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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第七章 それぞれの過ごす日々
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 およそ5分後、3人は王都の門、それも貴族用の門の前にいた。


「はぁ? 通せねぇってどういうことだよ⁉」


 アーノルドは兵士に門を通してもらえず切れていた。


「ですから、身なりはともかくあなたの言動はとても貴族の方のものとは思えません。その指輪の紋章も本物かどうかも疑わしいですしね。連れの方に至ってはどこからどう見ても普通の冒険者ですし」


 兵士は3度目となる説明を繰り返した。


「あぁ? どこに俺が貴族じゃない、グランファルト子爵家の人間じゃないっていう証拠があんだよ。言いがかりじゃねぇか」


 完全にどこらのチンピラのセリフだった。アーティスもグレンも呆れた表情でアーノルドを見ている。


「で、ですから本人確認ができないのでここは通せないんです」


 怯えながらも仕事を放棄しないあたり、この兵士は兵士の鑑だと言えよう。


「だからごちゃごちゃ言ってねぇで通せっつってんだろうが!」


 2人の会話は堂々巡りだった。


「そんなに王都に入りたいんでしたら一般の門に行ってください!」


 兵士はもう涙目だった。


「おい! 何を騒いでいるんだ⁉」

「あっ、先輩」


 兵士の目が輝いた。そのまま手招きされるまま兵士は先輩兵士に近寄った。


「この人が門を通りたいといってるんですが⋯⋯」

「身分証は確認したんだろ? だったら何で言い争いなんかしているんだ?」


 身分証を持っていないのなら力強くで追い返せば良いだけだ。


「き、貴族の紋章が入った指輪は持っていたんですが、その、言動が少し⋯⋯」


 兵士は言い辛そうに言葉を濁した。

 先輩兵士は少し考え込んだ。


「⋯⋯どこの家の方かは伺ったのか?」

「あっ、はい。グランファルト子爵家と言ってました」

「⋯⋯やはりか」

「えっ?」


 先輩兵士が小さく呟いた言葉は兵士の耳にはハッキリと届かなかった。


「いや、フルネームは伺ったか?」

「えっ? いえ」


 先輩兵士は大きく溜息を吐いた。


「⋯⋯おそらくアーノルド・グランファルト様だな。少し前に通行したという報告があった」

「えっ?」


 兵士は言われたことが理解できなかった。


「⋯⋯報告書を読むのは常識だろう? 読んでなかったのか?」

「⋯⋯」


 兵士は俯いていた。目は絶望の色が浮かんでいた。

 先輩兵士は兵士の横を通り、アーノルドたち3人の身元を確認すると深く頭を下げた。


「⋯⋯あの者は新人でして。後できつく言い含めておきますので」

「⋯⋯別にいつものことだから気にしていない。通してくれるんだろ?」


 アーノルドの言葉は平坦で、感情が読み取れなかった。


「えっ、ええ、勿論です」


 結局3人が門を通るまでに5分以上も時間がかかってしまっていた。


「⋯⋯想定外に時間がかかってしまったから飛ばすぞ!」

「えっ?」


 王都内では有事の際を除き、馬車馬以外の馬の走行を禁じている。これは通行人の安全のためだ。


「馬はどうするんだ?」

「⋯⋯」


 アーノルドは固まった。


「⋯⋯まさか忘れていたのか?」

「⋯⋯」


 何よりもその沈黙がその推測が正解だと語っていた。

 アーティスは呆れた顔でアーノルドを見た。


「⋯⋯兄さんってなんで勉強はできるのに日常生活関連のことではこんなに抜けてるんだよ」

「⋯⋯」


 アーノルドは否定も何もしなかった。否、事実だけに否定できなかった。

 アーティスは溜息を吐くと歩き出した。


「ここで止まっていたってしょうがないし行くよ」


 アーティスはアーノルドの腕を引っ張って行った。グレンに馬を連れてついて来るよう目で指示を出すことも忘れない。

 ただそれは傍から見ればどこぞの貴族、あるいは大商人の子息が冒険者に絡まれ、連れ去られるようにしか見えなかった。すなわち──。


「おい! お前何をしてるんだ⁉ その人を放せ!」


 勘違いする者がいることも必然と言えた。


「⋯⋯えっ?」


 丁度近くを歩いていた正義感溢れる冒険者に抜き身の剣を向けられ、アーティスは困惑した。アーノルドも固まっている。


「いいから放せっつってんだよ!」


 上段切りで腕に切りかかられ、アーティスは慌ててアーノルドを放し、腕を引いた。


「うおっ⁉」


 剣はアーティスのローブの袖を掠り、先ほどまでアーティスの腕があった空間を通り過ぎた。


「チッ」


 冒険者はそのままアーティスとアーノルドの間にアーノルドを庇うようにしながら割り込みつつ、返す力で再びアーティスに下から切りかかった。


「何なんだよ⁉」


 それを後ろに跳ぶことで避ける。だが、僅かにバランスを崩してしまった。


「うるさい! 黙れ! 人攫い!」

「酷い言いがかりだ!」


 さらに追い打ちをかけるように横薙ぎに振るわれ、それをしゃがむことで躱しながら叫び返した。

 そこに容赦なく蹴りが放たれる。


「うわっ⁉」


 咄嗟に横に転がることで除けるがそこを読んでいたのか上から剣が振り下ろされ──。


ガキン


 甲高い金属同士がぶつかる音が響いた。


「あっぶねぇ。大丈夫か? アーティス」

「ああ、助かった」


 いつの間にかすぐ傍にはグレンがいて、手に槍を握っていた。その刃は冒険者の剣を止めている。


「俺の身内に何してくれてんだ⁉」


 ようやく我に帰ったアーノルドが後ろから冒険者の頭に拳を振り下ろして騒ぎは終結した。

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