エスケープ3
第一話:エマ・ボルドー:タイムスタンパー:check pointD-2:20080815(14:30~15:30)
噴水から噴霧するマイナスイオンに癒されていた私は、ジリジリジリという煩わしい予鈴に頭をかき回され、現実の世界に引き戻された。
気がつけば、周りには誰もいなくなっている。
「う~ん、ビッチは表面上優等生だし、今頃授業中か。
となると・・・・・・」
のんびりとした動作でたちがあがると、一度思いっきり息を吸い込む。ついで、ジーンズについた砂をぺんぺんと叩くと、帽子を深くかぶりなおしたーーーうん、いい感じだ。自分で言うのも、なんだけどね。
わたしはビッチに仕掛けるはずだった殴り込みを中止し、先にヒッキーと合流することにした。
ここでビッチの巣に行ってもやつはいない上に、待たされる羽目になる。なにが悲しくてそんな時間の浪費をせねばならないかと考えれば、妥当な判断だと思う。
けれど、ヒッキーはヒッキーでうざいのよ。
あいつってば、学校から徒歩十分の距離にある、アパートに一人暮らししているんだけど、基本外出しない。ちなみに、ヒッキーはうちの学生ではあるけれど、年は30手前とかいう噂。引きこもりすぎて、卒業できていないらしい。
そのくせ、きちんと授業料は納めているらしく、席は在学のままなんだってさ。
「まぁ、ヒッキーはヒッキーでいいとして、これからどうするかだよねー」
ヒッキーの家路をたどる間、私は自分が置かれている状況を整理してみた。
・・・・・・だからといって、何かしらの突破口が見える気なんて全然しないんだけどね。
★
私は今、8月15日~20日の間を行ったりきたりしている。その間に行ったセーブとローディングの数自体は軽く二桁いってると思うし、実際はもう3週間くらい、この時間断片で無為な時を過ごしている。
そもそも、ことの発端は二日後に生じる閉鎖空間にある。
いったいどういう理屈であの空間が湧き上がるのかは、検討もつかない。
わかっていることといえば、閉鎖空間は8月17日の夕方5時前後に発生するということ。そして、この閉鎖空間はだいたい私たちの学校を丸ごと飲み込むように形成されており、その空間内には、特定の人間が「強制的に召喚される」ということーーーこの、二つくらいだろうか。
、強制召還された人間以外は、閉鎖空間には存在できないみたい。だって、何回くりかえしても同じ顔ぶれにしか合わないし、その人数がせいぜい10人程度。夕方の学校がまるごと閉鎖空間に飲まれて、その中に人間が取り込まれるなら、もっと多くの人間がとりこまれてなければおかしいはず。
かわりに、なにやら化け物チックな連中がうようよしている。
それはたとえば吸血鬼だったり狼男だったり、果てはテケテケとかコックリサンとかいう、異国の怨霊まで幅広く登場してくれるーーーいわば、巨大なお化け屋敷状態に学園が変貌してるわけよ。
最初こそ「なにこの不思議空間!」ってテンション上がりまくったけれど、それも本当に最初だけ。
吸血鬼はブサメンの癖に色気出して私を誘ってくるし(だけど、戦ったらやたら強い)、狼男は「月が出てないから変身できない」と一人肩を落としてベンチに腰掛けてるただのおっさんだし(傍から見て哀れ)、テケテケにいたっては即死魔法みたいな何かで上半身と下半身を意地でも折半してくるし(リアルヤバイ)、コックリサンまでくると何されてるかすらわからない。たぶんやつは、ラスボス。
おまけに、閉鎖空間内は基本的に夜で、空はどんより曇り空。水道も通ってないし、食べ物もない。
腹はすくし、のども渇く。そして日が昇ることなく、わけのわからん連中に命がけで追い回され続けるーーーそんな糞みたいなお化け屋敷に、楽しいことなんて、あるわけがない。
さらには、止めとばかりに学校の外には出られない。学校と外界との境界敷をまたごうとすると、三メートルくらいぶっ飛ばされる形で中に押し戻されるのよ・・・・・・
「これくらいかねー?
何回か繰り返して、たしかなことって。あとのことは、ぜんぜん法則性が見出せないものばっかだし」
二三週間繰返して得られた情報が、これで全部。
自分でも、もうちょっとがんばれるんじゃと思う。けれど、最初の方はひたすら一人で逃げ回るのに忙しくて周りに気を配る余裕なんてなかったし、のちのちビッチとヒッキーと知り合ってからも、あの混沌とした状況は解けずじまいで・・・・・・
★
気がつくと、ヒッキーの眼と鼻の先まで来ていた。
つまりは、ヒッキー宅の玄関先ってことね。
きったない扉を前にして、かるく帰りたくなる。
でも、帰らない。帰ったところで、することもないしね。
私は軽く屈伸したあと、体をひねってボキボキといわせた。その後「コブシを握っては開き握っては開きを繰り返し、それを三セット軽くこなしたところで、一気にドアを乱打し始める。
もちろん、無言で。ひたすら5分くらい乱打を続け、ぴたりとやめるーーーあとは、三分待つだけ。カップめんみたいでわかりやすい。
「・・・・・・よし」
呟くと同時に、扉が開かれた。おそるおそるといった体で辺りをうかがおうと顔を出すヒッキー。
私は足をすばやく扉の隙間に入れ込んで、扉を閉められなくした。これで、ヒッキーの「堅固なる自閉の檻」は完璧に封じたことになる。
「ちょっと、あなた誰ですか!」
青ざめた表情で扉を閉めようとするヒッキー。「やめてください、乱暴しないでください」と情けない声を上げながら、必死に扉を引き続ける。
「ちょっと、話があるのよ。ぶっ殺されたくなかったら、家にいれて」
ヒッキーの鼻をつまみつつ、上に引っ張る。体をそり返す形でヒッキーは後ずさり、私はその分前へ進んで、ヒッキー宅に侵入することに成功した。それにしてもこいつ、ちっちゃいな・・・・・・160ないんじゃなかろうか?
「こ、ころさないで!お、お、おね、」
ガタガタと震えるヒッキーを前に舌打ち。そんな私を見てヒッキーはさらにビビッて、丸くちじこまてしまった。
ほんと、マジで何がどうなったらこいつが「ああなる」のかねー?
ちょっとロードして、未来の本人に聞いてきてみたほうが良いだろうか?でも、一回聞いたときは教えてくんなかったし、たぶんだめだろうなーーー。
とにもかくにも、説明を始めなきゃだわ。とりあえず、私の力と、そして、こいつの力と。
そして、二日後に控えた、絶対に逃れられない、あの、「閉空間」についてーーー
次回は
第一話:ノリトル・マルグス:堅固なる自閉の王:check pointD-2:20080815(15:30~16:30)です。
ヒッキー君視点ですね。




