48話〜私だけを見て?〜
球技大会の全試合が終了し、我々は見事に総合優勝する事が出来た。会長率いる3年1組もかなりの好成績を残していたけど、我々の方に軍配が上がった。
得失点差かな?良くは分からんが。
分からんと言えば、会長の態度も分からなかった。
バスケの表彰台に上がった時、会長からメダルを掛けて貰ったのだが、何故か俺だけジッと見られてなかなかメダルを渡して貰えなかったのだ。
優勝を逃したから、その元凶である俺を恨んでいるのかとも思ったが、向けてくる視線に嫌な感じはしなかった。どちらかと言うと、何か俺に期待している様な、興味を持っている様な感じを受けた。
…気のせいかもしれんが。
「「うぇええい!」」
「優勝おめー!」
「「おめー!!」」
そうして無事に表彰式も終えた我々は、現在、祝勝会を開いていた。
総合優勝した我々には食堂を使う権利が与えられ、キッチンと腕のいいコックも付与された。そうして、彼ら彼女らが作り出す豪勢な料理の数々に、舌鼓を打って笑い合っていた。
勝利の余韻を、分かち合っていた。
この料理も、会場費も、スタッフの給金も全部、学校の運営費から出ているそうだ。その約7割が黒沢グループからの支援金と言うのだから、親父殿には頭が上がらない。
…まだ一度も、顔を合わせた事すらないけれど。
「お疲れ、黒沢」
端っこの方で会場を見渡していたら、木下君達がやって来た。来て早々に、ウザ絡みをしてくる。
「おい、飲んでるか?黒沢」
「こんな所でチビチビやってるなんて嘘だぜ。今日の主役様だろがよ、お前」
あれ?成田君、もしかして酔っ払ってる?お酒でも混ざってたりするのか?
俺は驚き、手に持っているだけだった紙コップに口を付ける。
……うん。普通のジュースだ。こりゃ、雰囲気に酔っているな。
「主役って…それはみんなもでしょ。総合優勝は全員で勝ち取ったものなんだからな」
「おっとぉ。いい事言うなぁ、黒沢はよ」
「さっすが、財閥のお坊ちゃんは違うぜ」
財閥じゃないぞ?ただ、親に財力があるだけだ。
そんな思いは、木下君達には届かない。
「今の言葉、すげぇ良いよ。絶対、みんなにも聞かせてやるべきだ」
「おっ、良いじゃんそれ。木下の意見に賛成!ほら、今日の主役、ステージ行くぞ!」
うん?どう言うこと?
戸惑う俺を食堂奥へと連れてく成田君。そうして、お誕生日席に設置された低い台へと押し出すと、何処からかマイクまで持ってきた。
おいおい。ここでスピーチしろって?
まぁ、余興も用意して無いし、暇つぶしに丁度良いか。
俺は成田君からマイクを受け取る。
『え〜。皆さん、ご歓談中のところ失礼します。飲み食いしながら、適当に聞き流してくれると幸いです』
「よっ!黒沢、良いぞ!」
「待ってました、我らが大将!」
「大将、何時ものやったげて!」
『おぅ、聞きたいか?俺の講演会』
「「聞きたーい!!」」
男子達のノリに乗っかったら、何故か女子達の方から多くのコールを頂いてしまった。
これは…雑談で終わらせちゃダメだな。ある程度真面目な話をするとしよう。
『え〜。皆さん!お疲れ様でした!こうして盛大に祝えるのも、各種目で優秀な成績を収める事が出来たからです。全部の種目で本戦出場、良くやってくれたぜ!みんなぁ!』
「「うぉおお!」」「「いぇーい!」」
俺の掛け声に、みんなが喜びの声を上げる。互いに互いを褒め讃える。
「ホントだぜ。良く勝てたな、ドッヂボール」
「バレーもスゲぇって。3位だぜ?3位」
「いや、1番はどう考えてもバスケだろ?」
「それな」
みんなの目が、こちらを向く。1番手前で鼓舞していた成田君が手を挙げた。
「黒沢!どうやってあの生徒会に勝ったんだよ?体力もバケモン染みてるだろ?あの人」
「最後はヘロヘロだったもんな。会長」
「どんな鍛え方したんだ?大将。教えてくれ!」
中野君も便乗して、俺に問うて来る。
俺は一つ、頷く。
『そうだね。ガムシャラにダイエットした、としか言いようが無いが…体重が元々重かったってのも、勝てた一因だ』
「はぁ?どう言う事だよ?」
おっと、すまん。これだけじゃ分からんかったか。
『つまり、超重量の体で動く事に慣れていたから、痩せた今は余計に動き易くなっていたんだ。太っていたから、この筋肉を手に入れられた様なものだ』
そう言って軽く力こぶを作ってみると、男子よりも女子からの歓声の方が大きかった。
アイドルに向けるような黄色い歓声。
もしかして、マッチョ好きなの?みんな。
「ああ、なるほどな。デブって言うのも、考え方次第ってことか」
『そうだ!その通りだぞ、木下君!』
とても良い言葉に、俺はつい彼を指さしてしまった。
そのまま、みんなに語る。
『考え方を変えれば、不利だと思った事がチャンスになる。デブだからと諦めなかったから、俺がここに立てたのと同じ様に。完全無欠の生徒会長に勝てたのと同じ様に!
