22話~ちょっとやり過ぎだったかな?~
毎度ご愛読下さり、誠にありがとうございます。
ええっと…注意事項を…。
※カッコの使い方。
「」…通常の会話。
()…心の声。
〈◆〉…視点切り替え。
〈〉…文章や書かれている文字。
『』…電話など、肉声でない会話。←new
「イノセスよ。これは昨日、上郷の電話時に掲示するべきだったものではないか?」
…はい。失念しておりました…。
皆様、済みません。宜しくお願い致します。
ジュンさんを引き止めたのは、正解であったと思う。随分と思い詰めた表情だったし、あのまま1人で帰していたら、心を病ませる可能性すらあった。誰かが胸の闇を聞く必要があると、俺の直感が叫んでいた。
…いや、あれは俺の経験からくる警告か?イマイチはっきりせんが。
兎に角、その直感に従った事が良かったのだと思う。勉強を共に頑張ろうと約束すると、ジュンさんはとても安心した顔になったし、纏うオーラも柔らかくなった。
そう言う面では成功した…と、思うのだが…。
「ねぇ、虎ちゃん。ここの問題が分かんないんだけどさぁ」
「うん?何処の事かな?」
「ここだよ。ここ」
そう言ってジュンさんは、俺の左腕に豊満な体を押し付けてくる。彼女の整った顔がすぐ近くまで迫り、彼女の高い体温を肌で感じる。
昼食前までは対面で座っていた彼女だったが、今は並んで勉強しており、その距離もグッと近付いていた。そして、何か分からない事があると、その僅かな距離すら詰めて来て、こうして殆ど密着する状態になっていた。
…うん。済まない。言葉に誤りがあった。殆どではなく、完全に接している。絶賛、0距離密着状態であった。
なんだ?これは。彼女は一体、どういう心理状態なんだ?
「聞いてる?虎ちゃん」
「あっ、ああ」
嬉しさと、尊さと、愛くるしさと。
彼女へと向かう感情が大渋滞で、思考がショート寸前になっていた。
何とか交通整理が出来た俺は、気持ちを整え、煩悩を追い出し、彼女の綺麗な指が指す問題に視線を落とした。
「そうだね。ここはほら、問いで引かれている線の直前の文章中に、答えがある事も多いんだ」
「あっ、ホントだ。ホントにあった。すごーい。やっぱ虎ちゃんは流石だね」
そんな天使の笑顔を、こんな至近距離で向けないでくれ!さっき追い出したブタが、戻って来ちまう!
そんな時間を暫く過ごした後、本日は解散となった。でも、大事な交渉事が残っていた。
バスケの動画譲渡だ。
ジュンさんに撮って貰った各種データを、どうにかこちらに送って欲しいと彼女にお願いした。容量的にPC接続か、クラウド保存が良いかと思っていたのだが…。
「じゃあさ!お互いの連絡先、交換しよ?」
「あっ、ああ。それは、光栄だな」
ジュンさんと連絡先を交換できるなど、クラスの男子に聞かれたら羨ましがられ過ぎて、恨まれるレベルの案件だろう。だが、あまりにも彼女からの圧が強くて、俺はつい押し切られるような形で交換会に臨んでいた。
でも、やはりうれしい事に変わりはない。
ジュンさんは早速、我々2人だけのグループチャットを作成してくれて、そこに今日撮ったデータを次々と入れてくれた。画像データは長すぎないように細かく区切られていたので、ダウンロードもスムーズだ。
まさか、最初から連絡先を交換するつもりだったのか?
