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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第七章 それぞれの過ごす日々
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 どこかピリピリとした空気を残しながらも、スープが冷めてしまうと食べ始めた。


「⋯⋯2人とも味がわかっているのかな?」

「さあ?」

「どうだろうな」

「わかっていないんじゃないか?」


 エリザベートとアーティスは無表情でただ機械的にパンをちぎっては口に運んでいた。はっきり言って不気味だった。


「お待たせしました」


 そこへようやくメインがやってきた。


「美味しそう」

「あら、ありがとう」


 並べられたものは全員同じ、煮込みヒンビーゲ(ハンバーグ)だった。


「ほらエリザ、来たよ」


 目の前に皿が置かれた瞬間エリザベートの顔に表情が戻ってきた。


「⋯⋯美味しい」


 それがエリザベートが一口食べてから呟いた感想だった。顔は零れんばかりの満面の笑みになっている。


「ウフフ、良かったわ」

「⋯⋯レリーナさんの料理はどれも美味しいから」

「マリアちゃんにそう言ってもらえるなんて、おばちゃん嬉しいわ」


 レリーナははにかんだように笑った。


「⋯⋯私、事実を言っただけですよ? ねぇ?」

「うん! このヒンビーゲ、とっても美味しいよ」


 マリアに同意を求められ、リオナは満面の笑みで頷いた。


「⋯⋯マリア、ワタシ、ホシイ」


 ベルはマリアの頭をペチペチと叩いて催促した。


「はいはい。ちょっと待ってね」


 食い意地が張っているベルに苦笑いしながら、マリアはヒンビーゲ(ハンバーグ)をベルの小さな口に入る大きさに切り分けてやった。


「小皿がいるかい?」

「あっ、うん。ありがとう」


 レリーナが気をきかせて厨房から小皿を持ってきた。


「⋯⋯後これ、もし使うんだったら」


 その言葉とともに差し出されたのは楊枝だった。


「?」

「マリアちゃんがいちいち食べさせてあげるのも大変でしょう? これだったら使えるかと思って」


 レリーナは不敵に笑った。


「っ⁉ アリガトウ」


 マリアが何か返事をする前にベルが嬉しそうに受け取ってしまった。


「ウフフ、どういたしまして」


 喜びで胸が一杯でもお礼は忘れない。ベルはどこまでも礼儀正しかった。

 ベルはヒンビーゲ(ハンバーグ)が入った小皿を受け取るとさっそく適当に刺して食べた。


「オイシイ!」

「そう、良かったわ」


 ベルの声は自然と響き、皆顔を頬を緩めた。


「⋯⋯かわいいよなぁ」

「俺らの天使だ天使」


 中にはそれだけで幸せそうな者もいたという。


 そんなベルのすぐ傍では、アルフォードもアーティスも、声にこそは出さなかったが、顔を綻ばせながらヒンビーゲ(ハンバーグ)をそれはそれは美味しそうに食べていた。

 ちなみにグレンはというとただ1人いつもと変わらず黙々と食べていた。


「ううっ、良かったなぁ、女王様」

「ヒッグヒッグ、ああ」


 そんな食堂の片隅ではいい歳をした男たち──冒険者たちが目頭を押さえて涙していた。


「⋯⋯苦労していたんだな、女王様も」


 それはもちろん先ほどのヒンビーゲ(ハンバーグ)を食べたことがないという会話を聞いていたためである。

 この者たちにとってエリザベートが貴族か、それともまともな家庭料理すら口にすることが難しい、それこそスラム街のような超が付く貧乏人、どちらの出身だと問われれば迷いなく後者だと思われていた。


「⋯⋯後で労ってやろうぜ」

「ああ。ここの会計ぐらいだったら代わりに払ってやれるしな」


 誤解が独り歩きをし、エリザベートの株が勝手にどんどん上がっていた。


「⋯⋯待てよ。ってことはマリアちゃんも女王様程じゃないが貧しい出ってことか?ギルドに登録に来たのも一緒だったんだろう?」


 エリザベートの呼び名がいつの間にか『女王様』になっていることに誰も突っ込まない。


「っ⁉ ⋯⋯そうなるな。ってことはあの歳で冒険者をしているのも⋯⋯」

「⋯⋯生活のためか」


 マリアたちの方を見る目が何か痛ましいものを見るものになった。


「⋯⋯ルアンたちと知り合いなのもその関係か? ほら、Cランクのウーノっていう、困っている奴を見ると放っておけない奴が友達なんだろ?」

「⋯⋯だろうな。お人好しだしな、あいつ」


 僅かにルアンとレリーナの株が、そしてここにはいないウーノの株が急上昇する。

 ウーノの冒険者の間での評判は決して悪いものではない。むしろ良い部類に入る。だがそれは決してウーノが冒険者として腕が立つからというわけではない。悪いわけでもなくCランク冒険者としては平均的。それがギルドのウーノに対する評価だった。

 ではなぜ評判が良いのか。それはウーノの面倒見の良さにあった。ウーノはよく好んで新人冒険者と共に依頼を受けていた。そして冒険者として知っておくべき野営の仕方や簡単な武器の扱いなど、最低限の知識を教え込んでいた。

 中には当時それを鬱陶しがっていた者もいたが、数年の月日が経つにつれてその知識がどれだけ大切なものであったかを理解し、今では恩義を感じている者も少なくはない。極々少数だがすでにウーノのランクよりも上のランクになっている者もいる。

 新人──低ランクの者と共に依頼を受けるということは、然程ランクの高い依頼を受けられるわけではない。時には生活が苦しい時もあったが、そんな時はさり気なく高ランクとなった者たちがさり気なく臨時パーティーに誘うなどして助けていた。

 やがてはそんなウーノの姿をまねて新人を助ける冒険者たちも出てくるのだがそれはまだ先の話。


「⋯⋯リオナやグレンも似たようなものだろうな。過去の自分と重ねて放っておけなかったんだろう」

「⋯⋯マリアちゃん優しいからな」


 こうして多大な誤解(極々僅かに真実を含む)を周囲にばら撒き、昼食は終わった。

これで7章は終了です。次回から8章に入ります。

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