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俺の拳とこの魂で、砕いてやるぜ!そのハーレムを!  作者: イノセス


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33話〜ちょっと待って、兄さん〜

 苦し紛れで約束してしまった恋愛事情の報告会を、今日の夕食会で披露するようにと舞花から申し付けられてしまった俺は、断頭台へと上がる気持ちでその会場の扉を開いた。

 すると、そこに広がる会場は、いつもより照明が明るい気がした。俺を座って待つ妹の目も輝いているし、母親はいつにも増して若返っている気がする。

 …女性というのは、恋から若返りの成分を摂取することが出来るのか?俺にとってのプロテインみたいなもの?


「待っていましたわ、虎兄さん」


 俺は決して待っとらんぞ、妹よ。


「虎。今日はとても大事な話があるのよね?」


 母よ。そんな目で見つめられても、貴女達が喜ぶような話は出来ないと思いますよ?

 

「少々込み入ったお話になるかもしれませんので、デザートの時にでも軽く…」

「お気になさらず、兄さん。今からゆっくりじっくりお話ください」


 完全に楽しんでいるじゃねぇか。俺の話は、食事中に嗜むナイトショーってか?

 良いだろう。胃もたれするくらいの重々しい話を聞かせてやろう。

 3人で食事を始めて暫くしてから、俺は徐に話始める。


「では先ず、俺が衝撃を受けた屋上での一幕から語らせて頂きます」


 そうして俺は、ここ1か月半の間にあった出来事を簡潔に語っていく。

 屋上で見たセイジ達の異様な昼食会や、ヒデちゃんやジュンさんのお母さんから聞いたセイジの仕打ちの数々。それらに打ち勝つ為に、俺が今まで必死にダイエットと勉強に食らいついていた事を。

 そこまで話すと、妹が待ったを掛けた。


「ちょっと待って、兄さん。つまりそれって、兄さんが上郷先輩達の邪魔をしているって事よね?」


 うん?邪魔?


「…セイジからしたら、確かにそう見えるだろうな。だが、元々彼はジュンさん達に恋愛感情を見せておらず、皆の愛をただ受け取るばかりであったのだ。故に、ジュンさんは今も苦しんでいる」

「だからって、上郷先輩の彼女さん達を取っていい事にはならないわよね?」


 …はぁ?彼女さん、達?

 おいおい、舞花。お前は一体、何を言っているんだ?


「舞花。お前は話を聞いていなかったのか?ジュンさん達はセイジの彼女ではない。ジュンさん達がいくら愛を囁いても、セイジは彼女達の誰かから1人を選ぼうとしていないのだ。言わば、彼女達でハーレムを築こうとしている」

「それの、何処がおかしい事なの?」


 …うん?なんだ、これは。俺はまさか、夢でも見ているのか?それとも、今俺の目の前にいるこの人達が、家族を偽った紛い物なのか?

