鍵
今日は長女の遠足。朝ごはんの他にお弁当まで作るのも、最近では片手間に済ます些事。いつもより早めの登園なので妻と長女が先に出る。ついでに次女も連れてく流れ。残りの家事を片付けて三女背負って保育園。相変わらずの楽しい喧騒。先生たちと二言三言交わし、運動会の写真コーナーでうろつく妻に一声かける。
「……もうね、三人いるから見なきゃいけない写真多すぎるのよ」
まぁ、そうですよね。
いつもの電車でいつもの職場へ。いつもの交差点を渡ろうとするとお気に入りのスマホが身悶えしてる。画面には“春町保育園”の表示。どれかが熱でも出したのだろうか?
……もしもし
「妻です」
ゑ?
「お家に鍵忘れちゃった……」
あらあらそれは大変。
「そっち行ってもいいかな……」
まぁ今日は11時稽古だから大丈夫。大階段のトコ来たら連絡お願いします。
「……携帯も置いてきた。あとお財布も」
……あらあらそれは一大事。待ち合わせの時間と場所を確認して通話断。
数秒後。慌ててコールバックする筆者。
「はい、春町保育園です」
“すいませんウチの妻います?”などと我ながらアホな台詞を送話口に送り込む。いつもより早めの登園だからいつもより職場到着が早いことを計算してなかった。待ち合わせの時間を変更して通話断。
待ち合わせの時刻。そういえば妻身重だったので、京王線の改札口までお迎えに参ると、自動改札にピンポンくらって精算機に喧嘩売り始めた妻が見える。
「おーい、ナカジマさん」
何年ぶりかで呼んでみる。ふりかえる妻。鍵とお小遣いを渡す筆者。
「はいどうぞ」
「ありがとー」
90年代的な待ち合わせも悪くない。
ふたたび階段を降りていく妻。
っていうか、オレどうやって帰宅するの?