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落語【声劇台本書き起こし】

落語声劇「粗忽長屋」

作者: 霧夜シオン
掲載日:2026/04/30


落語声劇「粗忽長屋そこつながや


台本化:霧夜きりやシオン@吟醸亭喃咄ぎんじょうていなんとつ


所要時間:約30分


必要演者数:3名

      (0:0:3)

      (3:0:0)【性別準拠人数比率】

      (2:1:0)

      (1:2:0)

      (0:3:0)


※当台本は落語を声劇台本として書き起こしたものです。

よって性別は全て不問とさせていただきます。

(創作落語や合作などの落語声劇台本はその限りではありません。)


※当台本は元となった落語を声劇として成立させるために大筋は元の作品

 に沿っていますが、セリフの追加及び改変が随所にあります。

 それでも良い方は演じてみていただければ幸いです。


●登場人物


八五郎はちごろう:そそっかしい男、粗忽そこつ野郎一号。

    行き倒れの男を見て自分の親友である熊五郎くまごろうと勘違い、

    世話役に指摘されても考えをいっこう改めない頑迷な性質。


熊五郎くまごろう:そそっかしい男、粗忽そこつ野郎二号。

    八五郎はちごろうにお前は死んだと繰り返されて素直に信じてしまう、

    素直なんだか愚鈍なのかわからない性質。


野次馬1:行き倒れを見物し隊その1。


野次馬2:行き倒れを見物し隊その2。


世話役:行き倒れを片付けたい人。

    八五郎はちごろう熊五郎くまごろう熊八くまはちコンビに振り回される、

    ある意味かわいそうな常識人。


●配役例


八五郎:

熊五郎・野次馬1:

世話役・野次馬2:


※枕は演者の誰かが兼ねてください。


枕:人間というものは十人十色、様々な人間がこの世にはおります。

  中でもこの、物事に対して大変に慌てるという人がおりますが、

  【自分のそそっかしいエピソードを語っても良い】

  もちろん、そそっかしい人がいるという事は、反対に落ち着いている人

  というのもいるわけでして、

  そういう人はおもてを歩いていても危険な目にはあわないし、

  逆にこう、なんか落とし物をひろっちゃったりなんかします。

  しかしながら、どっちが見ていて面白いかと言いますと、これはやはり

  そそっかしい方の人なんですな。

  慌てて表へ行こうとして、扉を開けないうちに出ようとするもんだから

  バーンとぶつかってみたり、

  夜中に寝ぼけて起きて洗面所の鏡をふと見たら、そこに映っている

  自分の顔を見て驚いちゃったり、

  あるいはコロナが流行はやってからさらに増えたと思うんですが、

  マスクをしたまんまつばをパッと吐いちゃったりなんかしてね、

  まあ色んな人がおります。

  しかし、ただそそっかしいだけならいいんですが、そう思い込んだものを

  間違まちがっていない、正しいんだと信じて疑わない、

  そういう厄介やっかいな考えの持ち主がそそっかしいと、

  やたら事が面倒めんどうになりますもののようで。


八五郎:お?いったいなんでェ?

    ずいぶん人だかりができてるな。

    ちょっちょっちょっ、ちょいとすまねえ、これ、なんだい?


野次馬1:さあー?


八五郎:さあー?雨みてえだな。


野次馬1:雨みてえだってなんだよ。


八五郎:その中、なんすか?


野次馬1:さあねえ?


八五郎:さあねえって何だよ?


野次馬1:いやぁ、なんですかねえ。


八五郎:なんですかねえって、さっきからそこに立ってんなら知ってるだろ。

    中ァなんすか?


野次馬1:わかんないよ。


八五郎:中ァなんすか?


野次馬1:だからわかんないよ。


八五郎:わかんないのになんで見てんだい。


野次馬1:いや、そのうちにわかるんじゃないかと思ってね。


八五郎:そのうちにわかるんじゃないかと思って、

    そのうちにわかんなかったらどうすんでェ?


野次馬1:そりゃしょうがないよ。


八五郎:しょうがないの見てたってしょうがないと思わねえのかい?


野次馬1:そらそうだ。


八五郎:なにがそらそうだだ。

    おかしいんじゃねえのかい?


    ねぇねぇねぇねぇ!!