努力ってのは、きっと何処かで花開くんだ。それが自分の思ったタイミングでなかっただけで、人は諦めたくなってしまう。だがきっと、何時の日にか役に立つ。思わぬ所で自分を助ける。だから!』
俺は集まる視線に投げかける。心の中の、この熱を。
高く、右拳を掲げる。
『安心して努力していい。心の炎を燃やせるその才は、きっと己を輝かせるものだから!俺達が今日、総合優勝を勝ち取った様に!』
おっと。あまりに語り過ぎてしまった。
シンッとしてしまった会場を見て、俺は上げていた右手を下ろす。その手で頭を搔いて『失礼しました』と言おうとした。
でも、その言葉を吐く前に、拍手が聞こえた。
ポツリ、ポツリと小雨の様に。
そしてそれは、すぐに大雨となった。
みんなの手から鳴り響く、スコールとなる。
「「うぉおおお!!」」
「「キャー!!」」
「くろさわぁ!」
「超カッコイイわ!黒沢くーん!」
「どーも、皆さん。どーも、ありがとう」
予想以上の盛り上がりに、俺は慌ててマイクを成田君に返し、何度もお辞儀しながら拍手喝采の中をすり抜けようとした。でも、誰かの横を通る度に、背中を叩かれたり、握手を求められてしまう。
政治家にでもなった気分だな。今なら、生徒会長になれるかも。
「いやぁ。流石っすね、虎二さん」
元の場所に戻ってくると、ヒデちゃん達が料理の乗ったお皿を持って出迎えてくれた。それを、俺に差し出しながら褒めてくる。
「今のって、即興ですよね?これをお父様がご覧になったら、パーティーでもスピーチを頼まれるんじゃないです?」
「うん?パーティー?」
聞き慣れない言葉を聞き返すと、ヒデちゃんは「またまた」と乾いた笑い声を上げる。
「偶に呼ばれるじゃないっすか。会社が開いたり、何処かの政治家が開く社交界パーティーに」
ヒデちゃんが言うには、そう言う上流階級の催し物に、俺も参加する事があるらしい。今までの俺は、料理を平らげるだけの存在だったらしいが、あれだけ弁が立てば声も掛かるのでは?とのこと。
「随分と詳しいんだな、ヒデちゃん」
「当たり前っすよ、虎二さん。あっしも何度かご一緒したじゃないですか。あっしの親は、黒沢社長の秘書ですからね」
うぇええ!?そうだったの?
もしかして、成金ブタだった頃の俺にも付き従っていたのって、親の為だったんじゃないの?
「もしかして、マモちゃんの親も?」
「違うよー。僕ん家は、八百屋だよー」
おお、そうか。マモちゃんは純粋に、友達になってくれた口か。
…いや、そうとも限らんぞ?マモちゃんって優しくて流されやすいから、虎二がいい様に丸め込んだんじゃないだろうか?お金で動くタイプでも無さそうだし。
「虎二さーん。動画撮ったけど、要るー?」
マモちゃんを見上げていると、彼がスマホを差し出してくる。
良く撮ってたなぁと感心する一方、もしかして盗撮魔を嵌める際に、俺が録音してたのを真似ているのか?と心配にもなってしまった。優しい彼が、俺に影響されているんじゃないかと。
「ありがとう、マモちゃん。でも、俺は要らんかな。君も要らなかったら、消しちゃって良いからね?」
無駄にデータ容量を食うだろうからね。そんなもん。
そう思って言ったのだが、マモちゃんは首をブンブンと振った。
うん?
「ダメだよー。七音さんが欲しいって、言ってたからさー」
「えっ?」
ノゾミさんが?
