23話~やだなぁ…~
ゴールデンウィークは瞬く間に過ぎていく。それと言うのも、ジュンさんとの距離が近付いた事により、時間が加速度的にすっ飛んで行くからである。
彼女と過ごしていると、1時間が10分くらいに感じるからね。互いに苦手な勉強をしている筈なのに、凄く刺激的な空間になっていた。
そう言うと語弊があるが、我々がしているのは至って健全な勉強会だ。ジュンさんに教える事で、刺激を受けていると言う意味での表現である。
まぁ、それだけじゃないけど…。
「虎せんせぇ〜。ここが分かりませ〜ん」
セイジ君に何か言われたショックで甘えていたのかも?と考えていた俺だったが、それは間違いだった。ジュンさんはその後も、俺にベッタリとくっ付いて来て、その豊満な体で俺の欲情をバシバシ刺激してきた。
気を抜くと、「この娘は俺が好きなんだ!」と言う方向に思考が暴走するので、気が気ではない。加えて、押し付けられる胸部装甲の感触が、どうしてもあの夜の画像に結び付いてしまい、理性が悲鳴を上げていた。
一応、あのハレンチ画像を送ってきた翌日に、俺はジュンさんに軽く説教をした。男は狼なのだから、あの様な行為を簡単にしちゃダメだよ?と。
その言葉には、俺の焦りも入っていた。俺みたいな奴にホイホイ送るくらいだから、まさか愛しのセイジ君にはそれ以上の物を送ったりしているんじゃないかと思った。まだ付き合ってもいないのに、自分を安売りしていないかと怖くなった。
だが、
「簡単じゃないし。(小声)あんなの送るの、初めてだし…」
ジュンさんは顔を赤らめて、そう言っていた。その表情を見るに、嘘では無さそうだった。
俺は安心すると同時に、「ありがとう」と彼女に言っていた。自分を大切にしてくれて。そして…素敵な物を、ありがとうと言う意味を込めて。
そのお礼も不味かったのか、ジュンさんとの距離感はバグったままだった。
最初は勉強会だけだった彼女だったが、段々とその前のバスケ練習にも加わる様になってきた。
その練習の最中、俺がバレーボールの練習も加えようと提案した。ジュンさんが出場する球技大会の種目が、バレーボールだったからだ。
「良いの?バスケの練習時間を削っちゃって」
学校の体操着に着替えたジュンさんが、遠慮がちに聞いてきた。
確かにジュンさんの言う通りでもある。でも良いのだ。彼女も散々、俺の練習に付き合ってくれているのだから。それに、どんなものであれ、努力すれば必ず何処かで役に立つものだから。
俺がそう言うと、ジュンさんも嬉しそうに笑ってくれる。
「そうだね。バレーって、背も伸びるって言うし」
「よしっ!久保さん!これからバスケと水泳の時間は全て、バレーの練習に切り替える!」
俺が力強く宣言すると、ジュンさんは大笑いした。
「虎ちゃん、それはやり過ぎだよ。伸びるかどうかも分からないし」
「可能性があるだけ試す価値がある。俺にとって、背丈は喫緊の課題であるからな」
俺の身長は、160cmちょっとしかないからな。低身長の男子は、どうしても異性としての魅力に欠ける。
そう俺が悩みを打ち明けると、ジュンさんは優しい微笑みを向けてくれる。
「背なんか無くても、虎ちゃんは十分にカッコイイよ?」
「…ホント?ジュンさんがそう言ってくれるなら、背の問題は二の次とするか」
と言う事で、練習時間を元に戻す事にする。
コロッと意見を変えた俺に、ジュンさんは再びお腹を抱えて笑っていた。
可愛らしい笑顔だ。
でも、いざバレーの練習になると、彼女の愛らしい姿は様変わりした。見事なサーブやトス、そして強烈なスパイクを俺に見せつけた。
「凄いな、ジュンさん。元バレー部員だったりする?」
「ママ…お母さんが昔、企業チームに所属しててね、あたしも小さい頃は一緒になって習っていたんだ」
そう言って繰り出すスパイクは、何時もの優しいジュンさんとは違った一面を見せてくれて、とても魅力的だった。
うん。素晴らしい体のバネだ。
「虎ちゃんもやる?」
「いいね。是非、ご教授賜りたい」
ということでやってみたが、スパイク1つ取っても難しい。俺がなかなか出来ないでいると、ジュンさんがジャージの上着を脱ぎ出した。
うん?何をするの?
「じゃあさ、あたしのスパイクを動画に撮ってよ」
と言う事で、今度はジュンさんの手本動画を頂ける事になった。
なんだけど…。
「ジュンさん。コイツは不味い」
撮った映像を見て、俺は声を震わせた。何せ、彼女が飛び上がったりスパイクを打つ度に、別のボール達が大暴れしているのだ。
流石にこの絵は使えんと本人に訴えたのだが、彼女はニンマリといい笑顔を浮かべてこう言った。
「え〜?なんで不味いのぉ?」
うわっ。この娘、確信犯やん。態々ジャージ脱いだのも、この絵を撮らせる為?
…俺の理性を試しているのか?
