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中国による台湾軍事侵攻の可能性について

掲載日:2026/09/13

 ■はじめに 歴史は予測可能か?

 

 マルクス主義では、「社会は歴史の必然として共産主義へ向かう」と主張されています。この主張に対し、真っ向から反論したのが反証主義で有名な哲学者カール・ポパーでした。

 「科学技術の発展は本質的に予測不可能であり、科学技術が社会制度や政治を大きく変えるため、社会の未来を歴史法則として予測することは不可能だ」

 つまりは、“科学技術の発展は予測できないので、歴史も予測できない”と主張したのです。

 長い間、この反論の妥当性を検証するのに都合の良い事例は現れて来ませんでした。がしかし、近年になり、或いはその事例が現れたのかもしれないのです。しかも、皮肉な事に、共産主義を標榜する中国で。

 

 もう随分と前から、中国は海洋進出の態度を見せていますが、年々それが強くなっているかのような印象を受けます。中国が“海”に軍事侵攻するとすれば、ターゲットにするのは、アメリカにがっつりと護られた日本ではなく、まずは地政学的に非常に重要で、先進的な半導体技術を持ち、歴史的経緯からも因縁の深い台湾であろうというのが一般的な見解になっています。実際、中国は「軍事力を用いてでも、台湾を手に入れる」と主張しているので、不安を抱く人が多くいるのも無理はないでしょう。

 がしかし、その一方で、知識人の一部は「中国に台湾進攻などできるはずがない」と主張しているのです。その可能性は、とても低いだろう、と。そして、その根拠は納得のいくものでもあります。

 海に隔てられた台湾を攻めるのは非常に難しく、また経済的な背景や、労働資源を観ても、中国に大規模な軍事作戦を決行するだけのメリットがあるとは思えない……。コストやリスクの方が大き過ぎる、というのですね。

 ただし、それら根拠は現在の中国、或いは中国を取り巻く環境を鑑みての結論です。仮にそれら全てがひっくり返るような“何か”が起こってしまったなら、中国による台湾への軍事侵攻は一気にリアリティを持ちます。

 ――結論から言いましょう。

 現在、中国はAI開発に力を入れていますが、もし仮にそれが大成功してしまったのなら、中国による台湾軍事侵攻の危険は高くなります。もちろん、条件はそれだけではありませんが、他の条件も、少なくとも埋まってしまう方向に進みつつあります。

 AIはあらゆる産業に影響を与える事が予想されています。既にAIはデスクワークを中心に役に立っていますが、将来的にフィジカルAI…… ロボットの性能が上がれば、それ以外の労働も担えるだけでなく、軍事兵器への転用も可能になってしまいます。中国の大規模軍事侵攻が困難である根拠の一つには、少子化問題の深刻さがありますが、フィジカルAIはそれを解決してしまうのです。

 また、AIには科学技術を加速度的に進歩させる潜在能力があるとも言われています。現在、中国単独では生産できない商品はかなりあると言われていますが、仮に本当にAIにそのような能力があるのなら、その壁を乗り越えられてしまうかもしれません。

 まだまだ懸念点はあります。もし仮にAI産業のリーダーが中国になってしまったのなら、情報戦や情報操作でも中国が優位に立つようになり、中国にとって都合の良い世論誘導を世界中でされてしまうかもしれませんし、中国が経済的圧力としてAIを用いるだろうとも容易に想像ができます。

 ――もっとも、AI産業を大成功させるのは、それほど簡単ではありません。

 ホンダはかつて大きく話題になった世界初の本格的な二足歩行ヒューマノイドロボットであるASIMO(アシモ)の開発・運用を既に終了していますが、その理由の一つに「あまり役に立たない」という点があるそうです。実際、中国のロボットに関しても性能を疑問視する声があり、人間と一緒に働くのなら、ロボットの転倒による人身事故の懸念もあります。また、フィジカルAIと言えば、既に自動運転車が公道を走るまでになっていますが、性能の向上速度は当初予想されていたよりも随分と遅い事が分かっています(中国が出国制限をし始めた点を考えると、やはりあまり上手くいっていないのかもしれません)。

 化学の分野では、AIは既に大いに活用されていて、高い成果を出している事が知られていますが、それだけでAIが科学技術を加速度的に進化させるとは言えないでしょう。少なくとも、現在はまだそこまでの成果は出せていません。

