第十八話「適任者」
ペロー5の天候制御システムは相変わらず不調を来たしていて、灰色の空が全てを拒むかのようだった。
天候制御システムだけではなく、他のコロニーとの連絡便すら自由ではない。なのでウィペットがその日、何時頃に約束の人間が現われるかは大方の予測はついていた。オペレーターを通して得られたコネクションだが一体何者なのだろう。
本当に口が堅い人間なのだろうか。ウィペットは隣にいるミーシャへと視線を寄越した。ミーシャはどうして空港に連れて来られたのか分かっていないようでぼやぼやとしている。あまり寝付けなかったのだろうか。ウィペットは気を回して尋ねてみた。
「寝られなかったのか?」
するとミーシャは顔の前で両手を振って、「いえ」と応じた。
「眠れました。とても。ありがとうございます」
「それならばいいのだが、疲れを溜めるなよ。もしもの時に身体が動かないのではどうしようもない」
「はぁ」と生返事が返ってくる。そのもしもを作らないのが自分の仕事だと思い直して、ウィペットは空港のロビーで待った。轟、と空気を割る音が響き渡る。鋼鉄の翼を得たシャトルが停泊している。程近いペロー4からの来客だ。
グランマの警戒宙域であるこのコロニーにやってくるような物好きの一般客は少ない。出てくるのはカメラなどの撮影器具を持ったマスコミか、軍の関係者ばかりだ。中にはペロー5の戦闘で家族が心配になって訪れた人間もいたかもしれないが、判断するだけの材料はなかった。
ウィペットが端末を取り出し、時計を気にする。まさか入れ違いになったのではあるまいな、と思いつつ続々と出てくる乗客たちに目を向けていると、不意に見知った人影が目に入った。まさか、似ているだけなのでは、と考えたが、その人影が手を振ったので確信に変わった。ウィペットは思わず立ち上がり、「まさか」と口に出していた。ベリーショートの髪型は見覚えがあった。
「リリィ?」
「そう大した別れでもなかったな。ウィペット・ガンス」
リリィはそう応じてウィペットへと手を差し出した。ウィペットはその手を握り、「じゃあ、約束の人間は」と声を発する。
「ああ、わたしだ」
応じたリリィは薄く微笑みを浮かべた。
「いつから、情報軍のほうに?」
ウィペットはリリィに尋ねた。リリィは投射画面を見つめ、目の前に視線を注ぎながら、「前からだよ」と答える。
「情報軍からお誘いはあったんだが、現場のほうが向いていると判断して留まっていた。あの戦いで、わたしは一度現場から退いたほうがいいと判断してペロー4の情報軍に拾ってもらったんだが、まさかこんな形で再会するとは」
リリィはウィペットのほうには振り向かず、ずっと前だけを見ている。視線の先にはガラス一枚で隔てられた室内にいるミーシャの姿があった。ミーシャは必要最低限の衣服を着ている。病人が着るような水色の服だった。
ウィペットはできればこのような扱いは避けたかったが、ミーシャの力を知るためには必要だった。ミーシャを説得したところ、妙に呆気なく納得した。
「リリィ。ミーシャ・カーマインについてだが」
「ああ、これから件のレッドフレームについての試験を行う」
「違う。私が言いたいのはそういうことじゃない」
ウィペットの言葉にリリィは眉根を寄せて、振り向いた。
「では、どういうことで?」
ウィペットは自分の中に言葉を探した。何かいい言葉はないものか。しかし、気の聞いた言葉などそう簡単に出るものではない。ウィペットは、不器用だな、と自己判断してあえて直接的な言い回しを使った。
「ミーシャ・カーマインを実験動物のように扱うのはやめて欲しい」
リリィはしばらく黙りこくっていたが、やがてフッと口元を緩めた。その笑みの意味を解せないでいると、「丸くなったな」とリリィが言った。
「以前までのウィペット・ガンスならばそのような考え方はしなかっただろう」
