表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/35

4

チョットだけシリアス?

「良かった。なんとか落ちた」


まぁ、まだうっすらと残ってるけど許容範囲だろう。

さすがに汚れた顔をごしごしされて、大泣きしたハルは、今は母親にミルク貰ってご機嫌だ。ちなみについでに丸洗いしたとも。


「上手に飲むもんだね」

コロンと転がって、両手に哺乳瓶をしっかり持ってゴクゴク、ゴクゴク。

チョット必死さが可愛い。


別に取り上げるつもりは無かったけど、なんと無く手を伸ばしたら、嫌そうな顔をしてゴロンと反対の方に寝返った。


向けられた背中にイタズラ心を刺激され、ツンツンとつついてみる。


チラリと横目で見られた後、口から哺乳瓶を外し、片手に抱えてハイハイで逃げられた。

ソファーの向こう側までいくと、こっちを見ながら続きを飲みだす姿に噴き出した。


めっちゃ、警戒されてる。

追い討ちをかけるか悩んでると母親に頭をどつかれた。


「嫌われるよ」

「いや、あんま表情無かったのが食いもんかかったら必死になるから、面白くてつい」


そんな事を言ってたら、飲み終わったらしい。空の哺乳瓶をコロコロ転がして遊びだした。


「お〜い、ハル。こっち来いよ。遊ぼうぜ」

呼んでみると、チラリとコッチを見るが無視された。

「ほ〜ら、嫌われた」

母親が、楽しそうに笑う。


「さっきは顔ゴシゴシされたしね。意地悪なおじちゃんですねぇ〜」

抱き上げてトントンされ、ハルはふぁ〜と大あくび。

腹が満たされたら、次は眠気か。

赤ちゃんはシンプルで良いね。


「ユキ、和室に布団敷いてあげて」

「ハイハイ」


顔ゴシゴシは自業自得じゃん。

って言ったって、分かんないんだろうけど。


「出来たぜ〜」

「じゃあ、よろしく」


母親にハルを手渡されて、2人して微妙な顔を見合わせた。

「俺が寝かしつけんの?」

「ユキが食器洗って、明日のご飯の準備して、洗濯干してくれるなら、かぁさんが寝かしつけるけど?

言っとくけど、寝かしつけに入ったら、かぁさん一緒に寝る自信あるからね」


「よし、ハル。絵本読んでやるよ」

ハルを抱き上げていそいそと退却。

逃げたんじゃ無い。戦略的撤退ってやつだ。


布団にハルを転がし、枕元のスタンドだけつけると母親が何処からか引っ張り出してきた絵本を広げる。


うさぎが友だち探して冒険するお話。

そういえば、昔好きだった。懐かしいなぁ。


小さな声で半分くらい呼んだ所で、気づいたらハルは眠ってた。

プス〜プス〜と、なんか間の抜けた寝息を聴いてたら、こっちまで眠くなってきた。


チョットだけ……。

ハルも1人だと寂しいだろうし。

なんと無く立ち去り難くてそのまま目を閉じると、クーラーが寒かったのかコロンとハルがくっついてきた。


そっと抱きしめると、モゾモゾと居心地の良い場所を探して、静かになる。

柔らかい小さい体からは、なんか優しい香りがした。

「おやすみ、ハル」



「ふえぇ〜ん、うぇっ、うぇっ」

小さな泣き声に目が覚めた。

一瞬、状況が分からなくなったけど、じょじょに大きくなる泣き声に、ハルの存在を思い出す。


叩き起こされて重たい体をどうにか動かし、小さな体を抱き上げると、思わぬ抵抗を受けた。


小さな体をよじりながら、手足をバタバタ動かす。


ホシイノハ、コレジャナイ


それは明確な拒否だった。

目は閉じたまま、だから、もしかしなくても寝ぼけてるんだろう。

そうして、一生懸命母親を求めてる。


以外と力が強くて、取り落としそうになるのを耐えて、できるだけ優しく抱きしめてトントンと背中を叩く。


そして、父親の言葉を思い出した。

小ちゃくったって、わかってる事はある。


自分を護ってくれていた母親も父親も、居なくなってしまった。


それは、こんなに小さなハルの小さな世界が根本から覆されてしまったって事。

それって、どれくらいの衝撃なのだろう。

暫くしたら帰って来る、なんてハルには理解でき無い。


もしかしたら、ハルは無表情なんかじゃなくて、あまりの絶望に泣く事もできなかったのかもしれ無い。


その事に思い至って、切なさに俺まで泣きそうになる。

マジで、何やってんだよ姉貴。

あんた、ハルがこうやって泣く事、分かってたのかよ。


今まで、散々迷惑だと思っても、本気で怒った事なんて無かった。

姉貴、しょうがないなぁ、なんて、呆れながらも何処かで許してた。俺だって、父さんたちの事甘いなんて言えなかったんだ。


だけど、夢の中で母親を求めて泣きじゃくるハルを抱きしめて、初めて姉貴を殴ってやりたいと思った。


「ごめんな、ハル。俺たちが姉貴を甘やかしてたツケがお前に来ちゃったんだな。

本当に、ごめん。

謝って許される事じゃないけど、代わりになんてなれないんだろうけど、姉貴が戻ってくるまでは、俺が側にいるから。

絶対に護ってやるから。

ごめんな。ハル。」


どうしようもない憤りを抱えながら、俺は、ハルが泣き疲れて眠るまで、何度も何度も謝り続けた。






読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