 

 AIの専門家でも、今後のAIの進化については意見が分かれていて、飛躍的に進化するいう意見もあれば、AIを成長させる為の情報の枯渇により、むしろ劣化するという意見もあります。

 つまり、どうなるか分かりません。

 人間が考えもしないデメリットがAIにあり、それにより社会全体が不利益を被る可能性だってあるかもしれません。

 ただ、いずれにせよ、AIが今後の中国の動向を決定づける強力な要因になる事は間違いなく、注視をしていくべきでしょう。もちろん、日本及びに世界各国は戦争抑止に向けてあらゆる手段を尽くすべきで、事前に可能な予防策を執っておくべきでもあります。

 

 ――では、それを考える為に、まずは中国が置かれている地政学的な立場から説明を始めたいと思います。

 

 ■中国は、海洋国家になろうとしている巨大な大陸国家

 

 地政学では、国を大きく海洋国家と大陸国家に分類します。海のあるなしによって、大きな違いが生まれるからです。

 海洋国家は海に護られている為に攻め込まれる危険が少なく、それ故に外敵の脅威にさらされ難いので同盟関係を結び易いという特性を持ちます。また、海は同時に重要な交通ルートでもあり、最もエネルギー効率の良い船という運搬手段によって世界中と繋がれるというメリットも持ちます。海洋国家であるアメリカがこのメリットを活かし、世界各国に軍隊を置いて、世界中に影響力を持っているのは周知の事実でしょう。

 それに対し、大陸国家は攻め込まれる危険が常にあり、外敵の脅威にさらされ続けます。その為、国土や国土拡張に拘る性質が高くなる傾向にあり、同盟関係も結び難くなります。仮に同盟を結べたとしても、攻め込み易い所為で裏切られた場合のリスクが大きく、安心ができません。

 

 さて。

 中国はもちろん大陸国家に分類されます。

 その為、同じく大陸国家のロシアと同様に国土に拘る性質が強く、それが様々な外交問題に発展してしまっています。

 ただし、中国は海洋国家になる事を目指しているとも言われています。現代では、世界で覇権を取る為には、海洋国家でなければほぼ不可能と言われていますから、中国が覇権国家を目指すのであればこれは当然でしょう(因みに、もし仮に中国に台湾を手に入れられてしまったら、日本は中国傘下入らざるを得ないと主張する人もいる程に、台湾は地政学的に重要な位置にあります)。

 ですが、中国が海洋国家になる為には、幾つもの大きな問題を抱えています。

 第一に、中国は周囲を強国に囲まれています。特にロシアやインドは強大で、脅威に備える為に海洋進出に注力できません。第二に、中国の海洋進出を阻む、日本や台湾、東南アジアといった島国が存在しています。当然、その背後には中国を警戒する米国が目を光らせてもいます。第三に、中国の経済問題があります。中国経済は外国に依存している側面があり、諸外国と本格的に敵対できるような状況ではありません。第四に、中国の内政的な事情です。中国は多中心主義であり、決して一枚岩ではありません。国内の中国共産党への反発を抑え込む為に、莫大なコストをかけているのは有名な話です。戦争で疲弊すれば体制を維持できなくなるかもしれません。

 これらが容易に解決できる問題ではないのは簡単に分かるでしょう。ですが、近年になり、“中国の海洋国家化”にとって有利な変化が起こってもいるのです。その一つは“ロシアの弱体化”です。

 知っての通り、ロシアは2022年2月にウクライナ侵攻を開始しました。恐らくは短期決戦で終わらせる予定だったのでしょうが、戦争は長期化し、現在もロシアの国力を疲弊させ続けています。そして、世界各国がロシアに対し経済的制裁を科す中で、中国は協力する姿勢を見せているのです。

 つまり、ロシアは現在、中国に依存してしまっているのです。

 これは中国にとってみれば、目の上のたん瘤であったロシアが脅威ではくなるばかりか、協力者になった可能性すらある事を意味しています。

 変化が観られるのは、ロシアばかりではありません。インドにも近年、主に経済を通しての中国との関係改善が観られます。もちろん、お互いに警戒し合ってもいるはずですが、それでも以前に比べれば互いに脅威は軽減しているものと思われます。また、インドは実は期待されていたよりも経済成長が芳しくありませんし、複数の社会が連合してできているような社会体制になっているので、統率力もそれほど高くないと言われています。この辺りの事情も、中国にとっては好材料になるものと思われます。