そうなのだろうか、とウィペットは考えたが、答えは出なかった。以前までの自分とは命令に従い、自分のことにばかりかまけていたような気がする。他人を気にかける能力は乏しかっただろう。
「そうかな」とウィペットは濁した。
「そうだよ。大丈夫だ。彼女の人権を踏み躙るようなことはしないし、事前連絡通り、上に報告もしない」
ウィペットはホッとして、「そうしてもらえると助かる」と返した。リリィならば安全だろう。ミーシャを対グランマ用の兵器として扱おうという考えには至らないはずだ。何より実戦を経験している人間ならば、グランマに対抗するということがどれほどの恐怖かを分かっている。
ミーシャは四角い囲いのついた機器に乗っていた。囲いがゆっくりと通ると、ミーシャの体内を映し出してくる。一種のレントゲンだった。すぐにデータがリリィの操る端末に送られてくる。
「これか」とリリィが示したのは胸元に収まっている異物だった。明らかに人工物と分かる形状をしている。刃のような返しがついており、楕円状の物体が中央にあった。
「それが?」とウィペットが尋ねる。こちらの声はミーシャには聞こえていないはずだった。唇も読めないようにマジックミラーになっている。ミーシャからしてみれば不安を煽る要素だろう。
「ああ。レッドフレーム。その本体であろうと推測される。現在の形状から元の形状をデータに出すと」
リリィがキーを叩く。すると新たなウィンドウが開き、投射画面上に杭のような物体が描き出された。先端が尖っており、末端にレンズがついている。
「これがレッドフレームの元型だろう」
ウィペットは杭のようなその形状を見て怖気が走ったのを覚えた。ミーシャは実の父親にこれを刺されたのだ。それでも父親の言いつけを厳格に守り、レッドフレームとして戦おうとしている。
「システム面に関してはブルーフレームと同一。所有者の神経系統に働きかけ、最初のほうは恐怖や精神的昂揚によって展開される。ためしに展開してもらおう。ミーシャ、聞こえるか?」
通信をアクティブに設定し、ガラスの向こう側のミーシャへとリリィが声を聞かせる。ミーシャが頷いた。
『はい。聞こえます』
「レッドフレームを展開して欲しい。できるか?」
『えっと……、多分。やってみます』
ミーシャが目を閉じる。すると、赤い光が胸元から放射された。服を破って赤い銀河を内包したレンズが飛び出す。
一瞬のうちだった。
ミーシャの身体を覆うように半透明の雨合羽の形状をした鎧が展開されたかと思うと、赤が滲み出し、光が弾け飛んだ。その様子をモニターしていた機器がデータをリリィに伝える。
「オーケー、ミーシャ。その状態でしばらく待機。こちらで確認する」
『そんな時間、あるんでしょうか?』
ミーシャの言葉にリリィが怪訝そうに眉をひそめた。
「どういうことだ?」
『顔の前に機能停止までの時間が出るんですけど……』
「機能停止までの時間?」
リリィが即座にデータに目を通す。キーを叩きながら、新たに投射画面を開きスクロールさせた。リリィは目を見開き、次いで顎に手を添えて頷いた。
「何か分かったのか?」
「重要なことが三つ」
リリィが指を三本立てる。ウィペットは自分ではまるで分からない文字の羅列を見やった。ミーシャへの通信を切り、ウィペットへと向き直る。
「一つ。レッドフレームには機能停止までの制限時間がある」
「そうなのか?」
「わたしたちがフェンリルを使った時に出る表示と同様だ。どうやらレッドフレームはブルーフレームの十倍以上の高出力高推進を約束された代わりに、時間制限が設けられているらしい」
「改善はできないのか?」
「無理だな」とリリィはばっさりと切り捨てた。
「そもそもこのレッドフレーム自体、完成していないんだ。不完全な状態でミーシャに埋め込まれたわけさ。完成度は七割と言ったところだろう。そこに二つ目の欠陥がある」
