41話〜証拠を撮っておくのはどうかしら?〜
ジュンさんを盗撮していた隠田から、上手いこと証言を引き出し、更に今まで行っていた悪事についても引っ張ることが出来た。
だが、タイミング悪く生徒会長が現れてしまい、状況有利と見た隠田が俺に盗撮の罪を擦り付けようとしていた。
その隠田は、今、生徒会長の後ろで小さく笑みを浮かべている。
「僕は嫌だったんですけど、黒沢君が無理やりやらせて…僕は仕方なく…」
「盗撮か。物にもよるが、流石にただでは済まないぞ?黒沢」
有無を言わさない厳しさを孕む瞳で、こちらを見下ろす会長。
それに、俺は肩を竦める。
「会長。彼だけの発言に耳を傾けるのではなく、もっと広く情報を募った方がよろしいかと思います。彼のスマホには、私がここへ入学する前からの盗撮画像があるそうですので」
「なに?」
会長がバッと振り向くと、隠田は慌てた様子でスマホの画像を見せつける。
「なっ、無いですよ!そんなの。僕の写真フォルダには、今日撮った…撮らされた球技大会のデータだけですよ!」
「ふむ。その様だな」
会長は軽くスマホの中身を調べると、直ぐにスマホを隠田に返した。
なるほどな。危険なデータは外に保存しているのか。それだけの危機感があると言うことは、やはり隠田は確信犯であったか。
俺はある意味で感心し、「では」と声を上げる。
「ここに、彼の証言を記録した音声データがあります。こちらです」
俺がスマホの音声データファイルを再生すると、先ほどのやり取りが流れる。それを聞いて、隠田は慌てて声を上げる。
「こっ、これは…僕は…そう、言わされたんです!そう言えって、黒沢に言わされたんだ!」
「会長。良くお聞きください。彼が証言しているその声が、誰かに脅されているように聞こえますか?自分から値段交渉を持ち出し、俺に盗撮データを商品の様に売りつけるこの声が、果たして被害者の声でしょうか?」
「ふむ。良く聞かせろ」
会長が手を出すので、俺は彼女にスマホを渡す。会長はもう一度音声データを再生し、小さく「うぅん…」と唸る。
そうやって唸りながら、会長は俺のスマホをいじる。そして、急に声を上げた。
「おい。これは何だ!?これは!」
そう言って見せて来たのは、ノゾミさんのバスケ動画だった。
俺は「はて?」と首を傾げる。
「バスケの練習動画ですよ?それはスリーポイントの手本動画です」
「ノゾミ君が映っているではないか!貴様、やはり盗撮していたのだな!」
息巻く彼女に、俺は眉を寄せて平然と言い放つ。
「いいえ。彼女の許可を得ての物です。私を疑うのでしたら是非、七音さんにご確認を頂きたく…」
「嘘です!会長!こいつ絶対、嘘ついてます!」
途中で隠田が割り込むものだから、会長は頭を抱えてしまう。そして、
「ああ、もう、分からん!分からんから…来い!黒沢」
「えぇええ!?」
なんで俺なん?
「会長。隠田先輩は?」
「そんな奴、どうでもいい!」
なんで俺だけなん?
そんな奴って言われたから、隠田も呆然としているぞ?
「やはりお前なのだ、黒沢。今までのお前がそうだった。だからこれからのお前も…」
前が悪人だから、これからの俺も悪さをすると?
会長はどうも、思い込みというか、一度ご自身で判断された事に絶対の自信があるようだ。
まぁ、確かに。人は早々に変われるものではない。けれど、そうやって人を見ようともしないのもどうかと思うぞ?