 

 このように、まだまだ決定的とは言い難いですが、現在、中国が海洋国家になる為の地政学的な条件が埋まる方向に動いているのです。

 そして更に、ここに経済の国際的な動きが加わります。

 

 ■デリスキングとデカップリング 経済的依存関係の解消

 

 2026年8月現在、緊迫した世界情勢が続いてます。前述した通り、ロシアがウクライナ侵攻を続けていますし、超大国アメリカもイランとの緊張状態が続き、いつ再び大規模な戦闘が開始しても不思議ではない状況下にあります。

 つまり、常任理事国であり、国際的にも巨大な影響力を持つ2国が実質的な戦争状態にあるのです。直接間接を問わず、周辺各国もこれら戦争に巻き込まれていますから、もし仮にこれが50年程前だったなら、第三次世界大戦に発展していてもおかしくはないでしょう。

 ――では、一体、今の時代では、どうしてこれら戦争は他の国にそれほど波及しないのでしょう?

 その原因の一つが、現代は様々な国々が経済で結び付いており、経済的な相互依存関係にある事だと考えられます。

 つまり、経済的依存関係が、戦争を抑止しているのです。

 最も分かり易いので、中国を例に説明しましょう。

 アメリカや台湾は先進的な半導体技術、日本は半導体製造装置の分野においてそれぞれ強みがあります。ですから、中国はこれら国々とそれほど強く対立する訳にはいきません。また、中国はレアアースで世界的なシェアを占めていますから、やはりアメリカや日本などは中国と敵対する訳にはいきません。互いに依存し合っていて、敵対するとお互いに大きなダメージを受けてしまうからです。

 当然ながら、この経済的依存関係は戦争抑止効果を持ちます。

 ですが、それでもこれら国々は対立し合っているのです。だからこそ互いに優位に立とうと、相手国が自国に経済的に依存し逆らえない状況をつくり出す為に競い合っています。そしてそれが、近年、国際的な、「デリスキングとデカップリングの流れ」となって表れているのです。

 デリスキングとは、関係を保ちながらも、制裁をされた場合のリスク回避方法を確保しておく対抗手段で、デカップリングとは、完全な分断を意味します。日本を例にするのなら、中国が世界的シェアを持つレアアースを海底から採掘しようとしていますが、これはデリスキングに当たり、もし全てのレアアースを採掘できたのなら、デカップリングになります。

 多くの国で、当初はデカップリングを目指していましたが、それは現実的に不可能と判断され、デリスキングを目指しているというのが近年の国際社会の傾向です。

 

 ――さて。

 

 仮にこの流れがこのまま続き、互いに経済的依存状態から抜け出してしまったなら、果たして何が起きるでしょうか?

 経済的依存関係は、戦争を抑止していたのですから、当然ながら、なくなれば戦争が起こる可能性を高めてしまいます。もし仮に、この“デリスキング・デカップリング競争”で敗れてしまい、「中国は日本との関係がなくなっても問題ないが、日本やアメリカは困る」といった状況になってしまったなら事態は最悪です。台湾併合に協力するように脅される危険性すらもあるでしょう。

 今後、国際的な動きがどうなるかは分かりませんが、このままデリスキング・デカップリングが進むようなら警戒が必要です。

 ……いえ、完全にそうならないように立ち回るべきなのでしょう。我々は。少なくとも、中国の一方的な勝利のような状況にはしてはならないのです。

 

 ところで、エネルギー資源は“デリスキング・デカップリング競争”においても重要な位置を占めています。ここで原子力発電を思い浮かべる人も多いかと思いますが、実はこの点において、原子力発電には大きなリスクがあります。

 ウラン燃料には、ウラン濃縮が欠かせませんが、約五割もの世界的シェアを占めているのがロシアなのです。ロシアから直接輸入していなくても、ウラン燃料を輸入するのであれば、間接的にロシアが関与している可能性が高く、つまりは原発を推進する事は、デリスキング・デカップリング競争においての不利を意味します。

 前述した通り、ロシアは中国への依存を高めており、近年は明確に日本を敵視しています。もし仮に日本の原発依存度を高めてしまったなら、中国がこの点を利用する可能性は高いと言えるでしょう。

