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俺の拳とこの魂で、砕いてやるぜ!そのハーレムを!  作者: イノセス


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39/60

38話~甘いっす!~

毎度ご愛読下さり、誠にありがとうございます。

今日はちょっと長めの5000文字です。


「まぁ、ゆるりと読んでくれ」

「おおっ!やっと来てくれたのかよ、黒沢君」


 駆け付けた俺がコートに入ると、真っ先にセイジが近付いて来た。予想外の出迎えっぷりに、俺は「ああ…」としか言えなかった。

 それに、セイジがニヤリと笑う。


「ああー、やっと休めるぜ。俺、もう足がパンパンでさ。明日筋肉痛確定だよ、これ」

「ちょい待ち」


 俺と入れ替わろうとするセイジの肩を掴み、俺はコートの中を指さす。

 そこには、膝に手を着く女子達の姿があった。


「交代はあの子達が先だ」

「えっ?いや、あの、俺も疲れて…」

「あぁ?」


 つい、俺は怒気を漏らしてしまう。

 慌てて取り繕った笑みを浮かべ、首を振った。


「女の子は優しく扱うもの。そう言ったろ?」

「あ、ああ…そういや、そうだったな」


 と言う事で、俺はベンチで腐っていたヒデちゃんも投入し、女子2人を休ませる事にした。

 退る時に女子達が「ありがとう、黒沢君…」と弱弱しく頭を下げていたので、やはり彼女達を先に交代させたのは正解だった。

 …出来れば、ヒデちゃんにもお礼を言って欲しかったが。


「いやぁ、やっとあっしの出番ですかい。ヒマ過ぎて、ヒマを売り出そうかと思ってた所っすよ」

「悪いな、ヒデちゃん」

「黒沢君!」


 ヒデちゃんの愚痴を聞いていると、ノゾミさんが駆け寄ってくる。その手にはボールが。


「ごめん。抑えきれなくて…」

「いいや。良くここまで抑えて、14点も入れてくれた。ありがとう、七音さん」


 俺がお礼を言うと、ノゾミさんは凄く嬉しそうに「うん!」と頷く。

 余程、切羽詰まっていたんだろうな。可哀想に。


「さぁ、ここからが正念場だ。行くぞ、みんな!」

「はいっ!」「はいっす!」「はーい!」「はぁ…」


 〈◆〉


 第3Qも、残すところ3分という所で、黒沢の野郎が入ってきた。勝ちに来たとかほざいていたが、嘘なのはバレバレだ。きっと、下手なのを式部さんに見られたくなくて、時間を置いて出場したんだ。

 俺達がへばってると思ったか?残念。俺達は全員運動部で、俺は小学校までバスケやってたんだよ。バスケ歴ゼロのお前じゃ、恥さらして終わるだけ。そしたら式部さんも気付くだろう。こんな奴、彼女に相応しくないと。

 マジで、俺達には好都合な展開だぜ。


「黒沢君!」


 おっ、早速あいつにボールが回ったぞ。

 さて、じゃあ姫様に2枚付けて…って、めっちゃ速いぞ!?黒沢のドリブル!


「迎え撃て!荒井!」

「おっけ!」


 俺は慌てて荒井に指示するも、あのバカ一瞬で抜かれやがった。

 そして、そのままゴール下まで侵入した黒沢が、レイアップでゴールを決めた。

 ちっ!


「何やってんだ、荒井!お前、サッカー部だろ!」

「わ、悪い。でも、あいつ素早しっこくてさ…」

「何言い訳してんだ、バカが!」


 あいつは万年帰宅部のお坊ちゃんだぞ?連合の情報では、50m走を12秒で走るバッキバキの陰キャ。そんな奴に抜かれて、サッカー部として恥ずかしくねぇのかよ。


「くそっ。兎に角、1本返して点数差をひっくり返す…」


 俺はドリブルで切りこもうとした。だが突然、目の前に大きな壁が現れた。

 なっ、なんだ、これ…?


「ここからは、通さないよー」


 違う。壁じゃない。こいつ、ゴール下にいたデカ物じゃねぇか。


「何でお前が、こんなとこに…」

「僕はこのチームの、マーモリ神だからだよー」


 くっそ…。調子こきやがって!

