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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第一章 入学と第二王子
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 マリアたちがいつものように授業を受けているといきなり教室のドアが開いた。


「えっ?」

「マリアとかいう平民はどいつだ?」


 いきなり現れた青年は教室を見回すとそう聞いた。

 勿論この青年は第二王子、ランフォードである。

 ただ、誰もその質問に答えず、教室は静寂に包まれた。


「聞こえなかったのか? マリアはどいつだ」


 機嫌が更に悪くなったのか苛立たし気に繰り返した。


「そ、そいつです」


 クラスメートの一人が声を震わせながらマリアを指した。


「お前がマリアか。一体どんな手を使った!」


 ランフォードはマリアの前まで来るとそう言ったが、マリアは突然のことに唖然としており、固まっていた。


「答えろ! どんな手を使ったのかと聞いているのだ!」


 教室内の人間はその様子をある者は面白そうに、ある者は顔を真っ青にして見守っていた。

 再度怒鳴られたことでマリアはようやく復帰した。


「ど、どんな手って一体何のことですか?」

「とぼけるんじゃない!」

「そ、そんなことを言われても本当に何のことかわからないです」


 マリアは涙目になっていた。

 マリアが何のことかわからないのは本当のことだ。ランフォードは気づいていないようだが、マリアには名乗っていない。無論、平民であるマリアが第二王子の顔を知っているわけがないのだ。マリアは大体正体が想像できたが、確信できるほどではなかった。

 そもそもの前提条件として、この件の黒幕が第二王子だと知っていなければならないということもある。平民のマリアが知りえるはずがないのだが、そのことにも気づいていない。


「そもそもあなたはどなたです?」


 マリアに聞かれてやっと自分が名乗っていないことに気がついたようだ。


「私はこの国の第二王子、ランフォード・エルドラントだ」


 自分の名前と顔を知らないのが可笑しいと言わんばかりのドヤ顔だ。


「それで、その第二王子様が高々一庶民である私に一体何の用です? 先ほど質問された内容に心当たりはおろか、第二王子様が尋ねて来ることが思い当たらないのですが⋯⋯」


 第二王子と言われたことで少し動揺したが、それだけだった。


「そ、それは⋯⋯」


 ようやく前提条件が当てはまらないことに気づいたランフォードは言葉に詰まった。


「用がないのでしたら教室から出て行って貰えますか? 授業中ですので」


 成行きを見守っていたパトリオットに言われ、ランフォードは舌打ちをすると教室から出て行った。


「うちの王子がすみません」


 ランフォードの執事であろう初老の男性が頭を下げるとランフォードを追いかけて行った。その時にアルフォードを見て僅かだが驚いた顔をしていたがそのことに気づいたのはアルフォードとマリアだけだった。

 ランフォードが去ると、何事もなかったように授業は再開された。


「あの様子だと多分また来るよね?」

「ああ、おそらくな」


 その日の夜、マリアとアルフォードは寮の裏で話していた。手紙だと時間が掛かりすぎると判断したためだ。

 ここはアルフォードが数日前に発見し、人が来ないことも確認済みだ。おまけにこちら側には窓がないので人に見られる心配はない。


「数回程度だったらなんとかなるかもしれないけど、何回も来られると⋯⋯授業中とかは他の人たちの迷惑にもなるし⋯⋯」

「できれば来なくなるようにするのが望ましい、か。あの性格だと来るたびに追求が厳しくなりそうだし、誤魔化すにしても限界がある。それに、いつ他の人の口から僕の名前が出るかわからないしね。マリアが何も言わないとわかるとクラスメートに矛先が向かうだろうし⋯⋯」

「あの手紙はアル名義だもんね。でもどうやればあいつが来なくなると思う? あいつに命令できるのは王様ぐらいだし、無理な気がするんだけど⋯⋯」

「それだ!」


 マリアはアルフォードに肩を掴まれて目を白黒させた。


「えっ?」

「王に止めるようにお願いすれば良いんだ」

「えっ? でも王様にはそう簡単には会えないでしょ?それに会えたとしても私たちのお願いなんかを聞いてくれるとはとても思えないし⋯⋯」


 マリアが至極もっともなことを言ったがアルフォードには聞こえていないようだ。


「さっそく今度の週末に謁見に行こう!」

「いや、だから王様には簡単に会えないでしょ?」

「大丈夫だよ! 僕が話を通すから」


 力強く断言した。


「そ、それに私は綺麗な洋服なんて持っていないし⋯⋯」


 このままでは週末に城まで連れていかれると悟ったマリアは必死に抵抗を試みた。


「服ぐらい気にしなくて良いのに⋯⋯。そんなに気になるなら用意するけど?」

「だ、大丈夫よ。アルに要らないお金を使わせちゃ悪いもの」

「でも、服装が気になるんでしょ?気にしなくて良いよ。服なんて高いものでもないしね」

「う、うん」


 マリアは必死に頭を働かせた。


(謁見をするのは決定事項⋯⋯。洋服がダメなら⋯⋯)


「で、でも私言葉遣いとかちゃんとしていないし⋯⋯」

「マリアの年齢ならそれぐらいちゃんとしていれば大丈夫だよ」


 マリアの必死の抵抗も無駄のようだった。

 こうしてマリアの今週末の予定は王様への謁見に決定した。

 方向性が決まったところで週末までの対策に話は変わった。


「週末まではどうする?」

「う~ん、臨機応変に対応していくしかないよね?」

「そうだね。できるだけ教室から追い出すようにして頑張るしかないか」


 今後の方針が決まったところで週末の集合時間と場所を決めて二人は別れた。

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