 もちろん、ウラン燃料のロシア依存脱却の流れもあるので、原子力推進をしたとしても必ずしもデリスキング・デカップリング競争に敗れる訳ではありませんが、その場合、ウラン燃料の価格は間違いなく高騰します。

 現在日本は、原油や天然ガスなどの化石エネルギーの輸入で富を流出させてしまっています。その解決手段として、原発団体は原子力発電の推進を訴えていますが、この点は考慮に入れられていないでしょう。もし、原発依存度が高くなってしまった状態で、ウラン燃料が高騰してしまったなら、富の流出が激しくなってしまうリスクがある点はよく把握しておくべきです。

 

 ■AIで中国が優位に立ち始めている?

 

 経済的にも、軍事的にも、AIの発達が近年重要度を増してきているのは周知の事実でしょう。AI自体が利益をもたらしますし、前述した通り、AIを起点として様々な産業が発展する可能性があります。軍事的には、AIドローンやロボットなどで直接的に軍事兵器として活用され、その他にも情報戦において非常に強力な威力を発揮しています。

 例えば、AIによるサイバー攻撃は、既にAIでしか防げない時代に入りつつありますが、その対象には病院や軍事施設、或いは、原子力発電所なども含まれています。近年のアメリカのイランとの戦争では、AIを利用した情報収集が盛んに行われたとも言われています。

 ――こういった点を鑑みるのなら、もし仮に中国にAIで優位に立たれてしまったのなら、安全保障上のリスクが跳ね上がるのはまず間違いないでしょう。

 AI開発はアメリカがリードしていると長年言われてきました。最新鋭の半導体が利用可能である点や、予算規模の差からその優位は当分は揺るぎないと予想されていたのです。ところが近年になり、状況が変わって来ています。

 アメリカは飽くまでAI開発を手掛けた企業がそのAIを貸し出す事で利益を得ようとしていますが、中国のAI開発は発想が根本から違っていて、AI開発企業はそれほど利益を出す事を目的にせず、それよりも中国製AIの普及を優先させているのですが、その試みが功を奏しているように見えるのです。また、最新鋭の半導体を使えないからこそ執っている創意工夫が成功をし、高機能を実現できているとも言われています(ただし、アメリカのAIデータを盗んでいるという疑惑もあります)。その結果、中国製のAIのシェアは間違いなく上がっているのです。

 

 ――そして、デリスキング・デカップリング競争においても、このAIの優位性が重要になって来るのは明らかなのです。

 

 既に述べた通り、だからと言って、中国のAIが全ての分野において大成功するとは限りません。しかし、それでも間違いなく中国のAI産業は成果を出し始めているのです。

 ここで疑問にするべき点があります。

 何故、中国はAI産業において成果を出す事ができたのでしょう? そして、どうして日本にはできなかったのでしょう? 実はこの問題は、社会の発展そのものに関わっているので今後の社会全体の行方を考える上でもキーとなります。

 次はこの点を考えてみたいと思います。

 

 ■中国の腐敗と日本の腐敗

 

 世界の経済史を観ると、経済が停滞、或いは衰退する典型的パターンが存在する事が分かります(参考文献:「経済成長」の起源 マーク・コヤマ、ジャレド・ルービン 草思社)。

 権力を握った既得権益団体が、自分達の権益を護る為に新たな技術・産業を拒絶し、妨害する事で、経済成長が止まり、酷い場合には衰退してしまうのです。

 既得権益団体の“権益”が時代に合っている場合は、権益団体の発展がそのまま社会全体の経済発展に結びつくので発展し続けられるのですが、時代遅れになってしまうと、社会全体の足を引っ張るようになってしまうようになるのですね。

 これは当然ながら、政治の腐敗とも非常に深い関係があります。

 

 さて。

 中国は政治腐敗が酷い事が知られています。国民の不満の原因の一つが政治腐敗で、国民感情に配慮してか、粛清が行われる事もままあります。中国の不動産バブルは、人類史上最大のバブル経済とも言われ、中国各地にほとんど人がいない高級ゴーストタウンが建設されてしまっています。中国の不動産バブルには、政治の腐敗も大いに関与していて、その最も象徴的なのが、世界最大級のダムである三峡ダムかもしれません。

