葉で説明するよりも自分で見た方が早い」


 マリアの狼狽には気がつかず、アルフォードはただ前を見ていた。


「⋯⋯早いって⋯⋯えっ?」


 マリアも少し落ち着いて前の方を見、そして固まった。


「⋯⋯これぐらいで気絶するって、軟弱過ぎない?」


 マリアはどこまでも辛辣だった。

 マクシミリアンは自身の矜持と怯えが心の中でせめぎあっていた。またフェリシーは気絶中と、2人とも自力で選択肢を選ぶことができず、時間がもったいないと国王が一番手っ取り早いだろうとマクシミリアンは醜く泣き喚きながらギロチンの元へと連れていかれた。フェリシーも近くに投げ出された


「良かったな。楽に死ねるぞ」


 マクシミリアンがギロチンにかけられる直前、そう言った国王の表情は思わず他の者たちがマクシミリアンに同情を覚えるほど恐ろしかった。


 上から大きな刃が落ち、首と胴体は容易く2つに分かたれた。切り口からは鮮やかな紅い血が溢れ、広場の石畳を染めた。転がった首には苦痛の色はなく、ただ恐怖だけが浮かんでいた。


「い、いや~!」


 飛んだ血が頬にかかり、その生温かさでようやく意識を取り戻したフェリシーは悲鳴を上げた。腰が抜けたのか広がる血溜が服の裾の方から赤黒く染め上げても距離を取ろうとさえしない。


「⋯⋯次はお前の番だな」


 国王が一歩フェリシーに近づくと、フェリシーはより一層恐怖で顔を歪めた。


「い、いや。な、なんでもするから止めて!」


 国王は目を細めると眼光鋭くフェリシーを見た。


「⋯⋯無駄だ。恨むならばその自分の父親を恨め」

「っ⁉」


 そのと言われ指されたマクシミリアンの青白い顔、その目と視線を合わせてしまい、フェリシーは声にならない叫びを上げた。


「⋯⋯国王様も性格が悪くない?」

「あれは表に出していないが、相当切れているぞ」

「えっ?」

「⋯⋯それだけ我慢がならなかったんじゃないか?」


 気が弱い者ならばとうに気を失っていそうな光景の中で、マリアとアルフォードの2人は場違いなほど和やかに話していた。


「⋯⋯そんなことよりも降りないのか?」

「えっ? なんで? そしたら見えないじゃない」


 地面に降ろされてたまるかと、マリアはアルフォードの首に腕を巻きつけ、抱き付いた。


「わかったからやめろ。少し苦しい」


 アルフォードが諦めるまでさほど時間がかからなかった。もっともその間にフェリシーは頭と体が離れていたのだが。


(⋯⋯なんか呆気ないな)


 マリアは何の感慨も抱かず、無表情でマクシミリアンとフェリシー、両者の死体を見ながらそんなことを思った。

 アルフォードにはマリアの何も見ていないような目に、今にもマリアの姿が霞んで消えてしまう錯覚に陥った。


「アル?」


 訝し気な声とともに不思議そうな眼差しで見上げられ、そこで初めてアルフォードはマリアの体を抱きしめていることに気づいた。


「⋯⋯大丈夫か?」

「えっ? 何が?」

「⋯⋯いや、なんでもない」


 そう答えながら、もう良いだろうとマリアをそっと下に降ろした。

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