欠陥、とリリィは口にした。それはつまり本来補完されるべき部分が補われていないということである。レッドフレームは完成形ではないのだ。
「このレッドフレームには、フェンリルがない」
「フェンリルが?」
それは意外な告白だった。フェンリルは対グランマ戦における切り札である。フェンリルだけがほとんど有効な武器であり、グランマを倒すにはフェンリルの存在が必要不可欠だ。それがない、となるとどういうことなのか。
「わたしも信じられないんだが、どうやら最後の詰めとして残してあったものが組み込まれずに、という具合みたいだな。レッドフレームは自分のフェンリルを持たない。その上、通常状態から125秒の制限を受けている」
にわかには信じられない話だったが、その時ミーシャが、『あのー』と声を発した。
「何だ?」とリリィが応じる。
『あと80秒なんですけど、このままのほうがいいですよね』
「ああ、制限時間いっぱいまではその状態で頼む」
そう言ってリリィは通信を切り、椅子の背もたれに体重を預けた。大きく伸びをする。
「それで三つ目は」
ウィペットが促すと、リリィは佇まいを正して、「三つ目は」と口を開いた。
「耐久が異常に低い。グランマの攻撃を一撃でも受ければまずい。恐らくブルーフレームの十分の一程度しか装甲強度はないだろう」
「だが、レッドフレームはグランマの口の中に飛び込んだぞ。それなのに……」
「ああ、最初の戦闘か」
リリィは新たにウィンドウを開き、画面上にウィペットから預かった戦闘映像を呼び出した。レッドフレームが赤い尾を引いてグランマに突っ込んでいく様子が粗い画質で録られている。
「恐らくは接触する前にコアを貫いたのだろう。これでグランマの新たな生態が解明されたな。口の反対側はコアか。まぁ、今まで誰も口の中に飛び込んでコアを貫くなんて荒事をしようとは思わなかったのだろう。当然と言えば当然か」
それはその通りだろう。ブルーフレームとして戦っているウィペットならば、そのような危険行動に出る意味は分からない。
「とにかく明らかになったことは」とリリィが椅子に座ったまま腕を組んだ。
「十倍以上のエネルギーゲインを持つ代わりにフェンリルを使わなくても時間制限があることと、そもそもフェンリルが使えないことと、耐久に難があるところか」
ガラスの向こうでミーシャの纏っているレッドフレームが色を失くし、半透明の装甲だけが残る。その鎧もすぐに消えていった。
「今、新たなことが分かった。ブルーフレームと違って機能停止状態以降の活動はできない」
リリィがキー打って新たに書き加える。それは致命的ではないだろうか、とウィペットは思った。本当に125秒しか活動できないのならば、空間戦闘もできなければ時間を超過する長期戦闘など無理難題だ。
「これではまともに戦えない」
ウィペットが言うと、「そうだな」とリリィは首肯した。
「まともに戦うことを度外視した設計であることは間違いない。あるいは完成すれば何とかなるのかもしれないが。……ここから先は憶測だが」
リリィがウィペットの顔を窺う。言ってもいいか、ということなのだろう。ウィペットは頷いた。
「グランマはこのレッドフレームの脅威を黙認できずにコロニーを襲ったのかもしれない」
「まさか」と否定しようとするが、完全に否定する材料がない。現に二度の襲来に遭っている。同じ宙域にグランマが二度に渡って現れるのは例がなかった。
「レッドフレームは完成し量産できれば人類は大きくグランマに優位性を持つことができる。侵略生物であるグランマからしてみれば、これは盤面をひっくり返しかねない事態だろう」
「待ってくれ、リリィ」
ウィペットはリリィの言葉を制した。リリィが怪訝そうに目を向ける。
「どうかしたか?」
「最初に言ったはずだ。レッドフレームのことは機密にして欲しい、と。ミーシャ・カーマインについてもできうるならばこれ以上被害に遭わせたくない」