 三峡ダムの建設費用は3兆円以上と見積もられており、不正流用や汚職が指摘されています。継続的な点検や改修が必要であり、その所為で大規模な維持費が中国の国家予算から出されています。しかも、それだけの費用をかけるだけの価値がこのダムにあったのかどうかは怪しく、実際、このダムの下流にある地域は今も水害に苦しめられています。そして、実は三峡ダムには軍事的な懸念もある事が指摘されているのです。

 このダムが決壊すると、下流にある地域の被害は甚大になると言われているのですが、ミサイルなどを用いれば、容易に破壊できてしまえるのです(つまり、皮肉にも、三峡ダムには戦争抑止効果がある事になります。もっとも、もし戦争に短期間で勝てると判断したなら、中国共産党は被害も構わずに戦争を始めてしまうと思いますが)。

 日本も政治腐敗が酷いと言われていますが、こういった点を考えると、恐らくは中国の方がより酷いのではないかと予想できます。

 ――がしかし、それにも拘わらず、中国はAI産業で成果を出し始めているのです。これはどうしてなのでしょうか?

 中国にも時代に合わない既得権益団体は存在します。例えば、中国はかつて一人っ子政策を執っており、それを監視する為の組織(計画生育委員会)がありました。この監視組織は一種の既得権益団体を形成していて、だからこそ、一人っ子政策が終わった後も形を変えて生き残っています。現在の役割は、180度役割が異なった出生促進ですが、十分な成果を出しているとは言えません。つまり、中国経済の足を引っ張ていると思われるのです。

 がしかし、それでも、中国の腐敗している政治には、日本にはない“チャレンジ精神”があります。現状に満足せず、更なる権益確保、繁栄の為に新たな分野に挑む姿勢ですね。これが強欲によるものなのか、それとも経済が未成熟な上に巨額の借金を抱えているからなのかは分かりませんが(或いは、その両方かもしれません)、それでも果敢なチャレンジ精神がある点は事実です。多くの欠点が指摘されてはいるものの、中国製EV自動車はヨーロッパの自動車業界を震撼させていますし、太陽光発電でも世界的シェアを獲得していますし、最近では半導体も伸びています(ただし、成功している分野でも、中国経済には全般的にダンピング疑惑や、過酷な労働環境、自然破壊を顧みない姿勢などの負の側面があります)。

 それに対し、日本にはチャレンジ精神があまり見られません。例えば、中国では自動運転タクシーが既に実用化されていますが(ただし、走行不能に陥った場合、人間による遠隔操作も行われているようなので、どの程度のレベルなのかは分かりません)、日本ではライドシェアリングさえも十分には活用されていません。タクシー業界を護る為に、先進的な技術の受け入れを拒絶しているのです。こういった事が、日本では様々な分野で観られます。

 ただし、チャレンジ精神の欠如、過剰に既得権益を保護してしまう、といった問題さえ乗り越えられるのなら、日本経済にはまだまだ復活の道があります。

 次はこの点を考えてみたいと思います。

 

 ■日本の経済問題を乗り越える為に

 

 今現在、日本政府は莫大な借金を抱えています。借金の為に発行する国債を、日本銀行が膨大に買い入れているので、今のところはドラスティックな国家破産に至る危険性は観られませんが、財政赤字が原因で起こる円安、そして、それと同時に行われている増税は、いずれも債務不履行を意味します。

 この話を疑問に思う人もいるかもしれませんが、もし仮に円の価値が下がり、物価が二倍になったのなら、それは借金を半分踏み倒しているのと同義です。増税に関しても、本来は経済成長による税収増で返さなくてはならない国の借金を、増税によって無理矢理に解決しようとしているのですから、債務不履行であると考えるべきです。

 実際に、石破茂元首相は、首相を担っていた頃、「日本の財政状況はギリシャよりもよろしくない」と発言しました。ギリシャは財政破綻に追いやられていますから、これは実質的に日本が財政破綻状態にあるという発言でもあります。それならば、「ギリシャと同じ様に官僚や政治家などの給与をカットしろ」と言いたくなりますが、日本経済の危機的な状況を問題提起した意味では価値はあったかもしれません。現実逃避をしている人が、世の中には多いですから。

 

 日本は長年、借金によって資金を確保し、それを公共事業などの投資に回して来ました。それら事業が成功し、経済成長していたのなら何の問題もなかったのですが、「失われた30年」といった言葉からも分かるように、失敗をし続けて来ました。

 この失敗は当然です。

 経済成長とは、生産性の向上と、それによって余った労働力などの資源を用いて新たな産業を興す事で起こります。ところが、日本の政治家や官僚達は、車の通らない道路や、利用者のいない建物などを建設しまくっていたのです。それら公共事業では、生産性の向上も起こらなければ、新産業も生まれないのは自明です。つまりは経済成長するはずがないのです。

 では、どうすれば良かったのでしょう?

