3話〜まぁ、まぁ。2人とも〜
翌日。
俺は俺の意識を保ったまま目覚めた事に、先ず安堵する。
殴られて覚醒したチンケな意識であったから、寝て起きたら消えている可能性も考えていたのだ。
その為、昨晩は遅くまで日記に虎を説得する文言やトレーニングメニューを書き連ねてしまったが…無駄であったな。
いや、本当に良かった。
俺は更に酷くなった筋肉痛に鞭を入れながら起床し、朝の支度を整えていく。
キッチンは早速、俺の要望に答えてくれて、朝食には肉厚の卵焼きと豆腐タップリの味噌汁が並んでいた。
良いぞ、シェフ。ディナーの変更に合わせ、朝食をアレンジしてくれたんだな。ナイスアシストだ。
俺が嬉々として朝食を貪り食っていると、また妹が信じられない者を見る目を寄越して来る。
なんだ?妹よ。俺の五穀米はやらんぞ?食べたいなら、シェフと確約書を交すことだ。
そうして朝食を摂り終わり、俺は学校の制服に着替える。
やべぇ。上着のサイズが5Lとかいう見た事ない数値になってやがる。この腹が原因だな。
鏡の前で出っ張った腹を摩っていると、心の内でドス黒い感情が渦巻く。
太っている事を気にして…じゃないな。背丈が低い方か。確かに、妹と大差無かったけど…それ程気にする事じゃないぞ。少なくとも、この怪しいサプリを飲んでる方が問題だ。
俺は部屋を出て、玄関で靴を履く。何故か妹が扉の前で仁王立ちになり、俺を睨んでいるのだが…なんだ?ポケ〇ンバトルでも仕掛ける気か?
「早くしなさいよ。今日は私、日直なんだから」
「うん?」
どう言うこと?
訳が分からず妹について行くと、エントランスの前に高級車が停まっていた。
なにっ!?これで登校しているのか?俺は。
「早く乗りなさいよ」
「いや、俺は自転車とかが…」
虎の記憶を漁ると、学園は車で10分くらいの所にあるようだ。ならば、自転車の方が運動にもなるし、CO2削減にもなるだろうと思った。
でも、考え直す。
そうだ。俺は大富豪の令息。そんな奴が自転車で通学してみろ。護衛も一緒にサイクリングするハメになるんだぞ?護衛する方からしたら、四方を固められる車の方が有難いに決まっている。
「お坊っちゃま。お車はお気に召しませんか?」
ヤバい。運転手のお爺ちゃんが不安そうにしている。護衛も慌ただしくし始めてしまった。
「大丈夫です!車で行きましょう。お騒がせして済みません!」
俺は急いで車に乗り込む。妹も乗り込んで、俺の横に座った。
そこで、俺は思い出す。
あれ?何時もの通学に、妹は居ないみたいだぞ?俺より遥か先に登校している記憶しかない…。
それなのに、今日はどうしたんだ?
俺は気になり、隣の妹に視線を向ける。すると、妹が睨み返して来た。
「どう言うつもりよ」
それは俺のセリフだ。
そう突っ込みたい気持ちを飲み込んで、俺は「何の事?」と眉を下げる。
すると、妹の目がより厳しくなった。
「惚けるんじゃないわよ。さっきも使用人相手に謝ってたし、料理も気持ち悪い魔改造を止めるし、それに、昨日のお母様への返答もそうよ。なんで正直に答えたの?何時もは嘘八百を並び立てるじゃない」
うわっ、何時もそんななのか。そりゃ、妹のこの態度も納得だ。
俺が1人納得していると、妹は「ふっ」と嘲笑った。
「どうせ、何か欲しいものがあるとか、テストで悪い点数を取ったとか、そんなところでしょ?無駄よ。アンタみたいな根性なし、三日坊主どころか今日の夕方には化けの皮が剥がれるに決まっているわ」
「その時はまた、キツイのを1発お願いするよ」
彼女のお陰で、俺と言う人格を思い出すことが出来た。彼女なら、また俺が眠ってしまっても呼び戻してくれるだろう。
そう期待して提案したのだが、彼女はウジ虫を見る様な目で「キモ…」と呟き、前の席に移ってしまった。
Mだと思われたか?確かに、そう思われてもおかしくない言い方だな。
俺は1人、反省する。
俺が通っている学校はとても大きな所であった。
学校の周りには高い壁で仕切られて、正面の正門からしか入れないようになっていた。その正門も、そして中の校舎も、まるで城の様に大きく立派な物だった。
車が学校の敷地内を走る間、俺は白銀に輝く校舎群に目を奪われていた。
懐かしい。
…懐かしい?これは虎の感情か?それとも…?