野次馬2:なんだね。


八五郎:この中ァなんだい?


野次馬2:行き倒れだってさ。


八五郎:え?何だって?


野次馬2:行き倒れ。


八五郎:へえ、行き倒れ。見たいね。

    見えませんかね?


野次馬2:そりゃあ無理だよ。こんなに人が大勢いるしね。

     気になって見たいんだけど見れねえんだ。

     まぁでも大きな声がないとこを見ると、ケンカじゃないね。

     他の事でしょうな。


八五郎:へぇそうかい。

    なんだか気になってしょうがねぇよ。

    前へ出て見てみてぇって心持ちはするんだが、どうしたらいいかね?


野次馬2:いや、そりゃあたしだって前へ出て見たいけどね。

     でもこんなに大勢いたんじゃ、とても前へ出られないよ。

     まぁ、どうしても見たいってんならよっぽど高い所に上るとか、

     人のまたぐらくぐって前へ出ていくしかないね。


八五郎:はあぁなるほどね、たしかに人の股ぐらくぐって行けばいいや。

    じゃ、ちょいとごめんなさいよ!


野次馬2:えぇッちょっちょっちょっと!?


八五郎:【次々と野次馬の股の下をくぐっていく】

    はいごめんよッ、はいごめんよッ、はいごめんよッ!

    ーーっとォ!へへ、出て来ちゃったよ…って、え?


    なにもやってねえじゃねえか。

    なんで皆ぼんやりつっ立ってんだ?

    お?あすこにいるおじさんが、今から何かするのかね?

    どうも!


世話役:ああ、どうも。

    …ずいぶん変な所から出てきたな、お前さん。

    いったいなんだい?


八五郎:いやぁ何ってほどのもんじゃないんだけどね。

    通りがかってちょいと気になったもんだからさ。

    それで、まだ始まらないのかい?


世話役:いや、これァ別に何か始まったりするもんじゃないんだけどね。


八五郎:え、そうなの?

    じゃ、いったいなんなんだい?


世話役:行き倒れなんだよ。


八五郎:あ、行き倒れ?そうなんだ。

    じゃ、これから行き倒れが来て踊るんで?


世話役:…なんだか物の分からない人だね、お前さんは。

    行き倒れを知らないのかい?

    ほれ、あたしの前にコモが掛かってるだろ。

    ちょいとめくって見てごらんよ。


八五郎:あ、そう?これが行き倒れ?

    じゃ、見ちゃっていいかい?

    いやあ、あとから来ちゃって悪いなア。


世話役:別に悪いってことは無いがね。

    まあ見てごらんよ。


八五郎:じゃ、ちょいと失礼して…


    あらっ!?

    まあなんだいこいつは、ええ?

    よくもまあこんな所で…おい、みっともねえからしなよ!

    こんなとこで寝てねえで起きな!


世話役:お、ぉおいおい、なに言ってんだよ。

    寝てるんじゃないんだ、ほら、死んでるんだよ。


八五郎:ぇっ、死んでんの!?

    さっき生き倒れだって言ってたじゃねえか。

    死んでて生き倒れってのはおかしいよ。


世話役:お前さんと問答もんどうしたってしょうがないよ。

    本当を言えば行き倒れって、そんな事はどうでもいいんだ。

    顔をちょいと見てくれ。身元みもとが分からなくて困ってんだ。

    ほら、一度見た人は他の人とどんどん入れ替わってくれ!

    見せ物じゃねえんだからな。

    で、どうだいお前さん、この顔に見覚えは無いかい? 


八五郎:えぇと、ちょいと待ってくれよ…。

    どっかで見た事のあるような顔だな…。


世話役:え、本当かい?

    なんとかして思い出してみてくれよ。


八五郎:えぇとこの顔、この顔はね……


    あぁッ!!


    おいッ熊!何してんだ!おいッ、しっかりしろ!

    起きろッ!


世話役:起きやしないよ!

    それよりお前さん、熊なんて名前を呼んでるとこを見ると、

    この人を知ってるのかい?


八五郎:知ってるどころの騒ぎじゃねえ!こいつァ兄弟分だよ!

    生まれる時は別々でも死ぬ時は別々って仲なんだ!


世話役:いやそりゃあたりめえだろ。


八五郎:だから、あたりめえの仲なんだよ!