 例えば、ライドシェアリングを導入すれば、タクシー業界は縮小します。失業者も多く出るでしょう。がしかし、それはタクシードライバーという労働資源が余る事を意味するのです。その労働資源を、新たな産業に活かせば、経済成長が起こせていました。もちろん、似たような事例は他にもまだまだたくさんあります。日本には中間物流業者が他国よりも多いと言われていますが、ITを利用すれば減らす事が可能ですし、多重派遣の中抜き業者もカットが可能です。

 つまり、日本には、まだ潜在的な経済成長力があるのです。

 ――ですが、これら産業には既得権益団体の存在があり、政治家や官僚が規制によって保護…… いえ、改革を妨害してしまっている為に活かせません。

 安倍政権はアベノミクスで、三本の矢を掲げましたが、その内の一つに『規制緩和・規制改革』がありました。これは当にここで説明した通りの、経済成長を阻む規制を何とか取り除こうという政策だったのですが、激しい抵抗にあって敗れてしまいました。もし、『規制緩和・規制改革』が成功していたら、少なくとも今よりは随分と日本経済の状況は良くなっていたでしょう。

 

 さて。

 ここで疑問が思い浮かぶ人もいるかもしれません。

 「日本の財政が危機的状況にあるのなら、どうやって中国とのデリスキング・デカップリング競争に勝てば良いのだ?」

 ですが、実はこの点はあまり心配はいらないのです。経済成長について説明しましたが、経済成長の原理を応用すれば、デリスキング・デカップリング競争の為の対策を進める事も可能だからです。

 まずは、経済成長と“通貨の発行”との関係から説明を始めましょう。

 日本銀行…… 国は通貨発行権を持ちます。もちろん、だからといって、無限に通貨を発行できる訳ではありません。時折、そのように主張している人もいますが間違っています。ただし、彼らが勘違いをしてしまう理由も分からないではないのです。何故なら、今でも日本銀行は通貨を発行しているからです。“成長通貨”といって、日本銀行は経済成長…… GDPの増加に合わせて通貨を発行しているのですね。理由は直感的に分かると思いますが、仮に経済規模が2倍になったのなら、通貨も2倍にしなくては社会全体の取引に支障が出てしまうからです。むしろ通貨を供給しなくてはらないのですね。

 「GDPが増加すると、通貨を発行しなければならない」のです。

 これはつまりは、「GDPが増加させられるのなら、通貨を発行できる」という事でもあります。

 ただし、“通貨を発行できる”と言ってもそれで賄えるのは初めの一回だけです。二回目以降は、料金という形にしろ、税金という形にしろ、通貨の徴収が必要です。もっとも、通貨は循環しているので支出が増えれば収入も増える為、大きな問題はないはずですが(収入には格差がありますが、税制をクッションにすればカバーできます)。

 それでは、GDPを増加させる為にはどうすれば良いのでしょうか? これには先に説明した通り、労働力などの資源を余らせる必要があり、更にそれら資源を活かす為の技術力も必要になって来ます。ただし、これだけではまだ経済成長を理解する事はできません。以下のGDPを求める計算式も把握しておく必要があります。

 消費+投資+政府支出+(輸出-輸入)

 この式を基に、通貨の供給…… 成長通貨の発行が可能かどうかを考えていきましょう。

 まず、“消費”は問題ありません。その生産物が需要され続ける限り、恒久的に発生するので、成長通貨を発行できます。“投資”は産業を興すタイミングで発生するので、一部の例外を除けば一時的なものだと判断できます。なので基本的には成長通貨の発行で賄うべきではありません。“政府支出”に関しては、どのような政策を執るかによりますが、増税と政府支出を組み合わせるのならば、結果的に消費が増えるのと変わらないので成長通貨の発行が可能です。非常に重要なって来るのが次の“(輸出-輸入)”です。輸出<輸入になってしまうのなら、GDPはマイナスになるのでその分の成長通貨の発行はできません。