 

「小島!」


 仕方なく、俺は前を走っていた小島にロングパスを出す。

 だが、


「いただきっす!」


 それを、オカッパの男子がカットしやがった。

 はぁ?!


「見え見えっすよ?今のパス」

「良いぞ、ヒデちゃん!こっちだ!」

「頼みます!虎二さん!」


 俺から奪ったボールは、すぐさま黒沢へと渡る。奴が軽快なドリブルと共に、俺へと迫ってくる。

 ああ、そうかよ。なら、


「俺が直接、ぶっ潰してやるぜ!」


 俺も駆け出す。目を皿のようにして、全神経を奴の動きに向ける。

 どちらで来る?右か?左か?ゴールに近い左で行きたいよな?それとも、並走するデカ物へのパスか?

 もう少しでぶつかる所で、奴の歩幅が小さくなる。そのまま、体が左へ流れる。

 予想ドンピシャ!やっぱ左だ。

 俺は心が踊り、奴の動きに合わせて左へ。驚き顔を見せる奴の手から、ボールを奪い去ってやっ…。

 あれ?ボールが、ない。今まで目の前にいた奴が、消えた?

 何処に?


「右だ!佐野!」


 荒井の声で右を見ると、悠々と俺の右側を抜き去っていく黒沢の姿があった。

 はぁああ!?


「ちょっ」


 俺は慌てて体を入れようとするも、その時には既に、黒沢は俺を抜き去っていた。ゴール下で守っていた荒井も易々と躱し、そのままレイアップを決めた。

 何なんだ?今の動きは。


「くそぉ…」

「なぁ?分かったろ?」


 俺が悔しがっていると、荒井が半笑いで近付いてきた。

 ムカつく。


「笑ってんじゃねぇ!なんで俺達が抜かれたか、お前は分かってんのか!?」

「いや、分かんねぇけど…お前は分かるのかよ?」


 分かんねぇからムカついてんだろ、くそっ!

 俺は、2組のコートへ戻る黒沢を睨みつける。速いドリブルだが、特に技を使った様には見えなかった。俺は確実に止めたと思ったし、そこに黒沢も居た筈なんだ。

 なのに、一瞬で消えた。まるでゴーストだ。

 意味が分かんねぇ。だが、このままじゃ不味い。

 だから、


「今度、奴がボールを持ったら、俺とお前の2枚でプレス行くぞ」

「おっけ。ダブルチームな」


 ゴーストの様に消えるなら、退路を全部断っちまえば良い。素人かと思って舐めすぎた。ここからは、俺達も本気を出す。

 そうして、次の作戦を立てて攻め込んだが、またデカ物とオカッパのコンビに俺達のボールが奪われてしまった。

 くそっ!


「虎二さん!」


 来る!

 奴だ!


「荒井!」

「おっけ!」


 俺と荒井は同時に駆け出す。狙うは、こちらに駆け寄ってくる黒沢ただ1人。

 こいつさえ止めてしまえば、俺達は…。

 そう信じて突っ込んで行くと、黒沢の表情が見えてくる。俺達がディフェンスを展開しているのを見て、ニヤリと寒気のする笑みを浮かべた。


 なんだ?何をするつもり…。

 俺が僅かに動揺すると同時、黒沢はボールを後ろへと戻す。

 そのボールは、奴の後ろを着いてきていたオカッパに当たり、オカッパもほぼノータイムでボールを弾いた。

 そして、その先にいたのは。


「ナイスパス!林君!」


 いつの間にかフリーになっていた、ノゾミ姫だった。

 なっ、なんで、誰も付いていない!?


()めろぉお!」


 俺の声も虚しく、姫様は余裕しゃくしゃくとた構えた後にボールを放ち、そのボールは理想的な放物線を描いてゴールへ向かう。

 俺達のゴールネットを、静かに揺らした。

 そこで、第3Q終了の合図が鳴る。


 ビィイ-ーー!!


 その合図を聞いて、何処か安心する自分が居た。

 何を安心してんだ、俺は!たった3分で、6点も巻き返されちまったんだぞ?スコアは20-28。第4Qの6分間で、残り8点を守り切れるのか…?


