39話〜ナイス、スパイク!ジュンさん!〜
「「わぁあああ!」」
試合が終わり、多くの歓声が我々を包む。
試合に集中していてあまり見ていなかったが、結構な人が集まっていたんだな。2階の観客席にも人が居るぞ。
「虎ちゃーん!」
そんな中、手をブンブン振るジュンさんの姿を見付ける。声だけは聞こえていたけれど、まさか2階席に居たとは。
俺は立ち去った親衛隊からジュンさんの方に向き直り、彼女に向けて右手を胸に当て、左手は後ろに回して深々とお辞儀した。
姫様。仰せの通り、もう1本を決めて見せましたよ。
「「きゃー!」」
そうすると、何故か他の女子生徒から黄色い声が向けられてしまう。
…君達への立礼ではないのだがね?
「お疲れ様。黒沢君」
ベンチに戻ると、先に戻っていたノゾミさんからも労いの言葉を頂けた。
「ありがとう。七音さんも、流石の動きだったよ」
「ええ、そうね。みんなの勝利って奴ね」
そう言って、ハイタッチの構えを見せる。俺がそれに応じると、満面の笑みを咲かせてくれるノゾミさん。
そうだよな。この試合一番の功労者だから、勝った事が一番嬉しい筈だ。俺を普段以上に労ってくれるのも納得だ。
そうして、ノゾミさんと勝利を喜びあっていると、顔色の悪いセイジが近付いて来た。
「お疲れ様は俺もだろ?ノゾミ」
そう言ってハイタッチを要求するセイジだが、ノゾミさんの腕は上がらない。
なんで?と思って見ていると、彼女は1つ、小さなため息を落とす。
「あなた、試合中ずっと歩いていたじゃない。後半戦からは前にも出なくなってたし…黒沢君が来てくれるまで、私1人で戦っていたのよ?」
「いや、だってそれは…俺は足が筋肉痛で、痛くて…それでも、頑張って試合出たんだし…」
「そう?じゃあ、次の試合では期待しているわよ?1本でもシュート決めたら、その時はハイタッチしましょ」
「うっ…なんか、お前、益々俺に冷たくなってね?」
うん。確かに冷たいとは思うが…仕方ないのではないか?どれ程愛した男でも、自身の窮地を見過ごされれば怒りもするだろう。
だからあれ程、練習しないかと誘ったんだぞ?セイジよ。
「「黒沢君!」」
泣きっ面に蜂状態のセイジを眺めていると、チームメイトの女の子達が駆け寄ってきた。
「凄かったね!スリーポイント。3回も入れちゃうなんて」
「めっちゃ格好良かったよ!うち、めっちゃ感動した!」
今まで近付きもしなかった彼女達の変わりように、俺は気おされて「ああ、ありがとう…」と曖昧な返事をしてしまう。
そこに、彼女達はグイグイ来る。
「バスケ経験無いって言ってたよね?いっぱい練習したの?」
「そう言えば、家で練習会開くって言ってたよね?黒沢君のお家?」
「ああ、良く聞いてたね。そうだよ。ヒデちゃんやマモちゃんとかを誘って、みんなで特訓したんだ。なぁ、ヒデちゃん」
「う、うっす…」
俺が話を降ると、ヒデちゃんが小さく頷く。
それを聞いて、女の子達も小さく跳ねる。
「えー。凄い、凄い!それだけであんなシュート打てるなんて」
「ねぇ、黒沢君。この後ちょっと時間空くじゃない?私達と一緒に、ドッヂボールの方とか見に行かない?」
おうおう。随分と色目を使って来るじゃないか。
「済まんね。先約があってさ」
「え~…。そっかぁ」
「じゃあ、また次の試合だね」
「またね、黒沢君。また一緒にがんばろ?」
そう言って、女の子達はキャッキャ笑い合いながら会場を後にする。
なんだかなぁと彼女達を見送っていると、後ろから強い視線を感じた。
「くそぉ…。俺は散々な目に遭っているのに、なんで黒沢君はいい思いをするんだよ…」
うん?セイジの視線だったか?