 俺は恐怖を覚え、目の前の正体不明生物(アンノーン)を睨みつける。すると、妹らしき者が息を飲み、母親に似た者はため息を吐き出した。


戯言(たわごと)も大概にしなさい、舞花。貴女の言っている事は、あの人と同じ言葉に聞こえるわ」


 あの人。

 その言葉で、俺の脳裏には父親の顔が浮かんでくる。同時に、1人寂しく泣く母親の姿も。

 つまり、母は妹の言動がおかしいと思っており、間違いなくこの人は俺の母である。

 そして、


「えっ…?どう言う事です?お母様。私、何か変な事を言いましたか?」


 母の言葉で動揺する少女もまた、本物の舞花であろう。


「何かって…」


 母は呆れる。だが逆に、俺は笑った。

 恐らく、そう言う事だろうと予想して。

 そして、その予想を確かめる


「舞花。1つ聞かせてくれ。セイジがジュンさんやノゾミさん、コハルちゃんと同時に付き合ったら、どう思う?」

「どうって…それは、お似合いだと思います。みんな可愛くて、格好良くて、とてもお似合いのカップルだと…」


 くっくっく。そうか、そうか。


「では次に、俺がジュンさんとコハルちゃんと同時に付き合った…」

「殺す。仮令それが実の兄でも、汚らわしい浮気野郎に彼女達は渡さないわ」

「ブッフッフ…」


 あまりにも予想通りの言動に、俺は笑いを堪えきれなくなっていた。

 そんな様子の兄妹に、母は困惑気味だ。


「どうしちゃったの?舞花。貴女…変よ」

「えぇっ、うそ…私が変なの?」

「ブハハッ。仕方の無いことだ、妹よ。それがセイジの…狂った魅力だからな」


 恐らく、認識阻害の一種だろう。奴に女性が群がっても、それが当然と彼女達に認識させる力。舞花の様に浮気を嫌悪している人も、それにかかれば"当然の事"と認識する。

 認識を、捻じ曲げられる。

 セイジの魅了に、まさかこんな力もあるとは。


 では、その力が何処まで強固な物なのか、試させて貰おう。我が妹を使ってな。


「考えてみろ、舞花。俺が複数人と付き合う事と、セイジが複数人と付き合う事、何が違う?」

「それは、兄さんと上郷先輩じゃ雲泥の差が…」

「なんの差だ?どんな差があれば、複数の女性と付き合える?どんな力があれば、この日本で複数の女性と結婚出来る?明治政府が定めた一夫一妻制を覆せる程の力を、一般人のセイジが何故持っていると思うのだ?お前は」

「えぇっ?制度?だって、上郷先輩は…魅力的で、それに、それに…なんで、それだけで?私はどうして、こんな非道を許しているの?」


 ふむ。もう解けかけている。やはり、そこまでの強制力は無いのか。時間や距離を置いても効果があるのだ。流石に、威力まであったら過ぎた力である。

 普通の人間が持つには、だがな。

 舞花の狼狽える様子を眺めていると、彼女を抱き寄せた母親がこちらを向く。


「虎。どう言う事なの?舞花はどうして、こんな様子に?」

「それだけ、上郷清治が魅力的なのです。複数の女性を侍らせても、許されるくらいには」


 ここで魅了の力がなんだと言うよりも、この方が分かりやすかろう。

 そう思ったが、母には分かり易すぎたみたいだった。いつも憂いているその瞳に、ボウッと炎が灯る。


「その男は、女の敵ね」

「さて、俺には図りかねます」


 実際、セイジが何処まで力を理解しているか分からない。皆の思いを踏みにじってはいるが、犯罪までは犯していないし。

 案外、奴も誰かに踊らされるマリオネットかもしれんからな。

 とは言え。


「俺はただ、奴の手から意中の女性を救い出したいだけなのです」

「それが、ジュンって子なのね」

「左様です。お母様」


 厳密に言うと、囚われている娘は全て救い出したい。だが、その中で好意的に思っているのはジュンさんだけ。だから、この場で要らぬ言葉には蓋をさせて貰おう。


「分かったわ、虎。今日はここまでにしましょう。思ったよりも濃い話でしたし、舞花も休ませたいわ」

「それが宜しいかと。俺も、今日は休ませて頂きます」


 そう言って、俺は綺麗に食べ終えた皿を片付け、そのまま退室しようとした。

 でもその直前、母に呼び止められた。


「虎。次の機会には、そのジュンという子の話を聞かせてくれるのよね?」

「それは構いませんが、お母様。彼女はまだ、偽物の愛に囚われている身です。ですので、今回と同じく気持ちの良い話にならないかと思われます」

「あら?そんな事では、傷付いたお姫様を救い出せませんよ?可愛いナイトさん」


 母はそう言って、妹と同じような笑みを浮かべた。

 ぐっ。やはり、母娘(おやこ)だな。

 俺は騎士の礼を真似てから、夕食会場を後にした。



 やっと夕食の儀から解放された俺は、そのストレスを発散させるべくトレーニングルームへ来ていた。予想外の収穫もあり、体を動かしながら考えを整理したかったのだ。

 

 セイジの持つ力、それを目の当たりにすることが出来た。今までは彼の圧倒的な魅力によるものかと思ったが、舞花が掛かっていたアレは人間の魅力以上の何かを感じた。

 何だろう?魔術だとか異能の力だとか、そんな空想の産物がこの世界にはあるのか?それとも、上郷家には何か、秘術でも伝わっているのか?


「どちらにせよ、一筋縄じゃいかねぇって事だ」


 頭のどこかで、ジュンさんの魅了が解けかけていると考えていたが、もう少し慎重になるべきかもしれん。常識が通じない事象。それがセイジの力であり、それこそがバグなのだろうから。


「うん?メッセージ?」


 夕方の反省から、スマホを手元に置くようにした俺。ブルルと震えたので、手に取って確認してみる。

 もしかして、またジュンさんからエッチな画像が送られていないかと、心配と期待が入り混じりながら確認する。

 でも、


「おや、君だったか」


〈◆〉


「なんで泣いたりしたのかしら?私…」


 夜。

 いつも通り勉強しようと机に向かったけど、勉強する気が全く起きなくて、私はそのままベッドの上に倒れ込む。薄暗い部屋の天井を見上げていると、今日の事が頭の中で浮かんでしまい、また心がザワついた。