「おい、佐野。佐野って」

「あぁ?」


 俺が顔を上げると、表情を暗くした荒井達の顔が目に入った。

 いつの間にか、ベンチに戻って来ていた。


「聞いてなかったのか?佐野」

「次はどうするよ?何か作戦考えねぇと」

「やべぇって。あの黒沢って奴。相当うめぇし、運動神経もめっちゃ良い。運動音痴ってのはガセだぜ、絶対」

「いや、黒沢だけじゃなくて、林、小林ペアも結構ヤバくて、ノゾミ姫に人が割けなくなってる。このままじゃ、黒沢、姫のツートップに潰されるぞ?」


「うるせぇ!」


 弱気ばかりが行き交う悪い空気を、俺は怒鳴って断ち切る。

 そして、


「もう、なりふり構っていらんねぇ。俺達には、式部さんを守るって大事な役割があるんだ。負けるなんて許されねぇ。負けねぇ作戦を仕掛けるしかねぇんだ」

「負けない作戦?それって、どうするんだ?」

「こうするんだよ」


 俺は隊員達に説明し、それを第4Qが始まると同時に実行する。

 ツーポイントエリアに満遍なく広がる、ゾーンディフェンスだ。これを維持したまま、第4Qは戦う。

 それを見て、ギャラリーの中からは嘲笑とも取れる声が聞こえる。


「8組の奴、攻めるのを諦めたのか?」

「守るだけとか、ダッセェ奴らだな」


 うるせぇ。

 守るもんのない奴らが、好き勝手言ってんじゃねぇ。俺達は絶対に、式部さんを守らねぇといけねぇんだよ。


「来いや!2組!」

「じゃあ、お望み通り行ってあげる!」


 開始早々、ボールを持った姫が突っ込んでくる。ツーポイントエリア外に守備は居ないから、楽々と近付いてくる。

 でも、ここから先は入れない。俺達が入れさせない。


「くっ」


 姫はディフェンスを突破しようとするが、2人抜いた所でボールを奪う事に成功した。そして、奪ったボールはすぐさま2組のゴールへと投げ飛ばす。

 勿論、こんな距離じゃリングにも当たらないが、それでいい。このQで、俺達は一切前へ出ない。ただ強固な殻に閉じこもった亀になるんだ。

 残り時間、4分ちょい。スコアは20-28のまま。

 いける。


 そう思っていると、今度は黒沢が俺達に近付いてきた。ゆっくりとしたドリブルで、守備の隙間を探している。

 そんなことしても、無駄だぜ?俺達に死角はない。5人で攻めて来てもいいが、そしたらカウンター決めてやるよ。

 さぁ、どうする?と俺が腰を深く落とすと、黒沢のドリブルはそこで止まった。ボールを手に持ち、高く構える。

 そして、


 シュッ。

 

 そこからボールを放つ。ツーポイントの外、スリーポイントエリアから。

 こんな遠くから、破れかぶれの粗末なシュート。入る訳がな…。


「「わぁあああ!!」」


 はぁっ?

 観客の興奮した声で振り向くと、ボールはゴールネット下で規則正しいバウンドをしていた。そして、2組の得点が20から23に切り替わった。

 う、嘘だ。入れやがった…。


「佐野!やべぇんじゃねぇか?」

「狼狽えんな!」


 慌てて寄ってきた荒井に、俺はピシャリと言い放つ。


「マグレだ。歴ゼロがスリーなんて持ってる訳ねぇ。たまたま決まったラッキーパンチだ」


 そう、これはマグレ。そんなのに動揺して、前に出たら相手の思う壺。このまま作戦続行だ。


「おりゃ!」


 野球部の小島が投げたボールは、相手のリングに当たって終わる。そして、それを拾った黒沢が、また俺達へと近付く。今度はさっきよりも遠い場所で、シュートモーションに入った。

 バカが。入る訳ねぇ。奇跡ってのは、2度も起きねぇんだよ。

 そう思いながらも、俺はつい放たれたボールを目で追ってしまった。落ちることない放物線を描き、ボールは伸びる。

 そして、


 スパンッ。

 再び、ゴールネットを揺らす。

 なっ!連続スリー、だとぉ!?


「「「わぁあああ!!」」」

「ナイス!黒沢!」

「黒沢くん、カッコイイー!」


 奴の偉業に、ギャラリーから無数の声援が飛び交う。球技大会に積極的じゃない女子からも、黄色い声援が奴を押す。

 そして、その中には、


「虎ちゃん!カッコイイ!もう1発決めてぇ!」


 キラキラした笑顔で手を振る、式部さんの姿があった。

 ああ、くそっ。なんで、貴女がそこに居るんだ。なんでそんな奴に、そんな顔を向けて…。

 いや、分かってる。奴はそれだけすげぇ事をしたんだ。この偉業は、その声援を送られるだけの価値がある。その資格がある。

 そう、分かっちまう。

 だったら!