まぁどちらにせよ、これでバスケの練習が効率よく行える。
さて、
「では、家の近くまで送ろう」
「えっ、そんな、いいよ。まだ外も明るいし」
俺が先に玄関へ向かおうとすると、ジュンさんが首を振る。何処か寄る場所があるのかと思ったが、別にそうでもないそうだ。
ふむ。遠慮しているだけか。なら、
「なに、俺も心配性なんだ。君に何かあってはいけないと思ってしまってね。だから、俺のワガママと思って提案に乗ってはくれないだろうか?」
「う、ん。分かった」
渋々と言った風に頷くジュンさん。
悪いな。俺のワガママに、付き合わせてしまって。
俺は久保さんにお願いして、彼女を車で送り届ける。だが驚いたことに、彼女がナビゲーションした先は彼女の家そのものだった。
えっ…。
「ごめんね。小さな家で驚いた?」
「いや、立派な一軒家だと思うが…」
都心からも近いこの土地で、二階建ての庭付き物件は相当な物だ。中古って感じてもないし、相当頑張って建てたんだろうな、お父さん。
ああ、違う。俺が驚いているのは家自体にではなく…。
「俺なんかに、家を知られてよかったのか?」
最寄りのコンビニとかで良かったんだがな。
「うん。全然構わないよ。(小声)寧ろ、知って欲しいっていうか…」
うん?知って欲しい?どういうこと?
ジュンさんに問う前に、彼女は車から降りてしまった。そして、振り返って俺のことをジッと見詰めた。
うん?何かを迷っている様子だけど…どうかしたのかい?
「あの……ううん。また明日ね、虎ちゃん」
「ああ。また明日。朝も迎えに…」
「そんな、良いよ。虎ちゃんは過保護過ぎ。じゃあね!また明日」
彼女は俺の提案を笑顔で振り切り、元気に手を振って家に入ってしまった。
もしかして、また朝早めに来て、こっそり2階から俺を監視しようとしているのか?もう君の視線は覚えたぞ?
「さて、久保さん。このまま市営プールに行きましょう。…久保さん?」
「流石は坊ちゃんですね。もうあの子、完全に坊ちゃんに惚れてたじゃないですか」
「…そうですか?」
「そうですよ!」
運転シートに隠れてしまっている久保さんだが、彼がウキウキしているのは後ろからでも伝わって来た。
「坊ちゃん。あんな甘々な領域を展開しておいて、何を言っているんですか?鈍い俺でも、一目で分かりますって。そりゃ異性に『帰す訳にはいかない。君が辛そうだから』なんて言われたら、イチコロでしょうね」
いやぁ、今こうして他人から聞かされると、随分キザで歯の浮くセリフだと思うがね?
だが確かに、彼女の視線は恋する乙女の物だった。過剰なスキンシップや先ほどの発言からしても、久保さんの意見を否定出来ない。つまり…。
ジュンさんは既に、セイジ君の魅了から解放されている?そして、俺に惚れて…。
そう考えた瞬間、心臓が飛び跳ねた。体中から、変な高揚感が湧き出でる。欲望がふっつと沸き上がり、良からぬ妄想が頭の中を駆け巡る。その全ては、あられもない姿のジュンさんばかりで、その花園に俺が…。
いかん。これはイカンぞ!
俺は慌てて、妄想をシャットダウンする。ジュンさんが俺に惚れているという可能性を全面的に否定し、内部の冷却に注力する。すると、暴走状態であった欲望が活動を停止し、制御が戻ってくる。
ふぅ。危なかった。あのまま行けば、俺は欲望のままにジュンさんを襲う獣になっていただろう。ただでさえこの体の感情は劣情方向へ行きやすいのに、そこへ理性までお花畑に突っ込んだら、本格的に制御が利かなくなる。
良いか?ジュンさんは電話で、セイジ君と何かを話していた。その内容がショッキングな物で、一時的に心が弱っていたんだ。それで、藁にも縋る思いでブタに縋った。今日のアレは、揺れる乙女心の片鱗が見えただけだ。
「久保さん。確かに今日、彼女との距離を縮めることは出来た。だが、それがイコール恋愛に発展したと判断するのは時期尚早だ」
「いやいや、あれは誰が見ても…」
「少なくとも、彼女達を取り巻く恋愛事情は複雑で奇怪。この一面だけを切り取って断定する事を、俺は避ける事とする」
セイジ君の放つ魅了は強力だからな。そう簡単に事が運ぶとは思えんし、完璧と思っても覆される恐れがある。それが、世界の常識すらねじ曲げる"バグ"と言う事象であろうよ。
俺が腕をキツく組むと、久保さんは小さく肩を窄める。
「そうですか?まぁでも、自分は感動しましたよ。女性にはああやって接したら良いんだって、坊ちゃんの言動が凄い勉強になりました。なぁ?みんな」
「ええ」「はい、それはもう」「今度、合コンで使わせてください!」
車内が一気に、野郎どもの熱で満たされる。折角ジュンさんの甘い空気が残っていたのに、全部押し出されてしまった。
まぁ、喜ぶのは良いですけど、合コンであの痛い発言は爆死しますよ?