「ちょっと待って!ナツさん!」
会長の石頭に疲弊していると、会長の前に誰かが飛び出してきた。
「虎ちゃんは盗撮なんてしてないよ!」
ジュンさんだ。彼女の後ろには、ノゾミさんの姿もある。そしてその後ろには、息を切らしたヒデちゃんの姿が。
あっ、君が彼女達を呼んじゃったのか…。
少々残念に思いながら彼女達を見ていると、それを遮るように会長が前に出た。
「ジュン。何の根拠があってそんなことを言っているのだ?盗撮された中には、お前の写真も大量にあったのだぞ?恐らく、この不埒者が指示して撮らせた…」
「そんなの、虎ちゃんなら盗撮してまで欲しがらないよ」
「何故だ!何故そうも言い切れるのだ?」
「だって、虎ちゃんにはもっと凄いのをあげて…」
「げっほ!げっほ!」
まさかのフレンドリーファイア未遂に、俺は衝撃を受けてむせ返ってしまった。折角、その危険物は別のデバイスで厳重保管しているというのに、これでは余計に大変な事になる。
でも俺が過剰反応したお陰で、ジュンさんも「あっ、やばっ」って顔になって、発言を止めてくれた。
そこに、ノゾミさんが前に出て来る。
「それに、ナツさんが疑っていた私の動画は、私が黒沢君の為に撮影したものです。彼が一生懸命にバスケの練習をしていたから、少しでも役立てて欲しくて私が送ったんです」
「なっ、なん、だと…?」
そこで漸く、会長は俺の腕を離す。そして、こちらを振り返る。
「では…犯人は…」
「そこ、そこ」
俺が指さすと、会長の目が一気に鋭くなる。そして、逃げようとした隠田の首根っこを掴んだ。
「来い!この…外道が!」
「ひぃ!助けて!黒沢君!助けて!」
ほぉ。良くもまぁ、嵌めようとした相手に助けを求められたものだ。
逆に感心した俺は、ささやかなプレゼントを会長に渡す。
「会長」
「なんだ!」
「これ、どうぞ」
それは、俺のスマホである。
渡して、ニヤリと笑う。
「証拠は多い方がいいですよね?」
「…助かる」
ほぉ。お礼は言えるのだな、この人も。
ならば、サービスしてやろう。
「あと、教室にあるだろうそいつのカバンを漁ると良いですよ。きっと、盗撮写真を売買する為の現金とか、帳簿が入ってるでしょうから」
「ああ、そうか…何処までも外道な奴だな、こいつは。今ここの場で捌いてやろうか…」
3枚下ろしにでもする気ですかい?ちゃんと理事会で裁いてもらって下さいよ?
俺は、会長にしょっ引かれていく隠田の最後を見送る。すると、ふわりと良い匂いが近づいてきた。
「虎ちゃん」
「ジュンさん…?」
笑顔のジュンさんが、ちょっと前かがみで近付いてきて、俺の事を見上げてくる。
でも、何時もの笑顔じゃない。ちょっと硬い笑みだ。
無理して笑っているみたいだった。
「ねぇ、虎ちゃん。どうしてあたしに何も言わないで、こんな危険な事をしたの?」
「えっ?」
あっ、これは怒ってるな。秘密裏に解決しようとしたからか?
「ジュンさん。この件について、出来れば君には…君達には知られたく無かったんだ。盗撮されていたなんて知ったら、楽しい学園生活を送れなくなるだろ?」
「それは、林君から聞いた。でもあたしは、虎ちゃんが濡れ衣を着る方が嫌だよ…」
笑顔から一転、悲しい顔で見上げて来るジュンさん。
うーん…そうか。俺の選択肢は、他者に心配をかける物だったな。ただでさえジュンさんは優しいから、自分より他者の怪我を嫌がる。
これは、俺の選択ミスか。
「済まない、ジュンさん。今度からはしっかり、相談させて貰うよ」
「絶対だよ?」
「ああ」
ジッと俺の目を見つめるジュンさんに、俺はしっかりと頷いて見せる。
すると、やっと彼女は何時もの笑顔を見せる。更に1歩近付いて、俺の右手を両手で包み込む。
「でもね、虎ちゃんがあたしの為に頑張ってくれたのは嬉しかったんだよ?盗撮されてたのは怖かったけど、これでもう安心出来る。ありがとう、虎ちゃん」
「ジュンさん…」
選択はミスったかもしれないが、やはりこの笑顔を守れて良かった。
俺が少し自信を回復させていると、ジュンさんの横にグイッとノゾミさんが入り込んできて、俺の左手を両手で包み込む。
「感謝なら、私もしているわ。私の写真もあったって話でしょ?」
「あ、ああ」
それはそうなんだけど…なんでそんな、ジュンさんを真似しているんだ?そんな風に握手しなくても、謝意は十分伝わるのだが…。
不思議に思っていると、ノゾミさんは手を離して、自分のスマホをポケットから取り出す。
「ねぇ、黒沢君。私の動画だけを持っていると、毎回疑われちゃうよね?だったら、私達の仲が良好だって証拠を撮っておくのはどうかしら?」
「うん?証拠?」
「そう」
大きく頷いて、ノゾミさんはヒデちゃんにスマホを渡し、俺の左隣に並んでピースサインを構える。
「こうしたら、私の動画を持っていても平気でしょ?私と黒沢君が友達だって分かるから」
「まぁ」
確かに有効そうだが…良いのだろうか?ノゾミさんからしたら、別の男が写りこんだ写真を作る事になり、セイジから在らぬ疑いを掛けられてしまうと思うのだが…。
もしもそれで、奴と不仲になったら、不味くないか?
