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#匿名SF短編企画  作者: 八雲 辰毘古
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02:いつかどこかの君と僕

※この作品にはあらすじはありません

 朝礼前の学校は騒がしい。人の流れに乗って教室へたどり着いたシュンは、鼻まで覆い隠していたマフラーを外して扉をくぐった。

「おはよーっす」

「おは……シュン、おま! 顔面サイボーグ化してんじゃん!」

 入口そばにいたセイヤが目を見開き驚きの声をあげる。その言葉通り、シュンの額から顎にかけてが、つるりとした黒い液晶画面へと変わっていた。

 液晶画面にはシュンの感情を反映して表情が表示されている。音声は口のあたりに設置されたスピーカーからこぼれていた。

「わはは、わかるぅ? 勤労感謝だっけ? ちょうど三連休だったからさあ、思い切ってやっちゃった」

「まーじかあ。でもその手術、お高いんでしょう?」

「それがね、奥さん。今ならサイボーグ化手術の補助金があるんですのよ。液晶も俺のは目元だけだから、お求めやすいお値段ですしい。それにほら、政府が推奨してんじゃん。うちの親、公務員だからさあ」

「ああね、そういやお前、心臓とか脚とかもとっかえてんだっけ。大変だねえ、オシゴトの関係とはいえ」

「そうそ。まあ、嫌いじゃないから良いんだよ」

 セイヤとは三歳から、かれこれ十五年の付き合い。だからもろもろの説明が楽でいい。

 教室の前、立ったまま大声で話していたことでクラス中に聞こえただろう。おかげで説明の手間が省けてありがたかった。いちいち騒がれるのも面倒なので。

 気候変動により生物が暮らしにくくなった現代。地下で暮らすことを選択した国もあれば、居住区を冷暖房完備のドームで覆った国もある。そのなかで我が国、日本は医療技術と工業技術を組み合わせて生存戦略に挑んだのだ。

 つまりは人類のサイボーグ化である。

 人間の臓器でとくに熱に弱いのは脳、それから心臓だ。

 特に脳がゆだってしまうのを防ぐための頸部冷却装置は、首の後部に小型の機器を埋め込むだけと処置が簡単。画期的な発明だった。今では乳児の首が座りしだい施される義務であり、日本では全国民に、世界を見てもほとんどすべての者の体に装備されている。

 この装置の実装により、熱中症による死者数は激減したという。しかし、ゼロにはならない。そこで開発されたのが火照った血液の集まる心臓の機械化、そして頸部のみならず頭部の前面をまるごと冷却装置に変える、いわゆる顔面サイボーグ化だ。眼球、鼻腔、口腔にあたる箇所に冷却装置が組み込まれるため、頸部よりも大型で性能の良いものを設置できる。そのうえ、網膜カメラは視力の低下がなく、鼻と口という外気との接触部位がなくなるため感染症対策としても有効とされている。

 便利なサイボーグ化だが現状、義務付けられているのは頸部冷却装置のみ。生まれ持った肉体で生きられるならそれに越したことはない、というのが大衆の意見だという

 しかし政府としては医療費削減の目的もあり、さらなるサイボーグ化を推進したいらしい。手始めとばかりに公務員とその家族にはたびたびサイボーグ化のお誘いがくるのだ。

 そんなわけで、中学生のころに済ませた胸部と、足腰の老化に備える脚部の機械化手術に加えて、このたびシュンの顔もサイボーグと化したのだった。視力の低下も見られたので、ちょうどいいとばかりに。

 クラス中の視線がよこされているの感じながら、シュンは最後尾にある自分の席へと腰を下ろした。つるりとした頬の慣れない感触を指先で撫でていると、となりの机にカバンが下ろされた。

「ねえねえ、シュンくんだよね?」

 遠慮がちに、けれどどこか期待するような声で聞いてきたのは、隣の席の辻原ハルラだ。ジャージ姿の彼女は、髪をまとめていたゴムを抜き取って席につく。上は長袖だけれど、下は冬にもかかわらず短パンだ。もちろん建物内は温度管理が働いているため常に適温であるから、問題ないのだけれど。

 程よく筋肉のついた太ももがまぶしい点が、シュンにとっては問題しかなかった。

「ん、そう。ああ、顔変わったからわかんなかった?」

 ちら、と視線を向けたつもりのシュンは辻原を視界の端に捉えたつもりだったが、カメラの視認範囲はおよそ二百度。高性能な網膜カメラは真横にいるハルラの顔を真正面から捉えて、鮮明に脳裏に投影してくれた。

 ――いやいやいや、ちょっとこのカメラ盛りすぎじゃない? っていうか、高性能すぎじゃない? 辻原さんのさらさらヘアどころか、頬っぺたの産毛まで見えるんですけどお?