 軍事力強化について、「国は通貨をいくらでも発行できるから増税は必要ない」と主張している人がいましたが、軍事兵器を国外から輸入するのであれば、成長通貨の発行はできません。また、国内で製造する場合でも、何らかの資源の輸入は絶対に発生してしまう上、GDPが増加すれば労働コストが上昇するので、その分国際競争で不利になる点を考えるのなら、あまり好ましいとは言えないでしょう。

 つまり、“成長通貨の発行”を考えるのであれば、適しているのは、輸出増OR輸入減が可能な生産物だという事になります(なので、軍事兵器の輸出がほぼ確実ならば、軍事兵器でも成長通貨の発行が可能という事になります。心情的には反対ですが)。これを近年話題になっている“レアアース”を例に考えてみましょう。

 知っての通り、中国は日本へのレアアース輸出規制を行っています。それへの対抗処置として、日本側はリサイクルや海底採掘を始めています(デリスキング・デカップリング競争の一環と思われます)。

 通常で考えるのなら、これら日本側の対抗処置に採算性はありません。がしかし、レアアースの採掘によって発生する支出はGDPの増加要因になりますので、成長通貨の発行が可能です。また、中国からのレアアースの輸入が減るので、その点でもGDPの増加が見込めます。ただし、レアアースの採掘等で輸入も必要になって来るでしょうから、それに関してはGDPの減少要因になります。

 レアアースの価格に関しては、税金を投入する事で抑えられます。既に説明しましたが、国内で通貨が循環するのであれば、支出が増える分収入も増えるので、国民の負担にはなりません。

 結果、重点として考えなければならないのは、「レアアースの輸入減>採掘やリサイクルに関わる資源の輸入増」になるかどうかになります。

 もし、「レアアースの輸入減―採掘やリサイクルに関わる資源の輸入増」によるGDP増加効果が十分に高いのであれば、GDP増加に伴う労働コストの増加分も無視して良い程度のものになるでしょう。

 つまり、中国のレアアースの輸出規制への対抗処置が成功する可能性が高くなります(ただし、海底採掘だけでは全てのレアアースを手に入れる事はできません)。

 これに関連した話ですが、生活保護受給者達に労働を義務付けて、レアアースのリサイクル作業の一部を行ってもらう案をそろそろ本気で考えるべき時期に来ているかもしれません。AIからの回答なので、何処まで正しいのかは分かりませんが、生活保護受給者達にでも行える専門性の低い単純作業がリサイクルの工程にはあるのだそうです。これが実現すれば、更に“中国のレアアース輸出規制”への対抗処置は成功する可能性が増します。労働資源を節約できますから。

 生活保護受給者は国民年金受給者よりも生活水準が高く、不公平である点が以前より指摘されています。また、外国人の生活保護受給者に対する批判もありますが、これら批判は生活保護受給者に労働を義務付ける事で緩和するでしょう。リサイクル以外にも特定外来生物の除去など、人手が足らない仕事はたくさんあるので是非とも働いてもらうべきだと思います(もちろん、酷い病気や怪我などがあるのなら、労働は免除するべきでしょうが)。

 以上、説明して来た方法は、再生可能エネルギーの普及などにも応用が可能です。エネルギー資源の輸入が減るので、条件を満たすからです。再生可能エネルギーの普及はエネルギー自給率を高め、安全保障上のリスクを低減する意味でも重要なので、是非とも進めるべきだと考えられます。

 

 この方法は、ある程度は成長通貨の発行で賄えるので、財政状況が厳しくても活用する事が可能です(もちろん、まったく問題がない訳ではないのですが)。波及効果もありますから、税収増効果も期待できます。つまり、財政が破綻状態にあったとしても絶望する事はないのです。

 

 ■中国による台湾有事を抑制する為には

 

 繰り返しますが、もし仮に中国がAI産業で大成功をしてしまったのなら、台湾有事が発生する可能性は高くなります。しかし、だからと言って、それで戦争が起こると決まった訳ではありません。日本などが国力を上げれば抑止効果になりますし、安全保障上のウィークポイントを減らす事も有効でしょう。