世話役:そうかい!いや、そりゃよかった。


八五郎:なにをゥ!?良かっただァ!?

    友達が死んで何が良いってんだ!?


世話役:いやそうじゃないんだよ。

    身元みもとが知れねえで困ってたんだ。

    お前さんに見てもらって良かったよ。

    それじゃお前さん、なんとかしておくれ。


八五郎:ぇ、ぇっ、な、なんとかしてくれって、ど、どうすりゃいいんだい?


世話役:どうすりゃいいって、この人のおかみさんに知らせるとかして

    おくれってんだよ。


八五郎:ぃ、いや、こいつかかあはいねえんだ。

    親も無ければ兄弟もいねえ、たった一人ぼっちのかわいそうな

    野郎なんだよ。


世話役:そりゃ弱ったね…、じゃあお前さんが引き取ってくれるかい?


八五郎:ぉおそりゃあたりめえだよ!

    ぐすっ…情けねえなァ人間なんてものぁなァ…、

    ぐすっ、一寸先いっすんさきは闇だって言うがまったくでェ、

    こんな事になっちめェやがってほんとに…ええ?熊ァ…

    この、ばかやろう…!

    いや、そういやね、今朝会った時にどうも様子がおかしいと

    思ったんだよ。

    顔色が良くねえからどうしたんだお前って聞いたら、

    「なんだか知らねえが寒気さむけがする」って言うから、

    そらァきっとおめえ風邪をひいたんだ、って。

    風邪ってものはうっちゃっとくとしまいには大風邪おおかぜになるから

    気を付けろって、そう言ってやったのに…。

    やっぱりこの野郎、大風邪おおかぜで倒れたのかね…?


世話役:大風で倒れるって、まるでへいだよそれじゃ…。

    えぇとなんだって?お前さん、今朝その友達に会ってんのかい?

    じゃあ違うよ。この人はな、ゆうべからここに倒れてんだ。


八五郎:倒れてた?ああそうだろうよ、そういう野郎なんだよそいつは!

    もう大変にそそっかしい奴でね!

    てめえで倒れたの忘れて家に帰って来ちゃったんだよ!


世話役:いやいや、なに言ってんだい。変なこと言うなよお前さん。

    いいかい、その友達に今朝会ってるんだろ?

    この人はゆうべからここに倒れてるんだから、人違いじゃねえか。


八五郎:いぃや人違いじゃねえかってあんた、そいつを知らねえから

    そんな事言うんだよ!

    なにしろそそっかしい奴なもんだから、てめえのケツこうと思って

    人のケツいちまう奴なんだ!

    だからもうほんとうによ、倒れたの忘れて帰ってきちゃったんだよ!


世話役:あのな…しっかりしておくれよ。

    いいかい、この人はゆうべからここに倒れてるんだ。

    お前さんがその友達に今朝会ったって言うんならその人じゃないだろ。

    まったくの別人じゃないか。


八五郎:いやっ、いや!

    じゃ、じゃあなんでェ、あんた、どうしても違うって言うのかい?


世話役:そうだよ。


八五郎:じ、じゃあなにかい?

    あっしが、あんたをだましてこの死骸しがいを持ってくみたいじゃねえか!

    そんなこと言われるってぇとあっしも悔しいよ。

    じゃあこうしようじゃねえか。

    間違まちがいのねえように、当人をここへ連れて来てやるよ!


世話役:なんだいその当人てのは。


八五郎:だからこの行き倒れの当人を連れてくるってんだよ!

    それで見比みくらべてみりゃおめえさんだって、なるほどと得心とくしんがいくんだ。

    じゃ、ちょっと連れてくるからよ、そこで番をしててくれ!


世話役:お、おい、ちょっと待ちなよ!


八五郎:けっ、誰が待つかィ!

    【二拍】

    ったく、なに言ってやんでェ本当によ!

    人のことうたぐりやがって、悔しいったらねえや!

    それにあんちきしょうもあんちきしょうだ。

    倒れたってんならそこにそのままいりゃいいんだ。

    なにも帰ってくるこたァねえだろうが。

    まったくどうもしょうがねえな。

    うぉぉーーーーいッッ!!!熊ァァッッッ!!!