「彼女は望んで戦っている。それはデータを見れば明らかだし、ガンス、あなたがミーシャに接触した時の話を聞けばさらに揺るがない」
「だからと言って、勝手に運命を捻じ曲げられた少女を戦わせていい道理にはならないだろう」
ウィペットは強く主張したが、その度にリリィの顔色は曇った。
「ガンス。ミーシャはブルーフレーム隊に志願したんだろう?」
深く息をついてリリィは口にした。ウィペットは事実なので頷くしかない。
「それでブルーフレームには適性がなかった。恐らくレッドフレームを既に内包していたからだろう」
「どうしても戦いたいんなら、ブルーフレーム隊の一員として――」
「それは無理な相談だろう。レッドフレームである限りは」
「だったら、外科手術でも何でもしてレッドフレームを取り出そう。そうすれば、彼女は縛られた運命から解き放たれるし、レッドフレームを詳しく解析することもできる」
「そうしたいのは山々なんだけど、それは無理」
リリィがキーを叩き、投射画面の一つをタッチしてウィペットの前へと差し出した。「これを見て」とリリィ。ウィペットが目を通すと、レッドフレームの中央から無数の細い糸が伸びているのが分かった。
「これは?」
「神経系統だ。レッドフレームは既にミーシャの身体に根を張っている。その神経系統からミーシャの脳波や運動神経を極限まで高めているようだ」
ウィペットは目を見開き、受け取った投射画面上のレッドフレームを見据えた。先ほど外科手術と簡単に言ったが、返しが複雑に絡んでおりそう簡単には取り出せそうもない。それに加えて神経が絡み合っているとなると打つ手はないように思えた。
「何とか、神経を避けて……」
「今の人類の医療技術じゃ無理だろう。全身に回るのも時間の問題だと考えられる」
「もし、全身に神経が行き渡ったら?」
恐れ戦きながら口にした言葉に、リリィは息をついて首を横に振った。
「分からない。その時、レッドフレームがどのように進化しているのか」
進化、という言葉に、確かにそれが相応しいと感じた。レッドフレームはミーシャの身体を苗床にして何者かになろうとしている。その行き着く先を考えると、背筋が寒くなった。覚えず右手首の携行端末へと視線を落とす。
自分たちは安全なブルーフレームを使っている。しかし、ミーシャはまさしく己の身体を削って戦うことになるのだ。
「このことを、ミーシャ・カーマインには」
「伝えないほうがいいだろう。自分が生物兵器になってしまうかもしれないなんて、たとえわたしがその立場だとしてもおかしくなるに違いない」
ウィペットは深く頷き、ガラスの向こうにいるミーシャへと視線を投げた。ミーシャは不安げにきょろきょろと周囲を見渡している。自分の行く末すら分からない迷子のようだった。
「ミーシャに真実を伝えるか?」
リリィが尋ねる。先ほど、やめたほうがいいと自分で言ったが、ウィペットのほうがミーシャを理解していると踏んで口にしたのだろう。ミーシャの意思の強さならばあるいは、と考えかけて、いや、と頭を振る。
「ミーシャ・カーマインには125秒のことと、フェンリルがないこと、耐久が脆いことだけを伝える。そうすれば戦うことに対して慎重になってくれるかもしれない」
「戦わせたくないのか」
「もちろんだ」
ウィペットは即座に頷いていた。携行端末を握り締め、「傷つくのは我々選んだ者だけでいい」と付け加えた。
「彼女は選ぶような暇さえなかったんだ。押し付けられた運命に抗うことも許されないのならば、せめて平穏の中に身を置いて欲しい」
「だが、レッドフレームをグランマが狙っているのだとすれば、ミーシャに安息はないぞ。レッドフレームを破壊するか、ミーシャの生命活動を停止させるしかない。それにレッドフレームの力を御せているのかは分からない。暴走の危険性だってある」
「殺せ、と言うのか……」
ウィペットが呆然と口にすると、リリィは一つのボタンを指差した。立方体のガラスで保護されている。
