二人の王子
「あっ、父上だ!」
穏やかな春の陽光に照らされる城の庭で無心になって花を摘んでいた幼い王子は、父親である国王の姿が目に入るなりぱあっと表情を輝かせて駆け寄ってくる。
「おい、ロロ! 慌てて花を踏むなよ」
その一方で、呆れた口調で冷静に弟を諌めながら、自らも父の元へ向かうのはその兄である第一王子である。
二つしか歳も離れておらず、同じ血を分けているはずであるのにこうも対照的な兄弟は珍しいのではないかとは思いながらも、国王は愛らしい二人の幼子に柔らかな笑みを溢した。
「花を摘んでいたのか?」
「うん! シャルと二人で、妹のお祝いに!」
「あと、母さんにも。母さんもこの花が好きでしょう?」
二人の足元に咲いているのは淡い紫色をした可憐な花だった。
エルメランド王国の花であり、そして同時に王家の象徴でもあるトレーネ・アンジュだ。
国王は二人と目線を合わせるようにしゃがむと、自分とそっくりな密色の髪をくしゃりと撫でた。
「ああ、ファナも喜ぶよ。二人とも、ありがとう」
その国王の言葉に王子たちは誇らしげな顔をしてお互いを見合う。
とても幸福な時間がエルメランドに流れていた。