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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第七章 それぞれの過ごす日々
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 一方その頃、ギルゲルムは王城の片隅にある部屋にいた。

 城の中の部屋にしてはこじんまりとしており、置かれている調度品はどれも装飾が少なく、落ち着いた空間になっている。テーブルの上には中身の入ったティーカップが置かれているが、ほとんど減っておらず、すでに冷めてしまっていた。


「待たせたな」


 丁度今ギルゲルムの前に座ったのはこの国の王だった。後ろには近衛騎士が1人控えている。


「いえ、時間をとってくださりありがとうございます」

「気にするな。他ならぬお前の頼みだからな」

「えっ?」


 ギルゲルムは目を瞬いた。


「⋯⋯正確にはお前があやつの兄だからだがな」


 国王は少し悪戯っぽく笑っていた。


「⋯⋯あやつとはガルティスのことでしょうか?」

「いや」

「それではアーノルド?」

「いや。アーティスという者だ。直接話したことはないが、間接的には色々と話を聞いている」

「⋯⋯そうですか」


 表面上は何も変わらないが、ギルゲルムは内心で悲鳴を上げていた。


(国王様に名前を覚えられてるって、アーティス! お前何をやったんだよ⁉)


 ギルゲルムにとってせめてもの救いは、色々という内容が悪いものではなさそうなことだけだった。だがそれも、動揺を表に出さない程度の助けにしかならなかった。


「⋯⋯それでわざわざ私を呼び出して、どのような用件だ?」


 その言葉でギルゲルムはアーティス関連のことを頭から追い出した。それと同時に気を落ち着けるため軽く深呼吸した後口を開いた。


「⋯⋯我が父、ヒエロニム・グランファルトの子爵位剥奪を請いに」

「⋯⋯ほぅ。それはなぜだ? 正当な理由が必要だぞ」


 ギルゲルムはチラリと近衛騎士を伺い見た。


「⋯⋯我が家の恥を晒すことになるのですが」


 国王は鷹揚に頷いた。


「この者が気になるのならば心配はない。口は固いからな。そうであろう? ジェローム」

「はい、勿論です」


 その名を聞いてギルゲルムは目を見開いた。


「⋯⋯ジェローム・クールセル将軍」


 ジェロームはそれはそれは楽しそうに笑った。


「正解です」

「⋯⋯聞いていたイメージと違っていて驚きました」

「⋯⋯将軍として前に出るときは、将軍らしく見えるよう振る舞っていますから。こちらが本来の私です」


 ジェロームはそう説明した。


「⋯⋯それでジェロームが同席することは構わぬか?」

「はい」


 ギルゲルムは短く返答すると、アイテムボックスからいくつかの書類を取り出した。


「まずはこれをご覧ください」

「⋯⋯これは?」

「グランファルト子爵領の現在の状況を纏めたものです」


 そこには領民の人口から始まり、各世帯の平均収入、職業別人口、冒険者のおおよその数とそのランク、農作物の収穫量等々、基本的なものからどうやって調べたんだというようなものまで、グランファルト子爵領の情報が事細かに並んでいた。


「⋯⋯この情報はどうやって?」

「秘密です。非合法的なこと、倫理に反することは行っていないとだけ言っておきます」


 国王の驚いた顔で多少落ち着いたのか、ギルゲルムは微笑んで答えた。


「⋯⋯そうか」

「⋯⋯話を戻しますね。領地全体で言えば農作物の収穫量は農耕地の面積を考慮し、国内の平均と比べると約1,2倍です」

「⋯⋯待て、こちらに書いてある平均収入は国内平均以下だぞ。あり得ん」


 国王は目を見開き、慌てて言われた項目を見比べた。


「⋯⋯その理由ですが⋯⋯こちらがグランファルト子爵領の税率になります」


 税についてだけ分けて纏めていた紙を国王の前に出した。


「⋯⋯税が収穫量の9割だと⁉」


 そこに書かれていた数字を見た瞬間国王の驚愕の叫びを上げた。


「あっ、すいません。こちらが税率です」


 ギルゲルムは慌てて別の書類を出した。そこには収穫量の7割と、先ほどのものよりは大分ましだが、平均よりもかなりまだ高い数字が書かれていた。


「待て、それではここに書かれている数字は何だ?」

「⋯⋯後にお渡したのが昨年の表向きの税、そして先にお渡ししたのが昨年のグランファルト子爵が出した税の草案になります」


 その言葉に国王もジェロームも絶句した。


「⋯⋯こんなに搾り取っては領民がまともに生活できぬぞ。⋯⋯待てよ、表向きのと言ったな。それはどういう意味だ?」


 ギルゲルムはニヤリと笑った。


「⋯⋯こちらが実際の税率になります」


 その言葉とともに出された紙には平均よりも少し多い5割と書かれていた。


「⋯⋯どういうことだ?」


 国王のギルゲルムを見る目が剣呑なものになった。


「⋯⋯グランファルト子爵はあまり勉学の類が得意ではあられませんから」


 ギルゲルムは満面の笑みを浮かべていた。


「⋯⋯率直に申せ」

「⋯⋯収穫物の品目別に書類を分けて、その数値で持っていったところ満足そうに判を押されました。大方、税が平均よりも多いことで満足したのでしょう」

「⋯⋯流石に気づくのではないか?」


 国王の後ろではジェロームが首を縦に振っていた。


「⋯⋯ですが気づきませんでしたよ?グランファルト子爵はそういう男です。領主として統治する上でそれは致命的かと」

「⋯⋯よく今まで持ちこたえたな」


 国王は呆れたように呟いた。


「⋯⋯10数年前までは優秀な臣下がいましたから」

「今はどこに?」

「⋯⋯機嫌を害して屋敷から追い出されました。当時の者で残っている者はもういませんね。それからは私がそれとなく⋯⋯」


 ギルゲルムは曖昧な微笑みで誤魔化した。


「そうか⋯⋯」


 国王のギルゲルムを見る目は憐れみで満ちていた。


「⋯⋯弟たちも何かと助けてくれましたし、それほど大変でもなかったですよ」

次回は木曜日に更新予定です。

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