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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第七章 それぞれの過ごす日々
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 明朝未明、グレンとアーティスはまだ眠い目を擦ってギルドまでの道を歩いていた。


「⋯⋯で、一瞬固まっちゃったんだよ」

「⋯⋯そうか」


 アーティスはグレンに昨日の夕食の愚痴を言っていた。


「⋯⋯良い材料を使ったからって必ずしも美味しいってわけじゃないってよくわかったよ。それにあれは⋯⋯食材への冒涜だよ」

「⋯⋯そうか」


 先ほどからグレンはそうかとしか言っていない。だがアーティスはそのことに気づいていなかった。


 アーティスが一方的にまくし立て話がループすること4度、ようやくギルドが見えてきた。


「⋯⋯そうか、そうだよな」


 グレンはすでに相手にするのが面倒くさくなってきていた。


「あっ、やっと来ましたね⁉」


 ルーシーは怒り心頭だった。


「なんで昨日のうちに来なかったんですか⁉私待っていたんですよ!」

「あ~、ごめんなさい。でもだいぶ遅い時間だったしね」

「⋯⋯腹もなっていたよな?」

「⋯⋯グレン、余計なことは言わなくて良い。それにあれは昼食を忘れる兄さんたちが悪いんだ」


 アーティスはグレンの頭を軽く小突いた。


「いてっ、何すんだよ⁉」

「あら、お兄さんがおられるんですか?」

「はい、3人ほど」


 グレンの抗議はあっさり無視された。


「アーティス君のお兄さん方だと皆礼儀正しそうね」

「アハハ、そんなことないですよ」


 アーティスの脳裏には1人の顔が浮かび上がっていた。


(アーノルド兄さんは礼儀正しいなんて、とても言えないよな。あれで礼儀正しいって言うんだったら、冒険者の大多数が礼儀正しいってことになっちゃう。⋯⋯よし、ルーシーさんには黙っておこう)


 アーティスは固く決意した。ルーシーの夢を壊してはいけないと。


「⋯⋯今日もあまり時間がないので、早く報酬を貰えますか?」

「んっ? ああ、ごめんなさいね」


 ルーシーは慌てて手元の書類を捲った。


「えっと、依頼達成料が金貨1枚。これは頭割りって話だから1人大銀貨2枚ですね。それとは別に討伐料が1羽大銀貨1枚。素材として魔石が1個大銀貨2枚、羽が1羽分で大銀貨3枚。肉が1キル大銀貨1枚、全部で10キルあったので金貨1枚ですね。合計で2人分合わせてえっと、金貨4枚に大銀貨4枚です」

「⋯⋯あれ、素材買取分とかは全部僕たちが貰っちゃって良いのか?」

「はい。デリーさんたちは自分たちは何もできていないから達成料の一部を貰えば十分だと受け取りを辞退されましたので」

「⋯⋯そうですか」


 デリーたちが要らないと言うのならありがたく貰っておくことにした。


「報酬はいつも通り半分ずつギルドカードに入れてください」


◇◆◇


 その少し後、2人の姿はグランファルト子爵家の前にあった。


「お待ちしておりました」


 恭しく頭を下げ、2人を迎え入れたのは髪を整え、服装を改めたレーリルだった。かっちり着こなされた執事服には1つの皺もなく隙がなかった。


「皆様はすでに食堂に揃っておられます」

「ありがとう」


 簡単に礼を言うとグレンを伴なって食堂に向かった。


 食堂に集まっている理由。それは単純に屋敷内で1番大きな部屋だからだ。他に使用人を含めて10数名が集まれる部屋などなかったのだ。否、ただ集合するだけという意味では全員が入れる部屋は存在する。だが全員が座って、それもメモを取る必要があることを考えるときつかった。


 レーリルは早足で、だがどこか優雅さを感じさせる歩きで2人の後を追った。


「それではこれより第二回グランファルト子爵家改革会議を始める。皆遠慮せず発言するように」


 アーティス、グレン、そしてレーリルが席に着くとギルゲルムはそう宣言した。


「⋯⋯今日の最初の議題はあの馬鹿、ヒエロニムをどうするかだ。私はあいつは馬車馬のように働かせるのが良いと思う」


 その言葉に周りは騒めいた。少なくとも実の父親に言うことではない。


「あの、馬車馬のようにとおっしゃられますと、具体的にはどのような?」


 恐る恐るそう質問したのはこの中では比較的若い青年だった。


「⋯⋯そうだな。そもそもの前提条件としておそらくあいつは政治犯扱いになるだろう。そうなると犯罪奴隷に落とされる。つまり隷属契約で縛られるだけだ。そこを利用しようと思う」

「と言いますと?」


 ギルゲルムはそこでニヤリと笑った。


「領地の開発にあいつの魔術を利用しようと思う。あいつの属性は風と木、開発には最適だからな」

「⋯⋯毎日限界まで魔術を使わせると?」

「ああ」


 そんな話を聞きながらグレンは思う。


(⋯⋯僕、ここにいて良いのか? はっきり言って関係ない気がするぞ)


 グレンは帰りたかった。


「⋯⋯それでは他に意見がある者はいるか?」


 そんなグレンの思いは露知らず、会議は進んでいく。


「⋯⋯私は先ほどの領地の開発に加え、魔力が尽きた後に肉体労働をさせるのが良いと愚考いたしますが」


 レーリルの案はさらに酷かった。仮にも元は雇い主だったというのに⋯⋯。


「おお、それは良いな。あいつの魔力量は平均とそう変わらないからな。他にあるか?」


 そしてすぐにその案を採用する他の者たちも。


「ないようなのでこれで採決に入る。あいつを馬車馬のように働かせる。具体的には魔力が尽きるまでは魔術で、尽きた後は肉体労働で領地の開発をしてもらう。反対の者はいるか?」


 誰も手を挙げなかった。


「いないようなのでこれで決定する。続いて次の議題は──」


 会議は続いていく。ヒエロニムの処分などここにいる者たちにとっては数ある議題の中の1つ。それも比較的簡単に決まる部類のものでしかなかった。

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