雨宿り、のち非日常
「傘入っていかへん?」
「けっこうです」
「なんで?雨当分やまへんよ」
「先輩と相合傘なんてしてるとこ見られたら明日から学校中の女子に無視されるようになります。机に落書きされたり、体操服なくなったり」
「なんなんそれ」
「先輩学校一モテるので」
「その学校一モテる先輩が可愛い可愛い思てたら学校中の女子に嫌われてもかまへんくない?」
「嫌です。私は目立たない安定した高校生活を望んでいるので」
「何も起きて欲しないんやね?」
「はい」
先輩は傘を閉じ私の隣に並ぶ。
この時点でもう立派な非日常。
「何してるんですか?」
「雨宿り」
「他所でしてください」
「つれないなぁ。小っちゃい頃はりっちゃんりっちゃん言うて追いかけて来てくれたのに」
「いくつの話ですか」
「強情やねぇ。まぁそういう可愛ないとこがゆのちゃんのかわいとこやもんねぇ」
「思ってもいないくせに」
「思っとるよ。可愛いなんておもてなかったら言わへんよ、俺は」
嘘ばっかり。
「嫌なら傘貸したるから一人で帰る?」
「帰らない」
雨なんか一生やまなくていい。
むしろ永遠にやむな。
だって今この人のこと独り占めしてるから。
世界に二人きりで雨宿りしてるから。
「全然やまんなぁ」
「そうですね」
大きな雨粒が私達を覆い誰からも見えなくなったらいいのに。
「たまにはええなぁ。こういうのも」
「そうですか」
「だって今ゆのちゃん独り占めやもん」
なんてこと言うの、この男。
顔見るの怖いよ。
だってもう見たらきっと私泣いちゃうんじゃないかな。
世界一かっこいい人にそんなこと言われたら。
この人全部わかってて言ってるんだろうな。
ああ、もう素直に傘に入れば良かった。
このままじゃ言わないでおいたこと簡単に言っちゃいそう。
もうやんでよ雨。
日常早く戻ってこい。
「ゆのちゃん好きやで」
言いおった。
いとも簡単に、この男はいつもこう。
私は隣の彼を見る。
彼も私を見ていた。
世界が彼の願い事を叶えたがっている気がした。
もちろんその世界の中に私も含まれている。
よし、雨と共に日常を捨てるか。
「私も好き。ずっと好き。りっちゃん」