 画質の良さもさることながら、輝くようなエフェクトまでかかって見える。そんな機能をつけた覚えはないのだけれど。

 ――まあ、赤面する危険性は消えたわけだし。

 それだけでも顔面サイボーグ化の意義はあった。あくまで主目的は冷却装置の強化と視力の回復だと、シュンは強調するのだが。

「変わったっていうか、顔なくなっちゃってる。でも声と輪郭? 全体の形はシュンくんだよね」

 わかっちゃったよ、と歯を見せて笑う辻原の顔をまっすぐ見られなくて、シュンは机に肘をついた。まっすぐ見ていなくても、脳裏には笑顔が映っているのがうれしいやらどぎまぎするやら。

「そういう辻原さんはほとんど生身のまんまだよな」

「うん、そうなの」

 うなずきついでに、辻原が細い指で自身の髪をかきあげた。横を向いた彼女のうなじがさらされる。

「見える? 首の冷却装置も一番シンプルなやつ」

「あ、ああ! 型番まではっきり」

 ──見えている。しっかり見えているから、その細い首をしまってくれ!

 赤面はしないけれど、液晶画面はシュンの心情を表しているだろう。そこに映っているものがどうか『焦り』の表情であってくれと願いながら顔をそらす。

 胸部では人工心臓が騒いでいる。異常を示すアラートが鳴らないから、命に関わる異変ではないとわかっている。

 ──わかってはいた。顔のサイボーグ化ついでに点検してもらったから、胸部パーツに異常はないって、わかってはいたけど。

「別に生身至上主義ってわけでもない、つもりなんだけどね」

 シュンの心情など知らない辻原は、つややかな唇を尖らせる。平静に、平静にと念じながらシュンはうなずいてみせた。

「ああ、あれだろ。辻原さんはノーマルオリンピックの選手候補だから、下手にいじれないんだろ」

 環境適応や老化に対応するためのサイボーグ化とはいえ、機械の体は簡単に強化できる。それゆえもめたのが、スポーツ界隈だ。

 各国が話し合いに話し合いを重ねたという。シュンが生まれるより前の話であるから、詳細は知らない。けれど歴史で習ったことによると、身体能力に影響を与えるサイボーグ化を行った選手と行っていない選手とが同じ舞台で戦うのはフェアではない、ということになったらしい。

 そこで公平性を保つために生まれたのが、ノーマルオリンピックだ。辻原ハルラは、そのノーマルオリンピックの短距離走選手候補に選ばれているのだった。

 幼少期の検査で適性があると診断された子どもは、最低限のサイボーグ化しか受けない。その代わりに公共交通機関の無料パスがもらえたり、公費で家の空調設備が整えられたりすると聞く。

 ――俺はサイボーグ化好きだし、うらやましいとは思わないけど。

「選考会だっけ、週末あるんだよな?」

「知ってたんだ」

「だってそれでこのところ毎日、朝練してんだろ。少なくともクラスの奴らはみんな知ってるだろ」

「そっか。じゃあ、選考会の場所も知ってる?」

 ──もちろん、って答えていいとこか? でも聞いてくるってことは、来てほしいって思ってくれてるんじゃね?