「このボタンを押せば、中にいる人間を気絶させ、後に殺すことなど簡単だ。今、決断するか?」
突然突きつけられた選択にウィペットは戸惑った。ミーシャのことを第一に考えるのならば、この場で命を絶ったほうがいいかもしれない。
彼女を解放できるばかりではなく、レッドフレームを解析し、量産にこぎつけられるかもしれない。このペロー5には再び平和が戻るだろう。彼女たった一人の命で、全人類が救われる可能性がある。一兵士としてだけではなく、人類の一人として、選ぶべき道は決まっているように思えた。
ウィペットはボタンに視線を向ける。
たった少しの力だ。それだけでミーシャの未来を永遠に閉ざし、人類の未来を切り拓くことができる。
たったそれだけなのだ。ウィペットは手を伸ばした。コンソールにあるボタンを押すために拳を固めかけて、不意に脳裏にミーシャの言葉が蘇った。
――あたし、ずっとヒーローが好きだったんです。
ウィペットは身を硬く強張らせた。ヒーローになりたがっていた少女。その力を手に入れたミーシャは今、幸福の中にいるのだろうか。
いや、とウィペットは頭を振る。まだミーシャは誰も救えたと思っていない。ヒーローになりたがっているのだ。みんなの笑顔のために戦う、誰も泣かせないヒーローに。
ウィペットは手を引っ込めた。リリィがそれを横目に、「その決断でいいのか?」と問いかけた。
「もしも」とウィペットが口を開く。リリィが視線を向ける。ウィペットは固めた拳を震わせてキッとミーシャを見つめた。
「もしも、ミーシャ・カーマインが暴走したならばその時には、私が責任を持って止める」
「本気、なんだな」
リリィの確認の声にウィペットは強く頷いた。携行端末に視線を落とす。自分にあるのはブルーフレームの力だけだ。戦士としてでしかミーシャに接せられない。だが、そのあり方も貫けば王道である。
「私も、ミーシャ・カーマインの夢に中てられたか」
「夢?」とリリィが聞き返した。
「ヒーローになる夢だよ。私も、誰かのヒーローでいたいと思った時期があったのかもしれない」
それはとうに忘却の彼方に追いやった昔かもしれない。しかし、一度そう感じたことがあるのならば、ミーシャの夢を安易に消し去っていい資格はない。
「分かった。わたしはこのことを誰にも言わない。ただ、そうなると辛いぞ」
「辛い、とは?」
リリィは機器の動きを目で追っているミーシャを指差した。
「ミーシャの正体を誰にも明かさずに、守り抜かなければならないことになる。それは孤独の戦いだ。貫けるか?」
孤独。それは重い言葉として残響した。しかし、ミーシャは自分以上に孤独なのだ。誰にも明かすことが許されず、戦うことでしか己が存在意義を見出せない。
自分がグランマを引き寄せる遠因となっており、さらに生物兵器として進化していると知れば、彼女はさらなる孤独の沼に身を浸すこととなるだろう。
「貫かなければならない。私は、彼女の痛みを知ってしまったから」
ウィペットの言葉にリリィはフッと口元を緩めた。
「ならばわたしも付き合おう。どのように役に立てるか分からないが、情報軍の一員としてレッドフレームの正体のかく乱程度ならばできるだろう」
「それは軍規違反になるんじゃ……」
濁した言葉に、「この程度なら」とリリィはミーシャを見つめた。
「ミーシャの宿命に比べれば、何てことはないよ。わたしもミーシャという少女の行く末を見てみたくなったのだろうな。グランマを殲滅する鍵となるか、破滅を引き寄せる災厄となるか」
リリィはそこまで言ってから、通信に声を吹き込んだ。
「ミーシャ。もう上がってもいい。機器から降りて、着替えて」
ミーシャは頷き、制服に着替え始めた。まだ華奢な身体の少女だ。その双肩に背負わせるにはあまりに重い。
「……私ができることならば、全てをしよう」
ウィペットが呟いた直後、耳を劈く警報が鳴り響いた。