変わり行く公爵家
ウィンスレット公爵家は変わった…。
まずは父、ライアンの微笑みは今では尊大な雰囲気は消え失せてただ心からの幸せそうなものと変わり、その笑みが主に向けられる相手はエレナとジョエル。そして、時折フェリクスやジョージアナにも向けられる。
結婚する相手によって人は変わるものだと、ジョージアナは感心させられた。エリザベスとそのような微笑みは全くなかったからだ。
ライアンとエレナとの間に産まれたジョエルは、ジョージアナがはじめて会った頃よりも日に日に大きく育ち、丸々となった。そして笑うことも動きも増えて本当に可愛い。
そのジョエルをライアンが抱っこしているのはこれまでなら本当に考えられないけれど、近頃では見慣れた光景になりつつあった。
ジョージアナもまた、ライアンの結婚によって変わったのだろうか?
ライアンとエレナの作り出す暖かな家庭の雰囲気がするようになったこの公爵家。邸内で働く使用人たちもまた楽しそうにのびのびと働いるように感じる。なんだか華やいでいる。
皆が変わったようにジョージアナも変わってきたのだろうか…。
「チェルシー…わたくしは前と変わったかしら?」
「そうですねぇ、なんというか堅さが少しほぐれましたかね?もう少し高慢な雰囲気が無くなるといいと思いますけれど…キツそうに見えるお顔だちですからね」
「キツそう…?」
「ええ、わたくしは公爵令嬢ですわよって顔に書いてあります」
そ、そうなのか。
ギルバートに言われたことを簡単に言い直された様でジョージアナは少しショックを受ける。
「いけないのかしら…」
そうあろうとしてきたことは間違いなのか…
「王様ならともかく、偉ぶってる女を妻にしたい男はいませんわよ。まして自分より家格が上であったりするなら」
ジョージアナはガツンと殴られたような気持ちになった。
しかし今更どうしようもない。そのように教えられて生きてきたのに…。
「で、ジョージアナ様。フレデリック様とはどうなってるんです?」
「えっ?」
チェルシーに、謝りに行ったその後の事。あれやこれや…云々かんぬん…はまだ話せていない。
しかし、今のジョージアナに話せる相手と言えばこのチェルシーだけかもしれない。
エレナやシャーロットに言えば、ライアンやフェリクスに伝わり婚約!となってしまうかも知れない。
「チェルシー…絶対に誰にも言わないって約束してくれる?」
「これでも私は秘密を話すほど馬鹿じゃありませんわ」
チェルシーが誓ってと真摯に言った。
…
「まさかの隠れSですか!」
「なによ…それ」
「普段優しいのに、二人になると意地悪だってことです」
くすっとチェルシーは笑った。
「フレデリック様ったら案外子供っぽい、好きな子虐めするタイプなんですね」
「す、好きな子虐め!そんな可愛い感じ?」
「でもジョージアナ様にはそれくらい揺さぶって頂かないと素直に慣れない様ですし、お似合いですわ!」
チェルシーが生暖かい視線で笑うのをみて、ジョージアナはチェルシーも相談に向かないと嘆きたくなった。
しかし近頃はフレデリックは紳士的であったし、ジョージアナもフレデリックの本性が意地悪でも根本的には紳士であると思っている。
この日の夜はブラッドフィールド邸の舞踏会に行く予定だった。
ブラッドフィールド公爵は、古い王族の家系で屋敷も重厚な作りで圧倒的な存在感を放っている。
ウィンスレット公爵家が華やかで壮麗なのに対し、重厚で荘厳と言われている。
しかし当主のジュリアンはわりあい親しみやすい雰囲気である。
ジョージアナはこの日もフレデリックのエスコートでの出席予定であった…。
こんな情況が一年も続いていれば、ジョージアナとフレデリックは恋仲であるとの周囲が認識していても文句は言えない事である。