俺は振り返って、彼女の姿を探す。すると、壁際で椅子に座る彼女を見つける。彼女の隣には、足を投げ出したセイジの姿が。
ふむ。普段通り、セイジの隣に戻ったか。やはりまだ、セイジの魅了は解けていないと見える。試合後に抱き着いてきたが、あれも優勝した興奮がさせた気の迷いだったか。
だとしたら、俺の動画を手に入れて何をするつもりなんだ?盗撮魔疑惑も払拭してくれた彼女だから、悪用はしないと思うのだが…。
「あっ。済みません、虎二さん。ちょっと抜けますわ」
「うん?」
ヒデちゃんが急にコソコソし始めた。見ると、スマホを急いで隠した。
ははぁ〜ん。
「気にせず行きな。いや、待ってくれ。俺も一緒に行くよ」
きっとヒデちゃんは1組の方へ行こうとしていると思い、俺もジュンさんへ〈会いに行ってもいい?〉とメッセージを送る。
これで拒否られたら、またこっちに戻って来るだけだ。
…いや。色々弁明しに、特攻を仕掛けた方がいいだろう。
「さて、1組は何処で打ち上げをやっているんだ?車が必要なら、今から呼ぶが?」
「いえいえ。何処のクラスも、自分達のクラスでやっている筈ですよ。部室棟でやる人もいるみたいでやすが」
「えっ、そうなの?」
それを知っていれば、もっと早く行きたかった。
悔いていると、俺のスマホが震える。見ると、ジュンさんから返信で〈来て!来て!待ってるよ?〉と、可愛らしい絵文字が手招きしている招待状を頂いた。
よしっ!発艦許可が降りたぞ。総員、全速前進だっ!
「黒沢君」
今にも会場から抜け出そうとした時、後ろから可愛らしい声がそれを止めた。
振り返ると、笑顔のノゾミさんが立っていた。
「ねぇ、黒沢君。こっちで一緒にお話しましょ?私、さっきのスピーチ聞いて感動しちゃった」
「ああ、ありがとう。ノゾミさん」
俺はそう言いながら、ヒデちゃんに「先に行け」と後ろ手で合図を送る。早くエリさんのところに行ってやれと。
「ほら見て?黒沢君が気に入りそうな物、いっぱい取ってきたのよ?食べて、食べて」
美味しそうな料理を盛ったお皿を、俺に差し出すノゾミさん。
確かに美味そうだが…少々タンパク質が足りんな。
「ありがとう、ノゾミさん。だが済まんね。少々用事が出来てしまい、今から行かねばならんのだ」
「用事って、他のクラスのこと?1組とか?」
うっ。
俺が言葉に詰まると、ノゾミさんは笑顔のまま、俺をジッと見上げた。
「ダメだよ、黒沢君。今はクラスの打ち上げなんだから。頑張ったみんなと喜びを分かち合わないと。他は気にしないで、私だけを見て?」
うん?今、2組の発言の裏に、何か見えた気がしたが…。
兎に角、どうにかこの場を切り抜けねば。
どうする?
「おい、ノゾミ」
迷っていると、不機嫌そうなセイジが歩いてきた。
おっと、こいつは使えるぞ。
「なんでまた、黒沢君と喋ってんだよ。もうバスケは終わった…」
「やぁ、やぁ、上郷君。お疲れ様!」
奴が不満を出し切る前に、俺は声を大きくしてそれを掻き消す。セイジの肩に手を乗せ、彼を見上げる。
「君が頑張ってくれたお陰で、俺達は勝てたんだ。本当にありがとう」
「そ、そうか?でも俺、途中でぶっ倒れちまったぞ?」
「それも良かった。我々が疲れ切っていると、会長達に誤認させられたからね。本当に、いいタイミングで倒れてくれたよ」
これは本当だ。こいつのお陰で、俺達の演技に信ぴょう性が生まれた。3年生をより空回りさせることが出来たのだ。
「そ、そうか?」
「そうとも。良くやってくれた。負けた会長は、相当悔しがっていたからな。今頃、落ち込んでいるんじゃないか?」
「あ〜…そうかもなぁ」
「そうだろう?誰か彼女を、慰めてくれたらいいのだが…」
「あ~…しゃあねぇな。面倒だけど、ちょっくら励ましに行ってやるかぁ」
そう言うと、セイジは会場を出ようとする。しかも、「おい、お前も行くぞ」と有無を言わさず、ノゾミさんも一緒に連れて行った。
奴が他クラスに出て行く実績だけ欲しかったんだが…まぁこれで、俺も動ける様になったぞ。
待っていてくれ、ジュンさん。
なんでしょう。
ちょっと、ノゾミさんが怖い。
「頭の良い子であるからなぁ」