「さぁ、虎ちゃん。この動画をしっかり見て、ばっちり覚えてね」
「ぐっ…」
アカンて。こんなの渡されたら、また夜に暴走してしまう…。
こんな感じで、勉強以外の時間でも、彼女との壁が無くなり過ぎているのを感じた。
午後の水泳の時間も、ジュンさんは付いてくる様になった。流石に俺と一緒に泳ぐことはなく、ベンチで待っている事が多い。バスケやバレーも一緒にやっているからね。俺に付き合っていたら、彼女の体力が持たない。
だがそうすると、別の問題が起きる。座っているだけだと、彼女のナイスバディが男性客に晒され続けるのだ。だから俺は、彼女に上着としてラッシュガードを買ってあげた。これで体温も保てるだろう。
そんな思いを隠しながら、彼女に渡したのだけど…。
「虎ちゃんって、意外と独占欲が強いんだね。あたしの体、他の人に見られるの嫌なんでしょ?」
うん。一発で考えがバレてしまった。
隠しても無駄だと思い。俺は素直に「仰る通りで」と頷いた。そしたら、ニヤニヤしていたジュンさんは一転、顔を真っ赤にして「もうっ」って恥ずかしがっていた。
恥ずかしいなら言わなきゃ良いのに。まぁ、照れ顔も可愛いから、俺的には眼福で有難いんだがね。
そうして、ドタバタで楽しいゴールデンウィークが過ぎていき、今日は最終日。朝からのバスケ練習と勉強を終えて、昼食会に移行したところだった。
今日ジュンさんが用意してくれたメニューは、初日と一緒のサンドイッチ。でも、中身は卵やチキンカツなど俺好みのものばかりだった。
「虎ちゃんはダイエット中だもんね。あたし特製、バター抜きサンドだよ」
「それなのに、めちゃくちゃ美味いね。本当に助かるよ」
「そ、そう?ありがと…」
頬を染めながらも、俺の感謝をそのまま受け取るジュンさん。以前なら恐らく「揶揄わないで!」と照れながら受取拒否していた場面だ。
俺の言葉が本心であると分かってくれたのだろうか?そうならば、凄く嬉しい。
「あーあ。明日から学校かぁ。やだなぁ…」
なんだか夏休み明けの小学生みたいな事を言うジュンさんに、俺は一瞬笑いそうになった。でも、よく考えたら笑えない。彼女からしたら、大問題だからだ。
「…セイジ君達の事か」
ジュンさんはずっと、俺と一緒にゴールデンウィークを過ごしていた。つまりそれだけ、彼女はセイジ君と顔を合わせていない。電話で喧嘩をしてから、ずっとだ。
そして、明日は久しぶりに顔を合わせることになる。かなり気まずいだろうし、どうやって仲直りするか気が気じゃないだろう。他の3人と大きな差を付けられたと、焦っているのかもしれない。
そう思って聞いたのだが、
「違う、違う。あたしがイヤなのは、虎ちゃんの事だよ…」
「俺?」
どゆこと?
俺が頭の上に〈?〉を浮かべていると、ジュンさんは彼女のスマホをこちらに向ける。自撮り機能になっており、俺の姿が写っていた。
「ほらさ、虎ちゃんめっちゃ痩せたから、フツーにカッコよくなったじゃん。今の君を見たら、学校の子達は放って置かないと思うんだよね」
「えっ?痩せたか?」
俺は立ち上がり、自分の体を見下ろす。
毎日鏡を見ているから、イマイチ変化に気付けない。確かに、休み前は70㎏を優に超えていた体重も、今はギリギリ60㎏代まで落とすことに成功している。あれだけ出ていた腹もかなり凹んで、ズボンもLLサイズが入る様になった。だが、見た目はまだ肥満体型のデブに変わりない。
そう思ったのだが、ジュンさんはブンブンと首を振る。彼女も立ち上がり、俺のすぐ目の前まで迫り、顔をグッと近づけてきた。
ふぁっ?キスでもするつもりか?いやいや、そんな顔つきじゃないぞ。
「ほら虎ちゃん、背も伸びたでしょ?きっとこれも、ダイエットの効果だよ」
「ええっ?」
確かに、こうしてジュンさんと面と向かうと、そんな気もしてくる。連休前までは、彼女を若干見上げていた気がするも、今は少しだけ見下ろす形になっている。目算で言うと、5cmくらいは変わったか?
だが、ダイエットで背が高くなるなど聞いたことが無い。栄養不足だった人が、食べるようになって伸びたって話なら聞いたことがあるけど、それとは逆だ。痩せて重力に引っ張られなくなったか?はたまた、脂肪で阻害されていた姿勢が正されたとか?
「痩せて背も伸びたから、虎ちゃんきっとモテモテになるよ。どうする?女の子達に囲まれちゃったらさ」
冗談交じりにニヤニヤ笑うジュンさん。でも、その笑顔は硬い。無理して笑っているのがバレバレだ。
好きな人が取られると思って焦ってる?…いやいや、彼女にはセイジ君という想い人がいるのだから、その考えは己惚れだ。
きっと、仲の良い友達が他の人と仲良くなってしまうと思って、焦っているのだろう。彼女への優先度が下がり、勉強も見てもらえなくなるとでも思っているのか。
「大丈夫だよ、ジュンさん。万が一そうなったとしても、俺の中の優先順位は変わらない。俺の中で、君が一番大事であることは変わらないよ」
「あたしが、一番…だいっ!」
安心させようと思って言ったのに、逆に彼女をカチコチにさせてしまった。顔がゆでダコの様に真っ赤だけど、俺はそんな気恥ずかしい事を言ったのだろうか?
兎に角、ジュンさんに安心してもらわないとと思っていると、リビングのドアが開いた。そちらを見ると、我々を見て固まっている舞花の姿があった。
おおっ。ハワイから帰国したか。予定より随分と早いが…。
「お帰り、舞花。随分はや…」
「このぉ…バカアニキィイイ!」
「ぐぉっ!」
帰国したての舞花は、何故か、俺の腹にドロップキックを突き立てた。
なっ、なんで…?
見上げると、舞花はワナワナ震えて、同じく震える指をこちらに向ける。
声を、震わせる。
「あんた!とうとうヤリやがったわね!?」