 なんで、こんな気持ちになるんだろう。ジュンが黒沢君のことが好きと聞いた時から、私の中で重い空気が渦巻いている。気持ちが落ち込んでしまい、何もやる気が起きない。

 

「そんなに、ショックだったって事?」


 そうかもしれない。だって、今までずっと仲間だと思っていたから。私と同じ、セイジを好いている戦友。喧嘩や意見の食い違いもあったけど、一緒に励まして笑い合って、この1年間を共に過ごした親友だったんだ。

 それが、終わってしまう。ジュンには別に好きな人が出来てしまい、私は1人でセイジを追いかけなくちゃいけなくなる。ナツさんもコハルちゃんもセイジを好きな仲間だけれど、やはり同い年のジュンとは少し違う立場。本当の意味で肩を組めたのは、ジュンだけだった。なのに…。


「なんで、黒沢君なの?ジュン」


 言葉にして、私の中にあった憂鬱が更に重くのしかかって来る。彼の名前を呟いた途端、心がささくれ立つ。

 違う、違うわ、ノゾミ。黒沢君は悪くない。あの子はあんなに努力していたじゃない。お金や権力で(だま)している訳じゃなく、本当に頑張っているだけよ。見たでしょ?あの手を。頑張り屋さんのあの手を。あの子は私の…生徒なんだから。


「そうよ。彼は私の、可愛い"生徒"じゃない」


 その言葉で、私の心は軽くなる。

 どうしてかしら?もしかして、ジュンを許せたのかな?黒沢君なら仕方ないって、そう思えたのかも。


「あっ、そうよ。私…彼に失礼な態度を取っちゃったわ」


 私から参加した練習会なのに、勝手に怒って帰ってしまった。今思うと、顔から火が出るくらいに恥ずかしい行為。しっかり謝罪しないと。


「ええっと、黒沢君は…あっ、動画を送った以来か」


 黒沢君との履歴を開いて、謝罪のメッセージを打ち込む。時間は…まだ9時だから大丈夫よね?彼、早寝早起ってイメージだけど…。


「送信っと。…送っちゃった」


 何だか心がウキウキして…じゃなくて。文章が変じゃないかと、私はもう一度読み返す。すると、既読が付いた。

 えっ、もう読んでくれたの?

 私は嬉しくなって、既読の2文字をずっと見詰めていた。すると、彼から返信まで来た。


〈こんばんわ。メッセージありがとう。七音さんが謝る必要はないよ。俺の配慮不足だし、互いに行き違いもあった。それに、コーチが来てくれて助かったよ。練習が凄く捗ったし、ヒデちゃん達もやる気になってくれた。ヒデちゃんにはちょっと負荷を掛け過ぎて、帰りには歩けなくなっちゃったんだけど…〉


「ぷっ。えぇ?そうなの?やっぱり黒沢君は、スパルタ先生ね」


 つい、読んでいる最中に吹き出してしまった。

 続きを読もう。


〈球技大会まで日が無いけれど、やれるだけのことはやろうと思う。お互い、優勝目指して頑張ろう!!〉


「ふふ。ビックリマークが2つも付いて…黒沢君らしい」


 自然と、今日見せてもらった彼の手を思い出してしまう。硬くなった手のひらが、彼の頑張りを表していた。

 私も頑張らないと。頑張って優勝して、そして…。


「あっ、そうだ。湿布」


 ジュンの事ですっかり忘れてたけど、彼に怪我の事を言い忘れてた。今からメッセ…ううん。明日、私が直接渡してあげよう。


「ええっと、救急セットは確か、居間の棚にあった筈」


 私はベッドから飛び起きて、1階への階段を駆け下りる。

 そうそう。朝になったら、特製のドリンクも作ってあげよう。だって私は…。


「彼の"コーチ"、なんだから」

認識阻害?

そんな、人と思えない力まであるんですね、上郷の魅了には。


「過ぎた力よ」

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― 新着の感想 ―
ようこそチャレンジャー。相思相愛、なのに付け入る隙が多分に残された戦場へ。奥手ってヤツぁとことん損だ。先に告白した方が有利になる。しかし…黒沢氏はジュンさん以外には靡かないと言っている…ライバル、蹴落…
仮面夫婦とか情緒がお亡くなり済の上流階級のおば…奥様と思いきや、不遇気味の普通の家庭人の方?でした 第三者(術者視点からのMOB)へ広く浅く影響(異性へ魅了/同性の敵愾心)は政治家一家向きの権能に感…
妹の粗忽さ加減を表すと同時に、物語の矯正力を匂わせる興味深いエピソードでした。 今後がより楽しみです。
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