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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第七章 それぞれの過ごす日々
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「失礼しま⋯⋯えっ?」


 アーティスはアーノルドに続いて案内された部屋に入り、そして国王の姿を捉え固まった。


「アーティス、入り口を塞ぐな。邪魔だ」


 グレンを自分の従者として連れてきたにも関わらず、普段と態度も口調も同じことに気づくことはなかった。本来ならばこの数日間の努力が無駄だったことに嘆いていたことであろう。


「⋯⋯この空気は何ですか?」


 ようやく落ち着きを取り戻し改めて部屋の様子を見れば、室内はおかしな空気が流れていた。なぜだか国王が怯えている。ギルゲルムは普段と変わらない。


「⋯⋯交渉が纏まったところだ」


 国王の内心は穏やかではなかった。どんな者たちが来るのかと気が気ではなかった。だが、アーティスがアルフォードから聞いていた話の通りの人物であろうことはすぐにわかった。しかし問題は──。


「⋯⋯ギルゲルム、なかなか個性的だな、お前の弟は」

「⋯⋯褒め言葉として受け取っておきます」


 アーノルドは落ち着きなくキョロキョロと室内を見回していた。

 ギルゲルムの微笑みは僅かに引きつっていた。


(これはあとでガルティスに頼んで説教だな)


 ギルゲルムは脳内メモのガルティスに頼むことリストに追加した。


「アーティス、そっちはどうだった?」

「⋯⋯断られました。どうもうちに関してあまり良く思っていないようで」

「⋯⋯仕方ないさ。それぐらい想定内だしね」


 ギルゲルムはアーティスに笑いかけたが、それはどこか寂しげだった。


「⋯⋯でも当主が代われば検討すると言質は取りましたから」

「⋯⋯そうか」


 そのやり取りは国王にはとても微笑ましく思えた。


(うちはとても仲が良いとは言えないからな)


 ランフォードは何よりも自分を優先し、協調性というものがなかった。ジョージアは貴族たちの体に良い傀儡。自分でものを考えようとせず、貴族たちに吹き込まれたことをすべて真実として鵜呑みにしてきた。唯一リオンとアルデヒドの仲だけは良好だったが、リオンが亡くなってからはそのような光景を目にする機会はなかった。


「⋯⋯アーティスといったか?」

「は、はい!」


 何の前触れもなく名を呼ばれ、体を固くした。


「お前の話は常々聞いている。今の│えにしを大事にしろ」


 誰からは言われなくてもわかった。


「⋯⋯はい」


 グレンはその言葉に少し羨ましそうだった。


(僕は⋯⋯家族の縁なんてないからな)


 今さら悲しいとは思わないが、こういった時だけ少し虚しくなった。


「グレン、とはお前のことだろう?」


 不意に話しかけられ、グレンは少し俯いていた顔を勢いよく上げた。

 国王は優し気に微笑んで言った。


「⋯⋯お前のことも話は少しだが聞いている。今周りにいる者を大事にしなさい」


 その言葉はグレンの心に強く響いた。


「はい」


 今は1人ではない。そのことを思い出させてくれた。

 グレンの目には僅かに涙が溜まっていた。


(⋯⋯あの子何者だ?)


 グレンについて何の予備知識のなかったギルゲルムの中で、謎が深まっていった。なお、アーノルドは特に気にしてはいなかった。その辺りに性格の差が出ている。


 その後軽く国王と世間話をした後、アーティスたちは城を辞した。


「⋯⋯で、その子は何者だ?」

「えっ?」


 屋敷までの道中、丁度全体の三分の一ほどを歩いたところで不意にギルゲルムはグレンを指し示しながらそう尋ねた。


「いや、僕はその子とは初対面だろ?」

「⋯⋯あっ」


 言われて初めて兄たちにグレンを紹介していないことに気がついた。


「ごめんなさい。忘れたてた。こいつはグレン。今冒険者として活動している時に同じパーティーを組んでいる」

「初めまして、グレンです」


 グレンはにこやかに微笑んで頭を下げた。


「⋯⋯グレン、今さら猫を被っても遅いぞ」


 アーティスのその言葉にギルゲルムは吹き出しそうになった。


「⋯⋯ご丁寧にどうも。改めまして、僕はアーティスの長兄、ギルゲルム・グランファルトだ。無理に丁寧な言葉を使わなくても別にいつも通りで構わない。で、そっちのとても貴族には見えない行動をしているのが三男のアーノルドだ」


 ギルゲルムは馬の手綱を引いて歩きながら、馬にちょっかいをかけているアーノルドを何とも言えない顔で見た。


「⋯⋯そうか。よろしくな」


 グレンも視線を追ってその姿を見たが、無視することを決め、視線を逸らした。アーティスは溜息を吐いている。


 屋敷に着くとすでにガルティスは戻っていた。


「⋯⋯思ったよりも集まったな」


 ギルゲルムのその言葉通り、屋敷に入ってすぐの玄関ホールにはガルティスの他に10数人の男女がいた。誰もが奇麗とは言えない服で、そこがちぐはぐな印象を与える。


「思ったよりも僕らに好意的な人が多かったからね」

「⋯⋯あっちの殺気立っているやつらは何だ?」


 ギルゲルムはレーリルを筆頭とした比較的年配の者たちの殺気に頬を引きつらせた。


「ああ、父上に一発入れたいらしいよ」


 一発で済ませるなんて優しいよねと、ガルティスは笑った。


「⋯⋯そうか」


 ギルゲルムの頭には一発で済むのかという懸念が頭を擡げていた。


「⋯⋯流石に殺されそうになったら止めるよ?」


 その言葉にホッとした。だが──。


「⋯⋯だって父上には今までの行いの分を馬車馬のように働いて返して貰わなきゃいけないからね」


 にこやかに続いた言葉に固まった。


(父上⋯⋯これもあなたが悪いんです。自分の行いを心から反省されれば助けて差し上げますから⋯⋯)


 そっと心の中で両手を合わせた。だがヒエロニムが自らの行いを悔いることがないだろうと、どこか確信めいた予感があった。

次回は水曜日更新予定です。

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