告白
ジョージアナの心のようにどんよりとした夜空。
湿度のある空気が肌に触れる。
ジョージアナは一人、庭の噴水の側に座った。
「ジョージアナ、来てくれた…」
ほっとしたような表情を浮かべたフレデリック。
夜の闇に、銀の髪が鈍く輝く。
「ジョージアナは誤解をしてる。俺は君が好きなんだ」
フレデリックは一定の距離を置いたまま話し始めた。
「えっ?」
「ジョージアナが小川の側で、一人で泣いていた」
あの恥ずべき記憶が甦る
「あの涙を見たときに、その涙が俺のせいで流されているのかと思うと堪らなかった。一人で泣いてる、強がりなのに弱いってことも気がついた…。もっとジョージアナの仮面を外した顔が見たくなった」
フレデリックのいうジョージアナは、すべて恥ずべき自分だ。
「なによ、それ」
「動揺して赤くなったり、キスをしたらうぶな反応が見られてスッゴいドキドキさせられて、もっと虐めたくなった」
「それ変態じゃないの!」
「恋は人を狂わせるっていうけど、俺にもそんな性癖があったなんて驚きだったよ」
「虐められて喜ぶ女なんて…!」
いないといいかけて、他ならぬジョージアナはそんな風に扱われて恋に落ちているではないか…。
「ねぇ?ジー。俺をこんな風にしてしまった責任をとってよ?」
そっと近寄って来るフレデリック。
夜空を突然光が引き裂いた。
雷鳴が轟き思わずフレデリックにしがみついた。
「ジョージアナ、俺と婚約するのかしないのか…返事をしてよ」
あのときと同じ問い。
だけど、フレデリックの聞き方も、ジョージアナの心も今では違った。
「君が好きだよジョージアナ」
再び、稲光に照らされるフレデリック
「あのとき、俺は君が高慢で、きっとレディ エリザベスのような女性だと思っていた。答えない君をみてやはりそうだと確信したよ…」
「お母様?」
「そう、貴族らしさが何より大切で、高慢で…そんな女性と結婚して楽しいのかなって。ちょうどライアン卿が離婚して、それでいいと思えなくなった」
「…そんな風だったのねわたくしは…」
ポツポツと大粒の雨が落ちてきていた。
「だけど、ジーは俺に歩み寄ろうと来てくれて、涙まで見せた…隠された素顔がとても可愛いと思ったよ」
フレデリックは微笑んだ。
「フレデリック…本当に…わたくしが好きだと思ってくれるの?からかっているのじゃなくて?」
「からかってなんかいない、いつだって…」
フレデリックはジョージアナを抱き締めると
「…これは想いを伝えようとする、恋人のキスだ…」
雨がうちつけてきたけれど、フレデリックもジョージアナも雨に関係なく抱き合ってキスをした。
いつになくフレデリックの口づけは優しくジョージアナを感激させた。
「フレデリック…貴方と…婚約するわ…求婚してくれるの?」
ジョージアナは震える声でようやく言った。
身を離してジョージアナの姿をみると、すでにジョージアナもフレデリックもぐっしょりと濡れていた。
「雨に濡れてとても淫らな姿だね、ジー。俺の恋人」
フレデリックはそう言うと濡れた地面に膝をついて、手を掴んだ。
「レディ ジョージアナ。愛してるよ、俺と結婚してそして毎日を楽しく過ごそう。これが本心だよ誓って…」
「貴方のその言葉を信じるわ…ありがとうフレデリック。わたくしと結婚して」
「いい子だ…ジー。素直な君は可愛いよ」
立ち上がったフレデリックは、ニヤリと笑うと
キスをした。
「これはちゃんと可愛く言えたご褒美だよ」
ぐっしょりと濡れてしまった二人は、会場には入れない。
邸の女主人であるウェルズ夫人に着替えを借りて、それぞれに帰宅することになる。
「まぁまぁ風邪を引かないと良いのだけれど…!」
「申し訳ありませんわ侯爵夫人」
「それにしても、庭でこんなに濡れるまで…ねぇ?」
とニヤリと笑ってくる。
ジョージアナは赤くなり、
「雷に驚いて…」
と言い訳になっていない言い訳をした。
「フレデリックと二人でね」
くすっと夫人が笑う
「いい知らせを楽しみに待ってるわね」