かいじゅうのはなし
本作は「怪獣のバラード」という曲にインスパイアされ作り、数十年前に何人かに見せたものです。その後、二次創作サイトに掲載もしています。
どこから行っても いちばん遠い
空の向こうのまた向こう
ふかい ふかい 森のおく
かいじゅう一ぴき住んでいた
今よりむかしか 今よりさきか
それはだぁれも知らないけれど
たったひとりで暮らしてた
ひとりぼっちのかいじゅうは
生まれたときからひとりもの
それがふつうになっていて
風がつぶやくひとりごと
それを楽しく聞いていた
のんきで気のいい かいじゅうは
のんびり過ごしていたものだけど
さいきん気になることがある
風が運んできたはなし
ずうっとずうっと向こうの果てに
海というのが あるという
見わたすかぎりの水たまり
波というのが寄せては返す
魚というのが海にいて
自由気ままにすいすいと
水たまりのなか 住んでいる
お日さまそこから顔をだし
一日かけてまた帰る
ひかりかがやくそのさまは
たとえようなく うつくしく
いちどみたらば だれしもが
こころに海をもつという
いちどでいいから 海をみて
こころに海をもちかえり
遠くはなれたこの森で
海のおもいを育てれば
いつしか森は海となり
みどりは青になりかわる
じぶんのおもいで できた海
じぶんのおもいで 生まれた魚
それはすてきにちがいない
おもい立ったかいじゅうは
いそいそごそごそ旅じたく
海に向かって歩きだす
海をみつけに行くんだよ
じぶんの海をみつけにね
風をたよりに歩いていけば
どこからともなく声がした
なかみまでは分からないけど
ぼそぼそざわざわ聞こえてる
気にもしないでかいじゅうは
のっそのっそと進んでいった
旅をつづけるそのうちに
声がだんだん大きくなった
そしてなんだかしっぽのさきが
軽いようにも感じてた
ある日あるとき かいじゅうは
なんとはなしにふり向いた
びっくりぎょうてん かいじゅうの
しっぽが丸っと消えていた
そしてようやくはっきりと
聞こえはじめたささやきは
ちいさなだれかのはなし声
「かいじゅうなんてうそっぱち」
「いやしないって そんなもの」
「かいじゅうなんて いないんだ」
声ひとつごと かいじゅうの
からだがだんだん消えてゆく
あのささやきが聞こえるごとに
どんどんどんどん消えていく
「ここに いるよ! いつでもいるよ!」
かいじゅう叫んでみはしたものの
だれの答えも返ってこずに
きりきり胸をしめつける
「かいじゅうなんか いやしない」
長いながい旅をして
ようやく海に着いたころ
からだはすっかり消えていた
海のかおりもかげないし
さざめく音も聞こえない
お日さま受けてかがやく海を
みることだって できやしない
しょっぱい水を味わうことも
波を追ったり逃げたりも
なにひとつさえ 叶わない
からだをなくした かいじゅうの
ひとつ残ったこころにも
まだささやきは聞こえてる
「かいじゅうなんか いるもんか」
「ここにいるっておもってたけど
ぼくはここにはいないかも
みえもしないしさわれもしない
かいじゅうなんて いないかも
ぼくってものは ないのかも」
つかれ果てたかいじゅうは
こころも欠けてきはじめた
くり返されるささやきが
こころのはしからけずってく
ぼくはもうじき いなくなる
きれいさっぱり いなくなる
かいじゅうなんかいなかった
かいじゅうなんてうそっぱち
するとそのとき どこからか
ちがうささやき聞こえてとけた
「どこかにいるよね かいじゅうは」
「あなたのこころのなかかもね」
「ぜったいいるんだ かいじゅうは」
歌うような口ぶりで
「さがしてみせるよ、かいじゅうを」
そのささやきを聞いたとき
こころにぽっと火がともり
もうないはずのひとみから
ぽろぽろしずくが落ちてきた
ひとが涙と呼ぶ水を
そうとは知らずにながしてた
はらり はらり はらはらと
真珠のつぶに 似たしずく
しずくとしずく 集まって
そして涙でできた海
きらら きらら きらきらと
こころのひかりに照らされて
ちがうささやき聞こえるごとに
どんどんどんどん大きくなって───
ひとりじゃさみしさ分からない
ひとりじゃやさしさ 分からない
だれかを想い 想われて
はじめてひとは愛を知り
辛いからこそやさしさを
さみしいからこそ ほほえみを
ひとは知るため 旅にでる
広く果てなくかがやく海に
引き寄せられて旅をする
それはこころの旅だから
みえるものではないのだけれど
だからお願い きみがもし
どこかでいつかかいじゅうの
話をおもい出したなら
こころでそっと呼びかけて
やさしくさみしいかいじゅうに
しずかにちいさく ささやきかけて
「ほらね ここに きみがいる
ぼくがちゃんとしってるよ
ここにきみがいることを
ここにいるぼくが しってるよ」
もしかしたらば かいじゅうは
きみに似ているかもしれない
きみのこころの片すみに
大きなからだで住みついて
きみがかなしくなったとき
一緒に涙ながしては
きらきらひかるこころの海を
ふたり一緒に広げていって
きみにささやくのかもしれない
「ぼくはここに いるからね
しんぱいしなくて いいんだよ
きみは ここに いるからさ……」
─── fin───