…いや、俺がしっかり弁明したらいいのか。
「分かった。助かるよ」
俺はノゾミさんの案に乗ることにして、同じくピースサインを構えようとする。
でも、その手はジュンさんに取られてしまった。
「あたしもやる!」
そう言って、俺の右腕を抱き込んでしまったジュンさん。
ああ、右腕が柔らかいので包まれて、理性が崩壊しそうだ。
「ジュンさん。これは流石に…」
やり過ぎだと注意しようとしたら、何故か左腕も柔らかいのに包まれる。
まさか…と思って見てみると、そちらにはノゾミさんが抱き着いていた。
はっ!?えっ………ふぁっ!?
な、何が、一体全体何が起きてる?あれか、白昼夢か?俺は会長に殴られて、夢を見ている…?
「皆さーん。ニッコリするっす〜」
「「はーい!」」
「いや、待てヒデ!」
「1+1は?」
「「にー!」」
「にー!…じゃねぇ!」
みんなのペースに流されてしまい、俺も笑顔で写真に写ってしまった。
一体、何がどうなって、こうなったの?誰か教えて…。
「訳が分からん。なんの撮影会だったんだ…」
「ですから、盗撮魔撃退記念…って七音さんが言ってたじゃないっすか」
俺が頭を押さえながら歩いていると、横に並んだヒデちゃんがニヤニヤしながらそう言ってきた。
いや、まぁ、それは俺も聞いたけど…抱き着くとは思わないだろ?特にノゾミさん。彼女、そんなキャラじゃない筈だ。
ジュンさんに流されたのか?いやいや、相手は俺だぞ?どんな理論から導き出された答えなんだ?
まさか…セイジの呪縛が解けかかっている?いやいや。
「仮にそうだとして、俺に抱き着く理由にはならんぞ」
「いやぁ〜。良い笑顔でしたね、3人とも」
俺が悩んでいるのに、ヒデちゃんは能天気だ。その様子に、俺は疑問を抱いた。
「随分と余裕そうだな、ヒデちゃん。俺がジュンさんに上着を掛けただけで、おっぱいおっぱいって恨んでたのに」
「それはもう、忘れて欲しいっす!」
ほぉ。忘れる。過去のことにして欲しいと。
つまり、今はあの時よりも良い環境にいるって事か。
つまり…。
「ヒデちゃん。もしかして、トワさん達と何かあったか?」
「いやぁ〜。何もないっすよ〜」
うーん。反応が薄い。
「じゃあ、エリさんと何かあったか」
「なっ、なんも無いっすよ!」
おお、おお。こっちか。
俺がニヤリとすると、上からマモちゃんが朗らかに言い放つ。
「ヒデちゃんはねー。エリちゃんと連絡先交換してたよー」
「おお、そういう事かぁ」
「止めて下さい!その変な笑顔!」
うるせぇ。お前もさっきやってた顔だぞ。
「それより、今は何処に向かってるんです?試合会場じゃないですよね?」
不利な流れを変えようと、ヒデちゃんが無理やり話題を振ってくる。
それに、俺は笑みを消す。
「ああ。今から俺は、とある人物に会いに行く」
「とある、ですかい?」
「ああ、そうだ」
そう言って俺は、部室棟を指さす。そこの、バドミントン部の部室を。
「今から俺が会うのは、親衛隊連合総隊長、相川先輩だ」
ヒデちゃんにも春が…。
「長い冬であったが、虎二という太陽が芽を息吹かせておるのだ」
詩人ですね。
「やかましい」




