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赤ちゃん成分少ないです。
体が重くて動かない。
息が苦しくて目が覚め、起きようとするけど体が動かない事に一瞬、パニックになりかけ、目をこじ開けて納得した。
胸の上でハルがねてた。
推定10キロ。
そりゃ、苦しいわ。
夜泣きするハルをあやしているうちに一緒に撃沈したらしい。
人の上で、赤ん坊はスヨスヨと気持ちよさそうに眠りを貪っていた。
起こさないようにソゥッと横に置くと、寝不足で重たい頭を抱えながらリビングに出る。
シャワーでも浴びたら、目が覚めるか?
「おはよう。もうすぐご飯出来るわよ〜」
キッチンから顔を覗かせる母親にもそもそと挨拶を返しながら、浴室に向かう。
世の中の子育て中の方を尊敬するわ。
こっから家族のご飯作って爽やかに朝の挨拶なんて、俺には無理だ。
って、かぁさん、分かってて俺に寝かしつけ押し付けたな?
母親のずるさを再確認しつつ、どうにかシャワーで目を覚まし食卓につく。
本日金曜日。及び、終業式。
本来なら浮かれてる所だけど、ハルの事考えたらそうも言ってらんない。
あぁ、夏休みの予定組み替えないと。
かぁさんは、部活もしてないし暇だろうと簡単に言ってくれるけど、今時の高校生の付き合いも結構大変なんだぜ?
まぁ、うちのグループは気楽な方だけどな。
家を出る前にソゥッと和室を覗くとハルはまだ熟睡してた。
半開きの口が可愛かったから、そぅと写真を一枚撮って家を出る。
うん。寝てると目つき悪いのわかんなくてかわいい。
「よぅ、幸人。何スマホ見てニヤニヤしてんだよ。朝っぱらからエロか?エロなのか?」
電車の中で、突然どつかれ凄い言いがかりをつけられる。
「やめろ、俺のイメージが崩れる」
肩にもたれかかって来るのを押しやりながら振り返ると、幼馴染の大成がニヤニヤ笑ってた。
「あり?赤ん坊?どこの子だよ?」
「姉貴の子」
覗き込んでハルの寝顔にキョトンとしている大成に答えると、目を大きく見開いた。
「愛の女神様、帰ってるの?!」
大成とは小学生から続く腐れ縁で、お互いの家を行き来する仲だ。当然、姉貴とも面識はある。
「その呼び方止めろ。帰ってきたけど、子供置いて速攻出てった。旦那追いかけて中東だってよ」
渋い顔で教えてやると、大爆笑しやがった。
周りに迷惑だからやめろ。
「さっすが、女神様。期待を裏切らない行動力」
「笑い事じゃねぇよ。1歳ならない子供置き去りとか、正気を疑うレベル」
言い捨てると大成が、意外そうな顔で俺を覗き見してきた。
「珍しい。幸人が明菜さんの事でマジで怒ってんの初めて見た」
やっぱ、他人から見てもそんなだったんだな。なんか気まずくて目線を反らす。
「だってさ、スッゲェ悲しそうに泣くんだよ。俺や家族に迷惑かけんのは良いけどさ、あんなちっこいの泣かしちゃダメだろ、やっぱ」
なんだよそのニヤニヤ笑いは。
こっち見んな。
「て訳で、子供の面倒見なきゃだし、悪いけど、夏の予定から俺外しといて」
なんとなく、視線を逸らしたまんま本題にはいる。
「まぁ、しょうがないけど。隆太渋るだろうなぁ。あいつ、幸人命じゃん」
「気持ち悪い言い方すんなよ。あいつ、友達多いし、俺1人居なくても気にしないだろ」
基本、俺と大成は2人でつるんでる事が多い。団体の時は、そのままどっかにくっつく感じ。
姉貴に引っかき回される事が多くて、なんとなく人と居るのが苦手な俺が大成とは一緒にいれたのは、どんな時でも、姉貴の事を悪く言う事が無かったからだ。
やっぱ、家族の悪口って自分では良いけど他人に言われるとムカつくもんじゃん。
まぁ、さっきみたいに面白がってはいたけど。それも影で笑うんじゃなくて正面切ってあっけらかんとしたものだったから、別に嫌じゃ無かった。
なんせ本人に向かって言いたい放題してくれてたし。
まぁ、姉貴が居なくなってからもなんとなく2人のままだったんだけど、高校に入ってからそこにチョコチョコ加わるようになったのが隆太だった。
誰にでも良いやつで、困ってる人が居たらさりげなく手を差し伸べるような、同い年とは思えないくらい出来た男だ。
クラスの中心にいてみんなを引っ張るリーダー格。
たまたま最初に隣の席だった縁でなんとなく仲良くなって今に至る、みたいな。
確かに、よく一緒には居るけど、クラスで浮き気味だから気を使われてるだけな気もするぞ?
「あはは。相変わらずの片思いだネェ」
大成はケタケタ笑いながら、肩を組んでくる。歩きずらいし、重たいからやめて欲しいんだけど。大成のがチョット背が高いから、結構体重かかって大変なんだよ。
「大成、重いって」
駅から学校に向かいながらもじゃれついてくる大成を適当にあしらっていると、突然、肩が軽くなった。
「あ、おはよう」
噂をすればなんとやら。
隆太が、大成を引き剥がしてくれていた。
「ちょっと隆太。俺とユキの愛の語らいを邪魔しないでくれる?」
「いや、語ってないし。愛もないし」
変な事を言い出した大成に思わず突っ込むと「ユキちゃん冷たい」と泣き崩れられた。
はいはい。
通学の邪魔になるからサッサと歩こうな。
座り込んだ大成を引っ張り起こして、学校に向かう。
その道すがら、ザックリと隆太に現状説明して、夏休みゴメンなさいをいう、と、意外に渋い顔された。
「キャンプ行こうって言ってたじゃん。頭数入ってるし、困る」
そういえば、そんな計画もあったな。
もともとインドア派で乗り気じゃ無かったから忘れてた。
なんか、クラスの有志でキャンプ場のバンガロー借りて遊ぼう、みたいな。
最初は少人数だったのが、いつの間にか膨れ上がって、クラスの大半が参加になってたんだよな。
「人いっぱいいるし、1人ぐらい抜けても大丈夫だろ。頭割りでキツくなるってんなら、それくらいカンパしても良いし」
そこに俺がいなくても困らないだろうけど、ハルには俺が居ないと面倒見てくれる人はいない訳だし、選択肢は迷う隙もない。
そう思って、妥協案を出せば露骨にムッとした顔をされた。
「そういうんじゃ無い。俺は、幸人と行きたかったんだよ」
そう言うと、足早に去っていった。
えぇぇ〜〜。
「あぁ〜あ。拗ねちゃった。だから、幸人命って言ったじゃん。機嫌取るの面倒よ?あれ」
「……俺が悪いのか?」
確かに一方的なキャンセルは悪いけど、しょうがないじゃん。納得いかん。
「幸人君、ものには言い様ってもんがあるんだよ?」
言いたい事は何となく分かるけど、ドヤ顔がムカついたので、大成はとりあえず1発殴っとくとして。
あぁ、もう。
人間関係面倒クセェよ!
読んでくださりありがとうございました。