まぁ、いいか。兎に角、俺を恨むのはお門違いだぞ?恨むなら、練習をサボった過去の自分を振り返りなさい。
「凄かったね、虎ちゃん。スリーシュート?か何とかって難しい奴、いっぱい成功させてさ」
「ありがとう、ジュンさん。君の熱い声援が、俺を押し上げてくれたんだよ」
セイジ達が去った後、俺はすぐに2階へと上がり、ジュンさん達と合流した。
合流してすぐに、俺はジュンさんからべた褒めされてしまっていた。
ただ、
「2人も凄かったね。特に林君。めっちゃカットしてたじゃん」
「いやぁ〜。虎二さんに比べたら、大したことないっすよ〜」
ジュンさんは俺だけじゃなく、頑張ったみんなにも労いの言葉を掛けてくれた。
これだよ、これ。やはりジュンさんは、クラスの女子とは全く違う。表面だけで褒めるんじゃなく、しっかりと結果を見て褒めてくれる。優劣美醜関係なく接してくれる。その優しさは、天使を超えて女神やで。
そう、俺が彼女を崇め奉っていると、
「ホント、林君カッコ良かったし」
「めっちゃ輝いてたよ〜」
ジュンさんと一緒に来ていたトワさん達も、ヒデちゃんを褒めてくれた。
類友か?ジュンさんの周りには、光属性の娘が集まって来るのか?
「そ、そうっすか?あ、ありがと、ございますっす」
「うわぁ、照れてるじゃん」
「可愛い〜」
うんうん。良かったな、ヒデちゃん。さっきは全く相手にされてなくて、俺も可哀想だと思ってしまったが…。
やはり努力は裏切らない。これは、ヒデちゃん用のメニューも考えてやる必要があるか?
そうして、彼女達と談笑しながらバスケの試合を見る。今、我々の足元では、3年生同士の戦いが繰り広げられていた。
今回の球技大会。3年生が有利なのは周知の事実。なので、組み合わせはちょっと工夫されている。
予選と本戦に別れており、予選は同学年でのみトーナメントが組まれている。そして、その予選を勝ち抜いた3チームが本戦へと駒を進める。なので、不利な1年生でも本戦までは必ず3チームが行けるのだ。
…そこから先は、3年生の無双かも知れんが。
我々2組は初戦を勝ち残り、あと2勝したら本戦出場決定だ。
まだまだ道は遠いとも言えるが…。
ビィイー!
そんな事を考えている間に、試合が終わった。驚いた事に、3年生同士であるのに8-30と言うトリプルスコア以上の点数差が付いていた。
その点数を叩き出したチームは…。
「やっぱ強いね、ナツさん達のチーム」
そう。生徒会長が引き連れたチームだった。
「流石は生徒会長だねー」
「どんな競技でも、彼女が居たら1位取っちゃうもんねー」
ほぉ。そうなのか。
トワさん達の会話を聞きながら、俺はコートを去る会長の背中を見詰める。彼女の後ろ姿からは、試合の疲れが見られない。
凄い鍛え方をしているんだな。
「あっ、そろそろ時間だよ?ジュン」
「うわっ、マジだ。楽しくてつい、時間を忘れちゃってたよ」
ジュンさん達が慌て出す。
「ごめん、虎ちゃん。あたし達試合だから、もう行くね?」
「おっ、じゃあ一緒に行くよ。俺達を応援してくれた分、今度は俺達が応援しよう」
と言う事で、我々は揃って別館へ移動する。渡り廊下を通り過ぎていくと、何人かの学生達が暇そうに中庭でお喋りしている姿を見かけた。
きっと、1回戦で負けた人達だろう。時間の都合上、敗者復活戦とかは無いから、負けたら一気にその日はフリーになってしまう。イベントだからとは言え、学業の一環だから帰る訳にも行かずに、また午後からは打ち上げもあるから、こうして無為に時間を過ごしているのだろう。
勿体ない事だ。
俺が虚無な生徒達に視線を送っていると、ふと隣にジュンさんが並んだ。
「虎ちゃん今、あの人達を見てトレーニングしたらいいのに〜って思ったでしょ?」
「むむ。よく分かったね」
「ふふ〜ん。最近虎ちゃんとずっと一緒だから、なんとなく分かるんだ」
「おおっ。俺は嬉しい」
どれ程時間を共にしても、分かり合えぬ者は居る。それはきっと、相手を理解しようとする努力を怠っているからだろう。