「全員、攻撃に回れ!黒沢を潰す!」


 奴を上回る!式部さんの心を取り戻す!

 俺が、俺達が!


「ぜってぇに勝つぞ!おめぇら!」

「「「おおぉ!」」」


 俺達は走り出す。相手のコートへと真っすぐに。

 そんな俺達に、後ろからボールが飛んで来る。小島が投げた超ロングパス。

 残り時間は、あと僅か。これがラストプレイ。こいつを決めて、俺達が…。


「甘いっす!」


 俺の妄想を、そんな声が止めやがった。

 見ると、荒井が受け取ろうとしていたその手前で、オカッパがボールを弾いていた。そして、その弾いた先に居たのは…。


「くろぉさわぁああ!」


 俺は慌ててUターンした。なりふり構わず、ガムシャラに走った。

 でも、奴には届かない。奴はドリブルしながら走っている筈なのに、滅茶苦茶速い。奴との距離が、一向に縮まらない。

 

 嫌だ。負けたくない!

 俺は焦った。ギャラリーから式部さんの声が聞こえて、心臓が早鐘の様に鳴り響く。

 そんな俺の前で、奴が止まった。その場所は、ツーポイントエリアの外。

 スリーポイント。

 俺達を殺す為の一投を、静かに構えた。

 

 やめろ。


「やめろぉお!」


 俺の手は、自然と伸びていた。既にシュート態勢に移った奴の体操着の裾を、ガシッと掴んでいた。

 それでも、奴は止まらない。体操着が伸びるのもお構い無しで、奴は跳んだ。反則している俺を気にした素振りはなく、その目は真っ直ぐ前を見ていた。

 ただ、ゴールを見据えていた。


「射出」


 奴が短く唱えると、ボールは約束された軌道に乗る。

 そして、そのまま…。


「弾着、3…2…1…今!」

 スパンッ!


 ピッ!

 ビィイイーー!!


 ゴールが入ると同時に、俺のファウルを知らせる笛と、試合終了の合図が同時に鳴る。

 試合のスコアは今、26-28から29-28へと切り替わった。

 俺達の、負けだった。


「「おぉおおお!」」

「きゃー!」「黒沢くぅーん!」


 ギャラリーから無数の声援や黄色い声が飛ぶ中で、俺はその場に座り込んだ。

 そこに、影が出来る。見上げると、黒沢が立っていた。奴が俺に、手を差し出す。


「対戦、ありがとうございました」


 そう言う奴の目は真っ直ぐだった。綺麗な黒の瞳は、俺と違って澄んでいた。

 あれだけ噛み付いた俺に、負の感情を抱いていない様子で、ただ親切心から手を差し出している様だった。

 

「…くっ」


 俺はその手を取らず、下を向く。

 負けたことが悔しかった。彼女に振り向いて貰えなかった事が悲しかった。そして何より、彼女に好かれるこいつを、心の何処かで認めてしまった自分が苛立たしかった。

 俺は、俺自身にムカついていた。


「くそっ」


 その鬱憤を原動力に、俺は立ち上がる。黒沢を睨みつけて、捨て台詞を吐く。


「次は、負けねぇ」


 黒沢の返答も待たずに、俺はその場を去る。

 後ろで、式部さんが黒沢の名を呼んでいるが、もうそれに怒りすら感じなくなっていた。

 ああ、くそが。

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― 新着の感想 ―
素晴らしい…ナイスゲーム。両方ともね。恥を忍んだ守りの8組も、諦めずに挑み続けた2組も最高でした。やっぱり、こういう熱いスポーツもイイですねぇ!
主人公・七音の両エース(主人公もサプライズ主戦力としての登場だが)に気を取られた8組の意識外から 秀吉君・小林コンビが歩から裏返った「と金」のように不意を突いて機能し、良い仕事しましたね 中の人が投…
ヒデちゃん 活躍どころかサブタイトルまで ありがとうございます。 ヽ(´ー`)ノ
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