「到着にございます」
1番大きな校舎の前で、車が停まる。そこから出ると、無数の視線がこちらに突き刺さる。
車で乗り付けての登場だからな。周囲の学生が驚いているのだろう。
そう思っていたが、
「うわっ、来た」
「舞花ちゃんも一緒か。きっと、無理やり乗せられたんだぜ」
「可愛そう…」
「あの成金ブタ野郎がぁ…」
どうやら、俺自身の問題らしい。
人望も皆無と。
新しくも悲しい情報をインプットしていると、こちらへ駆けてくる足音が聞こえた。そちらを見ると…。
「はぁっ、はぁっ、おはよーございます!虎二さん」
「今日も制服が決まっていますね。いやぁ〜、カッコイイ!」
男子生徒が2人、手を擦り腰を曲げて上目遣いで近付いて来た。1人は背が高くガタイの良い子で、もう1人はオカッパにメガネを掛けた子だ。
この2人は、虎二の取り巻きらしい。学校生活では何時も腰巾着の様に付いてきて、虎に顎で使われているみたいだ。
虎二データベースに珍しく男の情報があったので驚いたが、肝心の名前が見当たらない。
流石だぜ、虎二さん。この子達くらいしか友達が居ないんじゃないのか?
「おはよう、2人とも。もしかして、俺を待っていたのかな?」
「勿論ですよ。ささっ、お荷物をお持ちします」
「僕が持ちますよー」
2人が手を出してくるが…俺の持ち物はカバン1つだ。それには及ばない。
俺は片手で2人をガードしながら「いいから、早く教室に行こう」と急かす。
虎の情報通り、2人は俺の後ろにピッタリ付いてくる。
なんだ?俺に弱みでも握られているのか?
兎に角、2人の名前を把握しなければ。
「なぁ。俺達って連絡先の交換してたっけ?」
「えっ?ええ。我々でグループを作らせて頂いてますよ。昨日もそれで、ご指示頂いたじゃないですか」
「あっ、ホント?」
俺はカバンからスマホを取り出し、無料チャットアプリを開く。昨日やり取りしているのは…残念ながら、彼らとしか連絡を取り合っていない。
ええっと、大きい子が小林護君で、オカッパが林秀吉君らしい。
どちらも林で、苗字だと呼び辛いな。名前で呼ばせて貰おう。
「あった、あった。ありがと、ヒデちゃん」
「ひ、ひで?」
「あっ、ごめん。馴れ馴れしかったかな?」
「とっ、とんでもない!光栄です!ありがとうございます!」
「虎二さーん。僕は?」
「マモちゃんで良いかな?」
「うん!それがいいー」
これでやっと、2人との仲も良好になったと思う。
チャットの中身を見たら、パシリ同然の会話しかしていなかったからね。友達は大事にしないとダメだぞ?虎よ。
「おはようございまーす!」
元気に挨拶しながら、俺は自分のクラスに入る。
その途端、車から降りた時よりも更に濃厚な人間の視線を感じた。
怒りや恐怖等の、負の視線だ。男子生徒達からも多少は飛んでくるものの、大半は女子生徒の物。
何をやらかしたんだ?虎二君よ。
あまりの疎外感に、俺は胸に手を当てて考える。すると、ヒデちゃんが笑みを浮かべた。
「今日は随分とご機嫌ですね、虎二さん。何か良い事でもありました?」
「えっ、そうかな?」
「ええ。だってさっき、女子だけじゃなく男子にまで挨拶してたじゃないですか」
おーい、虎。お前、女子にしか話しかけないのか?そう言うの、逆に嫌われるんだぞ?
また新たな虎二の一面を知って、俺は嬉しくて涙が出てきた。
と、その時。
「あっ、来た来た」
「今日もカッコイイわ〜」
俺の登場によって悪くなっていたクラスの雰囲気が、急に明るくなった。
何だろう?と、女子生徒達の視線の先を見ると、そこには数人の女子生徒が固まってクラスに入って来る所だった。その中心には、男子生徒が1人。
「じゃあね、セイちゃん。私は隣のクラスだから、またお昼休みにランチしよ」
「ちょっと、ジュン。勝手にセイジとのお昼を予約しないでよ」
「まぁ、まぁ。2人とも」
美少女達がキャッキャしているのを、その中心人物となっている男子生徒はヘラヘラした笑みで宥めようとしていた。
そのやり取りを見て、そして、男子生徒の異様な雰囲気に、俺の中で黒い感情が生まれた。
ふっつと燃え上がる。
あれは…何だ?
以上で、本日の投稿を終わります。
「明日はどうなるのだ」
ええっと、明日から18時に1話、投稿致します。
「頻度は?」
毎日更新出来たら良いな…と思います。
「志を高く持つのだ」




