恋に怯える公爵令嬢
ジョージアナはこの訳のわからない押し寄せる気持ちが恋だと気づくと、フレデリックを避けるようになってしまった。
舞踏会へのエスコートはちょうどエレナの体調も芳しくない事もあり、父ライアンにさせるようになっていた。
父は物言いたげであるものの、余計な事は聞かずにエスコート役を引き受けていた。
思えば父と歩くなんてあまり無かったことだ。
「エレナは大丈夫なの?」
「ジョエルの時も初めは辛そうだった。早く治まるといいが…」
それでもライアンには子供がまた産まれるという事に喜びが溢れていた。
「はいはい、仲が良いわね」
「なんだ寂しいのか?」
ニヤリとライアンが笑ってジョージアナを見た。元々ジョージアナの父としては若いライアンだが、近頃は貫禄と共に若々しさもあり娘から見ても魅力ある男性に思える。
「いいえ、ちっとも」
「エレナはエレナで大事な存在だが、ジョージアナ、お前も私の守るべき存在だ。遠慮せず甘えてこい」
「なによそれ…わたくしはもう成人よ」
「結婚するまでは私が保護者であることに違いはない」
「なにか聞いてるの?エレナに」
そう聞くと、ライアンは眉をあげてジョージアナを見つめた。
「多少は」
エレナに詳しく話したりはしていないが、ライアンには独自の方法で娘の事は把握していそうだ。
「ジョージアナに言われるまで何もしないよ」
「…あたりまえでしょう…」
さすがにライアンのエスコートはそつがなく
「ライアン、今日は娘のエスコート役か」
「そう、娘のお目付け役だ」
と冗談めかしていう。
一曲目をライアンと踊ると、後はいつものように次々と相手を変えて踊るだけ。フレデリックは…フェリクスたちと談笑している。テラスで別れて以来、この距離感…。
フェリクスがフレデリックを伴ってジョージアナに話しかけてきた…。
兄を使うなんて卑怯だ…。
「ジョージアナ、ダンスの空きはあるだろう?」
ダンスカードをさっと取り上げるフェリクス。
「意地張ってないで仲直りしろよ」
と余計な一言をいい、フレデリックを置いて去っていく。
「ジョージアナ…避けてないでせめて話だけでもさせて欲しい」
これはどういうフレデリックか、とジョージアナは見た。
「話って何かしら、今すれば良いじゃない」
途端にフレデリックの瞳に危険な光が宿る。
「ジョージアナ…ここで大喧嘩でもしたいというのなら話してやろう」
「…わたくしから話したいことなんて一つもないわ」
「君にはなくても俺にはある」
「ダンスの後、少し時間を与えてくれ…」
フレデリックはそう言うと、フェリクスを追うように人波に紛れていった。
…ここで逃げて帰ったらどうするのかしら…
逃げる?いつまで逃げるつもりなのジョージアナ…好き…なんじゃないの?彼が
まさか、あんなに意地悪で…ジョージアナを振り回す…そんな男に恋をするだなんて。ジョージアナは甘い小説のような恋を思い浮かべていたのに…まったく違う。
「…だね。ジョージアナ?」
「ええ…」
「…ってまったく聞いてなかったね私の話。これ笑う所」
目の前にはレン・シャロット
「心ここにあらずだね…」
くすっと笑ういつも陽気なレン
「よく聞こえなかっただけ」
「青春だねぇジョージアナ」
「何言ってるのだか…」
そうだ、レンの言うとおり心はどこかにふわふわと漂い、ジョージアナをおかしくさせている。
ジョージアナを狂わせる恋の歯車。噛み合わずにただひとつひとつが空回りしている…そんな様だ
フレデリックとのダンスはワルツ。
「ジョージアナ、この間俺が言ったことは本心だよ。からかってなんていない」
「信じられないわ…いつもからかってばかりなんだもの」
「からかってなんて…ああ。そんな風に思っていたんだ」
フレデリックは微笑みを浮かべた。
「きちんと話がしたいから、後で庭で会おう」
「行かないかも」
「待ってるよ、朝まで」
フレデリックとのダンスを終えると、ジョージアナは信じて良いのか悪いのか…庭に行くべきなのか行かないのか…悩んで、結局は庭に降りることにした。
二人きりになるのは不安で仕方ない。