 その為には、ある程度の軍事力強化は認めるしかないかもしれません。また、ウクライナ侵攻でロシア軍が原子力発電所をターゲットにした点からも分かるように、原子力発電所も日本の大きな弱点になりますから避けるべきです。

 先にデリスキング・デカップリング競争で、原子力発電所は不利になると説明しましたが、直接ターゲットにされるリスクも無視できません。サイバー攻撃を受けるかもしれませんし、核廃棄物が琵琶湖にでも放り込まれたらそれだけで大ダメージです。

 また、先に説明した「成長通貨の発行による経済成長」はAIの開発にも応用が可能です。或いは、それで中国のAIに対抗できるようになるかもしれません。

 

 ――さて。

 これらは飽くまで日本や諸外国の強化という意味での戦争抑止手段です。ですが、より望ましいのは、中国に働きかける事でしょう。中国から台湾軍事侵攻の意志がなくなれば、台湾有事のリスクは大きく減退します。

 僕はこの手段は存在すると判断しています。しかも、それは比較的実行が容易です。

 ――何故なら、今まで説明してきた「成長通貨の発行による経済成長」がほぼそのまま、中国に働きかける手段になるからです。軽く説明をしましょう。

 

 まず、もし仮に「成長通貨の発行による経済成長」に成功したなら、アメリカやヨーロッパなども活用するようになるでしょう。ヨーロッパは地球温暖化の負荷をより強く受けているので、その危機感から再生可能エネルギーを普及させる事が予想できます。「成長通貨の発行による経済成長」を使えば、中国製の太陽光発電パネルに頼る割合も減るでしょうから、中国にとっては大きなダメージになります。もちろんそれ以外の分野でも同様です。つまりは国際競争における“安い製品”の有効性が弱くなるのです。

 中国はこれまでダンピングや過酷な労働、自然破壊などを無視した生産体制で安価な製品を販売し、国際競争力を強めて来ましたが、その有効性が弱くなるのです。そして、その一方で中国は「成長通貨の発行による経済成長」が活用し難いのです。

 何故なら、これを使う為には、ある程度公正に労働賃金を支払う必要がありますが、中国は一部の権力者が富を独占している為にこれができないからです(権力者が、成長通貨の発行分に関しては、真面目に税金を支払うのならその限りにあらずですが、恐らくそうはならないでしょう)。いえ、もし仮に、公正に労働賃金を支払ったとしたら、一般の中国国民が力を付け、中国共産党は国内の反発を抑えられなくなる可能性が高いでしょう。

 “内憂外患”は中国の伝統と言われていますが、今もそれは続いているのです。

 或いは、「成長通貨の発行による経済成長」で日本が経済成長に成功したなら、こう中国国民に対してアピールをしても良いかもしれません。

 

 「この方法は、政府が国民の幸福を本当に考えているのなら簡単に使える。それができないのは、政府が国民を蔑ろにしている証拠だ」

 

 絶対に中国共産党は怒るでしょうけどね。

 あ、もちろん、これは日本にも当て嵌まります。本当に日本政府が国民の幸福を考えているのならこの方法は簡単に使えます。

 

 最後に、AIのリスクについて強調しておきます。

 今までは、ほとんど「中国がAIのリーダーになる事の脅威」しか説明して来ませんでしたが、AIにはリスクもあります。

 「人類を滅ぼしかねない」

 という極端な意見もありますが、そこまで大袈裟じゃなくとも、AIが犯罪を行う、或いは、犯罪に利用されるリスクがあります。実際、AIが注文詐欺の方法を学習してしまった事があるそうなので、AIの所有者が、「売り上げを高くするように」とAIに指示を出してしまったなら、AIが詐欺を行ってしまうかもしれません。

 AIは統計処理を行っているだけなので、意識など存在しないと(今のところは)言われていますが、意識など存在しなくても、人を騙すし、人を支配するように振舞う事すらも充分に考えられます。

 生物が、毒を持っているかのように擬態をするよう進化する場合がありますが、ここに意識は存在しません。ですが、それでも他の生物を欺こうとしています。

 中国はリスク評価の甘い国なので、或いはこれらリスクがあっても、AI開発を止めないかもしれません。そして、その結果、中国ばかりか、世界全体に大きな被害をもたらすかもしれないのです。

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