ジュンさんと行動を共にするようになってから、まだ一月も経っていない。それなのに俺を理解してくれたと言うのは、それだけ俺に興味を持ってくれたと言うこと。
そう考えると、本当に嬉しい。
「俺も、ジュンさんを理解せねばな」
「えっ、ええっ!?いきなりどうしたの?虎ちゃん」
ジュンさんが赤くなって慌てている。それを、後ろの2人がニヤニヤ笑っていた。
「アツアツですね〜」
「アマアマですな〜」
「もぉー!2人ともぉ!」
怒った風に声を上げるジュンさんだが、とても楽しそうだ。
楽しそうにじゃれ合う3人。
でも、試合が始まると別人の様に凛々しくなった。
「ナイッサー!」
「良いよ!エリ!もう1本行こう!」
コートに入った3人は、他の3人と共に相手チームを押していた。今サーブを打っているエリさんも凄いが、相手のアタックをしっかりと上げたトワさんも同じくらいに活躍している。
そして、そのチャンスボールをしっかりと相手コートに叩き込んだジュンさんは、最高に輝いて見えた。
「ナイッ、スパイク!ジュン!」
「キレッキレだね〜」
「ありがと、2人とも」
うむ。俺も負けていられないな。
「ナイス、スパイク!ジュンさん!」
俺が声を上げると、ジュンさんはこっちを見てくれた。そして、小さく手を挙げてくれる。
凄く嬉しい。嬉しいんだが…試合に集中させたい気持ちもある。
どうするべきなんだ。俺は。
そんな葛藤を抱いていると、周囲からも彼女の名前を呟く声が聞こえた。
見ると、男子生徒が談笑していた。
「いやぁ。今のスパイクは凄かったな」
「流石は式部先輩。見事としか言いようがないぜ」
「他の子とは迫力が違うよね」
うんうん。そうだろう、そうだろう。何せ彼女は経験者で、しかも俺達がバスケに打ち込んでいる間、応援だけでなくバレーの練習もしていたのだ。言わば、彼女も我々の同士であり、種目は違えど仲間みたいなものなのだ。その彼女のスパイクが褒められるとなれば、間接的に俺が褒められる気分になる。
誇らしい限りだ。
「またスパイク打ってくれないかなぁ~」
「あの揺れで、1ヶ月はイケるぜ」
うん?揺れ?イケる?
「やっぱHカップの破壊力パネェな」
「もう少し激しく動いたら、腹チラとか拝めそうだよな」
「汗でブラとか透けそうじゃね?ベンチ近くで張ってりゃ、ワンチャンあるかもしんねぇぞ?」
おい!てめぇら何を見に来てんだ!
俺は怒りで拳を握り締める。そして、そいつらの元へと殴り込みに行こうとした。
だがそれは、ヒデちゃんに止められた。
「ダメっすよ、虎二さん!」
「離せ!あの虫野郎共に、俺の鉄拳を食わせてやらねばならんのだ!」
「虫野郎はあいつらだけじゃないっすよ!」
うん?どう言う事だ?
俺が落ち着いて周囲を見ると、同じようにジュンさん達を見ている男子がちらほら見受けられた。彼らは試合の行く末などに興味は無く、ただ女子生徒の可憐な姿を脳内に焼き付ける事に忙しそうだった。そんなバカげた行為の為に、この場所に訪れているようだった。
バスケやドッヂボール以上に、バレーは上下の動きが激しいからね。余計に彼らとしては好都合なのだろう。
「暇人共が、纏めて成敗してくれる」
「なんか、生徒会長みたいになってますよ?虎二さん」
おっと、それはいかん。一旦冷静になろう。
俺は無理やり感情を抑える。すると、ある男子生徒の動きがおかしい事に気が付いた。
多くの不埒者共がジュンさんのおっぱいに全集中している中、やけにキョロキョロ周囲を気にしている奴が1人。
あの動きは…コソ泥だな。万引き犯とかが見せる動きにそっくりだ。まさか、観客の持ち物を狙っているのか?
俺がそいつに着目していると、そいつはポケットからスマホを取りだした。そして、ジュンさんが再び飛び上がった瞬間…。
カシャ。
そう聞こえた気がした。少なくとも、指の動きが撮影の動きだった。
あいつ…盗撮魔か。




