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あれから何事もなく更に3日が経過した。そしてほかの生徒たちも相変わらず学園に来なかった。
今日は星の日、いわゆる休日である。一部の職種を除き、たいていの人は休みだ。そしてそれは学園も例外ではない。
曜日について簡単に説明しておくと、月の日、火の日、水の日、木の日、風の日、星の日があり、月の日、星の日が休日にあたる。1週間は6日で1か月は5週間、1年が12か月。つまり、1年が360日となる。なお、学園などでの特別な催し物は月の日にやるのが一般的だ。
マリアは相変わらず休日にも関わらず学園の外に出ることが出来なかった。かといって暇というわけではない。
(あっ! お昼どうしよう⋯⋯)
休日だけあって食事は朝晩しか用意されない。
(とりあえず後で考えればいいか)
マリアはかなり楽天的だった。
(とにかく今はこれに集中しないと)
マリアは手元に目を落とすと作業に集中した。
コンコン
どれくらい時間が経っただろう。マリアは部屋をノックする音で我に返った。頼まれていたことは最低限はもう終わっている。
「はい」
「僕だけど入ってもいい? お昼を食べていないだろ?」
マリアは慌ててドアを開けた。
廊下には案の定アルフォードがいた。
「ちょっ!? 誰かに見られたらどうするのよ!」
部屋に入れてから小さな声で怒鳴った。
「大丈夫だ。それぐらい確認してある。近くに人はいないよ」
「ならいいんだけど⋯⋯。って!?そんな問題じゃないの!」
アルフォードはそれから暫くマリアに説教されたという。傍から見ればかなりシュールな光景だったと思う。これではどちらが年上かわからない。
「それよりも頼んどいたのは終わった?」
「一応は」
マリアはさっきまで書いていた紙をアルフォードに渡した。
「ありがとう。予想以上の出来だよ」
アルフォードは昼食だけ置いて紙を手に帰って行った。
「あっ! 食器!」
「また後で取りに来る」
アルフォードが持って来たのはサンドウィッチだった。種類こそ少なかったがどれも美味しかった。
マリアは食べ終わるとまた机に向かってさっきの続きを書き始めた。この結果がわかるのは週明けだ。
次の日もマリアは同じ作業を続けた。昼食の問題は夕飯の時にお昼も作って貰えるように頼むことで解決した。しかしお昼にまたアルフォードの乱入があり、マリアは説教をした。そんなこんなで休日は過ぎていった。
次の日、マリアが教室に行くと教室にはすでに3人の人間がいた。
マリアが席につくとそれに気づいた3人がひそひそと話し始めた。本人たちは聞こえていないと思っているようだが、しっかりとマリアの耳に届いている。
話している内容は概ね想像通りだった。
午前の授業が終わって昼休み、食堂でお昼を食べに行くとちらほら人の姿があるのに気づいた。
(結構あれだけで効果があったみたいね)
マリアが行ったことは簡単だ。一言で言えば手紙をひたすら書いただけだ。それをアルフォード名義で出した。その結果がこれだ。
手紙の中身はかなり遠回しで長ったらしかったので詳細は割愛するが、学園に来なければどうなっても知らないぞ、という脅しだ。それだけで何人も学園に来るようになるのだから凄い。
マリアはその事実に気づいていないが、普通の貴族が脅したぐらいで第二王子に脅されている貴族が出てくるはずがないのだ。
ちなみに昨日、一昨日と手紙を書きまくったマリアの書くスピードは大分速くなっていた。
マリアはその日の夜も部屋でせっせと手紙を書いた。それはその週一杯続いた。
その週、学園に来るようになった生徒、教職員は日を増すごとに増えていった。
生徒や先生たちが学園に戻ってきてから少しした頃、学園の門の前に豪華絢爛な馬車が止まった。中から降りてきたのはあの第二王子だった。その顔は怒りで真っ赤だ。
第二王子は今年で23歳になるが、我儘王子と人々に呼ばれている。
この国──エルドラント王国には4人の王子と2人の王女がいる。その中でも一番国民に人気がないのが第二王子──ランフォード・エルドラントだ。
この王子、一言でいえば自己中なのだ。自分のしたいことを思う存分にするために自分の領地に重税を掛けているらしい。その税率は通常の10倍とも言われている。しかもそれでもお金が足りないとなると更に税を上げるという始末だ。人気がないのも納得だろう。ただ、一部の貴族には人気がある。
それに対して国民に人気なのが第四王子──アルデヒド・エルドラントだ。人気の理由は他の領に比べ税金が安いことと王族らしからぬ平民に対する差別意識がないことだ。ただ、身体が弱いと言われており、滅多に表舞台には出てこない。貴族の中では嫌っている者も多い。
他の王子の人気は極々普通だ。
この国では第一王子が次の王となると決まっているわけではない。平民を含む全国民の投票で決められる。ただし、この票は平民は貴族の千分の一となっている。
ランフォードはまっすぐ学園長室を目指した。
「これは一体どういうことだ!」
学園長室に入るや否やそう叫んだ。
「これはこれは第二王子様、どういうこととはどういう意味で?」
「なぜ学園に生徒が来ている!」
「おかしなことを言いますな。学園に生徒たちが来ることがおかしいと?」
学園長は眼光を鋭くした。
「うっ、そういう意味ではない!」
「それではどういう意味で?」
「そ、それは⋯⋯」
ランフォードは言葉に詰まった。
「要件はそれだけですかな? それでしたらお引き取り願えますかな? 私も暇ではないのですがね」
ランフォードは顔を真っ赤にして部屋から出ていった。
「まったく、あのお方にも困ったものじゃ」