その後の俺は、少々遅れた午後のタスクを消化する。市営プールで泳ぎまくり、ヘロヘロになって帰りの車に乗った。
何時もより遅い時間だが、今日は夜の勉強を午前中にこなしているので問題ない。
寝るまでの間は、この世界の情報収集にでも当てようかと思っていると、スマホに通知が来た。見てみると、ジュンさんから5通もメッセージが入っていた。
ヤバい!何かあったか!と、急いで見てみたが、他愛もない世間話を呟いているだけだった。
〈今日は楽しかったよ♡〉とか〈明日のお昼は何が良い?〉とか。そんなショートメッセージばかりだ。
俺が纏めて返信すると、直ぐに既読が付いて新たなメッセージが飛んできた。
〈寝る前に、少しだけお話しても良い?〉
『やっほー!虎ちゃん。さっきぶり〜』
「さっきぶり、ジュンさん。寝る前なのに元気だね」
時間も空いていたので、俺は彼女のお誘いに乗った。
でも、
『だってぇ〜。虎ちゃんとお話出来るって思ったからさぁ』
「ぐぉっ」
『あははっ!なに変な声出してるのぉ?ねぇ、ねぇ、虎ちゃん』
それは間違いだったかもしれない。彼女の甘い言葉があまりにも刺激的過ぎて、今宵は眠りに着くのが難しそうだ。
しかも、少しだけと言いながら、その後1時間くらい通話してしまった。帰った後に何をしていたかって話になって、俺が水泳していたと答えたらエラく食いつかれてしまい、色々聞かれてしまったのだ。
でも、そんな甘い時間はすぐに過ぎ去る。
『あっ、もうこんな時間だ。ごめんね?虎ちゃん、水泳で疲れてるのに』
「いいや。俺も楽しくて、あっという間だったよ。電話してくれてありがとう」
『……もうっ!そんな事言われたら、徹夜で喋り倒したくなっちゃうでしょ?』
「はっは。まぁ、明日もあるし、続きはそこで頼むよ」
『うん!オヤスミ〜♪』
電話を切り、俺は空気椅子を止めてベッドに腰掛ける。
本当に、この数日でジュンさんとの距離が縮まった。彼女が元々社交的な娘であったから、俺みたいな奴にも優しいのだと思う。
だがそうだとしたら、彼女はあまりにも無防備だ。俺が送り迎えを提案したのも、そう言う理由がある。彼女の優しさに、勘違いする奴が出てきそうだから。
…俺の様にな。
俺が彼女の心配をしていると、またスマホが通知を知らせる。
ジュンさんのメッセージだ。
何かと思って開いて見ると、
「ぶっ!」
〈◆〉
「ひぃ〜!ちょっとやり過ぎだったかな?」
今送った写真を見て、今更ながらあたしは顔が熱くなってきた。
胸元まで開けたパジャマからは、谷間だけじゃなくナイトブラまでガッツリ写っている。ちょっと前屈みで撮ったから、結構形が分かりやすくなっちゃってるし…。
彼氏でもない人に、これはやり過ぎ?
ううん。
「ノゾミに勝つには、これくらい必要だし」
あたしの武器を最大限使わないと、あの子には勝てない。これでも全然足りないくらいだ。
虎ちゃんは喜んでくれているかな?
〈◆〉
「最低だ…俺って…」
夜中。俺は1人、トイレの洗面台で項垂れていた。
…ええっと。
トイレで何を項垂れているんです?
「触れてやるな」