    【戸をドンドン叩きながら】

    おい熊公くまこうォッ!!おい熊ァッ!!熊熊熊ァァッッ!!!


熊五郎:うるさいね本当に…

    はちのやつが長屋ながやに帰ってくるとうるさくてうるさくて

    しょうがねえよ。

    熊ァー熊ァーって、誰のこと呼んでんだよ……ぁ、俺だな。

    はいはい…って、バカだなあいつは。

    てめえの家の戸を叩きながら俺を呼んでやがるよ。

    自分のうちもわからなくなっちゃうんだからしょうがねえな。

    ぅおぁいッ!ここだここだ!


八五郎:あッこんちきしょ、てめえいつそこへ越したんだ!?


熊五郎:越してねえよ、前からここだろうが。


八五郎:あ、そうか。

    っていや、んな事はどうでもいいんだ。

    おめえここでのんびりしてる場合じゃねえぞ。

    大変な事になっちゃったんだ。


熊五郎:どう大変なんだよ?


八五郎:聞いて驚くんじゃねえぞ。

    俺ァ今朝あの浅草な、あの、金毘羅こんぴら様…じゃねえや、浅草の…あの、

    観音様にお参りに行ったんだ。

    それでお参りすまして出てくると人が大勢たかってんだ。

    なんだろうと思って人の股ぐらくぐって、前に出てったんだ。

    そしたらそれがおめえの前だけどもな、行き倒れなんだよ。


熊五郎:へえぇ、うまくやりゃがったなァ。


八五郎:おめえも知らねえな?俺も知らなかったんだ。

    世話役せわやくの人がな、そこにコモが掛かってるのがそうだから

    見てみろって言うからめくって見たんだ。

    そしたら人が倒れてんだな。

    寝てんのかなと思ったらそうじゃねえ、死んでんだって言うんだ。

    それで顔をよく見ろって言うからじーっとながめてたら、

    俺ァ驚いちまったよ、ええ?

    いいか、落ち着いて聞けよ…それがな、おめえなんだよ!


熊五郎:ハァ?俺が!?

    ッじゃぁなにか、俺が浅草で、倒れてるってのか!?


八五郎:そう!

    おめえはゆんべ、浅草で死んだよ…!


熊五郎:【だんだん慌てだす】

    死んだって…俺ァやだなそういうの…俺やだァそういうのは…!

    だってッ、俺ッ、嘘だよそんなッ、死んだような心持こころもちが

    しねえよ…!?


八五郎:バカ野郎、おめえ今まで死んだことがあんのか?

    初めて死ぬのに、死んだ心持こころもちが分かるわけねえじゃ

    ねえか。

    おめえ今朝、寒気さむけがするって言ってたろ?


熊五郎:ああ、いまだにゾクゾクする。


八五郎:それが死んだ心持こころもちなんだよバカ野郎。

    でな、それァ俺の友達だって言ったんだが、向こうが信用しねえ

    んだよ。

    しょうがねえから当人を連れてくるって言ったら、向こうもこの

    当人という言葉には逆らえなくなっちゃったんだろうな。

    だから番をしててくださいよっつって、俺ァおめえんとこへ呼びに

    来たんだ。

    これから死骸しがいを引き取りに行かなくちゃいけねえんだから、

    おめえも一緒に来い!


熊五郎:いやそうは言うけどよ、今さらこれがあっしの死骸しがいですなんて、

    みっともなくて行けねえよ。


八五郎:そんなこと言ってる場合か!

    ぐずぐずぐずぐずしてるうちに、誰かにられちゃったら

    どうするんだよ!持ってかれちまうぞ!

    早く来いこんちきしょう!


熊五郎:お、おぉいおい、待ってくれよ!


    【二拍】


八五郎:っとにしょうがねえ奴だよ、おめえは。

    今度から倒れたらな、そばにいて離れるんじゃねえぞ!

    帰って来ちゃダメだぞ!

    ほら、あの人だかりがそうだ。

    いいか、あと付いてこいよ。

    おぅどいてくれどいてくれごめんよごめんよッ!

    行き倒れの当人を連れてきたんでェどけどけちきしょうッ!

    熊公くまこう、こっちだこっち、入ってこい入ってこい!


    おうッ!さっきはすまねえ!


世話役:また来たよあの人。

    話が分からねえで困るんだよ、しょうがねえな。

    お前さん、違っただろ?友達じゃなかったろ?


八五郎:あ、それよ、家へ帰ってそう言ってやったら、何だか知らねえけど

    死んだような心持こころもちがしねえってんで、分かり切った事なのに

    強情を張ってんだ。

    しょうがねえからこんこんと言いきかしてやったら、

    やっと何だかその気になってきたってんで一緒に連れてきたんだ。

    おい熊公くまこうッ、早くこっち来いこっち!


熊五郎:ちょ、ちょいと待ってくれよ兄弟…!


八五郎:ほら、あの世話役のおじさんに色々と世話になってんだから、

    よく礼を言わなくちゃダメだぞ。


熊五郎:そ、そうかい。

    ぁ~どうもすいやせん、いろいろとお世話になりまして、

    ありがうございました。


世話役:同じような人が増えちまったよ…。

    しょうがねえな、二人してわかんねぇってのは…。

    じゃ、いま来たそこのお前さん、そこのコモを取って顔を見てみな。

    そうすりゃ自分ではっきりわかるんだからよ。


熊五郎:ぇっ、ぁあいえ、結構ですよ。

    なまじ死に目に会わないほうが…。


世話役:な、なにを言ってんだい…。

    いいから早く見てみなよ。


熊五郎:ぇぇ…っそ、そうですかい…?

    お、俺ァは怖いの嫌いなんだよ…き、兄弟、そばに付いていてくれよ、

    いいかい?

    っぁぁ嫌だな本当に…こういうの苦手だから見たくねえんだよ…、

    あぁ嫌だ…あぁ怖い…ううぅぅ……っ。

    【二拍】

    ぉい、おい兄弟、これァ俺かい…?

    これ、俺にしちゃずいぶん汚ねえツラしてんなァ…。


八五郎:ずうずうしいこと言うんじゃねえよ。

    おめえそんなに綺麗きれいなツラじゃねえだろ。

    死んだからよけい汚くなっちゃったんだよ。


熊五郎:そうかい?

    しかし俺にしちゃ少し顔がなげぇようだよ。


八五郎:そりゃ一晩じゅう夜露よつゆにあたったから伸びちまったんだよ!


熊五郎:そうかねぇ?


八五郎:そうかねってこんちきしょう、てめえでてめえが分かんなきゃダメだろ!

    どっからどう見たっておめえじゃねえかよ!


熊五郎:うぅんそうかなぁ、うぅぅぅんんんんんんん……ぁぁあああッッ!!!


    俺だ!!


八五郎:おめえだろ!?


熊五郎:俺だ!!!

    あああぁぁぁぁああ情けねえぇぇぇこの俺がぁぁこんな浅ましい姿に

    なってぇぇ……。

    こんなことになるんだったらもっとなんか食っとけばよかった…!

    あぁぁぁ情けねええぇぇぇ…!


八五郎:そうやっていつまでも泣いてたってしょうがねえや、な?

    とにかく運ばなくちゃいけねえ。

    俺が足の方を抱いてやるから、おめえは頭のほう抱け。


熊五郎:そうかぁすまねえぇ、あぁぁこの俺が……ーー


世話役:おぉいおいおいッお前さんがたッ!

    どこへ持ってこうってんだよ!


八五郎:いいじゃねえか、てめえの物てめえで持ってったって!

    何が悪いんだ、なぁ!?


熊五郎:そうだとも、あぁぁこの俺が情けねぇぇ…!

    俺ぁぁ……ぉい兄弟、俺ぁちょっと分からなくなっちまったぁ…。


八五郎:何がだよ!


熊五郎:何がじゃねえよゥ。

    ここに抱かれてんのは俺だろ?


八五郎:そうだよ!おめえだよ!


熊五郎:じゃあ抱いてる俺はいったい、どこの誰だろう?




終劇



参考にした落語口演の噺家演者様(敬称略)


古今亭志ん朝(三代目)

立川談志(七代目)



※用語解説


粗忽そこつ

軽はずみで、そそっかしいこと。

また、そのさまや不注意で引き起こしたミス(粗相)を意味する。


・コモ

わらを編んだ敷物や荒筵あらむしろのことで、農業用や園芸用(幹巻、根巻)、

装飾用(菰樽)として使われる。




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