 悩んだのは一瞬。

「もちろん。応援行くし」

 答えれば、辻原の顔がぱあっと明るくなった。元々輝いていた顔がますますライトアップされたようで、シュンは視野の光度計が故障したのか? なんて疑ってしまう。

 ひとまず、キラッキラの笑顔を浮かべる辻原は網膜カメラで保存した。




 週末を終えて、月曜日。

 シュンの隣の席は空いていた。朝から、終礼が終わった今までずっと空席のまま。

「やっぱ、昨日の今日じゃなかなか顔出せないよねえ」

 すこし離れた席の女子たちが話す声が聞こえた。

「そりゃ、あれだけ授業免除とかしてもらって練習しといて、最下位じゃねえ」

「あたしだったらもう学校来れないわ~」

 隣の席にちらちらと向けられる視線が神経を逆なでる。無責任に笑う声を聞いていられなくて、シュンは勢いよく立ち上がった。

 その拍子に倒れた椅子が大きな音を立てたせいで、女子たちの会話が止まる。それどころかクラス中の注目を集めていた。

「……わりぃ、倒れた」

「あ、うん」

 抑えた声で心にもない謝罪を告げたシュンは、女子の誰かが返事をするのも聞かないまま教室を出る。

「シュン!」

 後を追ってきたのはセイヤだ。

「俺の彼女、陸上部で短距離してんじゃん」

「あー」

 ――何を言い出したんだ、こいつ。

 明らかに不機嫌なシュンが生返事をして速足で歩いても、セイヤは気にした風もなく続ける。

「んで短距離の練習のあと、タイム悪い時に辻原がよく行く場所があるらしいんだわ」

「は」

 驚いて足を止めたシュンに、セイヤが笑う。

「場所、お前の携帯に送っといたから」

 行って来いよ、と背中を押されてシュンはたたらを踏んだ。その勢いのまま一歩、二歩と踏み出して、ついには駆け出した。

 放課後の廊下にひしめく人々をすりぬけながら、背中でセイヤの声を聞く。

「お礼に飯おごってくれよなあ」

「彼女のぶんもまとめておごる! デザートもつけてやる!」

 叫び返したシュンは振り返らず廊下を走り抜けた。

 

 風が冷たかった。

 春から秋にかけては生身で生き抜くのが厳しいほど熱いくせに、冬になると途端に極寒が訪れるのはなぜなのだろう。

 冷え切った風が顔をうつ。生身であったなら皮膚が切れているんじゃないだろうか、そんなことを思いながらも、マフラーを巻く時間も惜しいとシュンは駆ける。

 校舎を出て裏門を抜ける。屋根付きの通路に並ぶのは、最新型の長屋だ。

 辻原のような生まれつき身体能力が優れた人のために用意される、寒暖対策が完備された住宅群。

 辻原の家もこのなかのどこかにあるんだろう。

 けれど今は視線も向けず、走り過ぎる。

 屋根が途切れ、路地を駆けていくと見えてきたのは、丘に散らばる太陽光吸収パネル。ではなくて、太陽光吸収パネルを後付けされた古い家々。

 目的地はその頂上にある、古い神社だ。ひび割れた舗装路を踏みしめて進む。

 ──息切れしないの、ありがたいな。

 人工心肺のおかげで速度を緩めることなく、一気に坂道を駆けのぼることができる。それでも、足りないと思った。

 今この瞬間にも辻原がひとりで泣いているのかと思ったら、いっそジェット噴射でもつけておくんだったと後悔しきり。

 ――もっと速く、急いで。もっと、もっと、もっと!

 飛ぶように景色が過ぎていき、間も無くたどりついた色褪せた神社の前。鳥居に背を向けて座る人がいる。長い髪を下ろしたその後ろ姿は、辻原に違いなかった。

「っ辻原! 泣くなっ」

 その背が見えた瞬間、叫んでいた。

 ──もっとちゃんと、気の利いたこと言うつもりだったのに。泣くなじゃなくて、ひとりで泣くなって言おうと思ったのに。

 過った後悔は、振り向いた辻原の顔に粉砕された。

「超笑顔じゃん……」

 辻原の目には涙が浮かんでいない。むしろ満面の笑み。それも、にまにまだとかぐふぐふという擬音がつきそうなやつ。

「あ、シュンくん」

 辻原の声に引き寄せられるようにふらふらと近づく。すぐそばでまじまじと見てみても、やっぱり辻原の頬は濡れていないし、目もうるんでいない。

 あんまりじっと見つめすぎたらしく、辻原は手のひらで頬を挟んで恥じらう。

 ──かわいいが過ぎるんだが。

「やだ、もうバレちゃった」

「バレたって……辻原、選考会落ちて、泣いてたんじゃないのか……?」

 そんなわけはないと辻原の顔が語っているのがわかっていたけれど、聞かずにはいられなかった。

「ううん、違うの。うれしくって」

「うれしい……?」

「うん、だって全力で走ったってあの程度なんだってみんなに知ってもらえたから。……私ね」

 そっと伸ばされた辻原の両手が俺の頬を挟むように包み込む。

「ほんとは、サイボーグにすっごい憧れてるの」

「は……」

 ──あったかい。やわらかい。

 サイボーグ化した顔に触れる熱のやわらかさがたまらなくて、シュンは言葉が出てこない。停止した脳の波形を測りかねて、顔の液晶パネルも何も映さない。

 もしも生身であったなら、唇が震えていただろう。現に、体の横でシュンの指先は震えている。顔面だって言い訳のしようもないほど、真っ赤に染まっていた自信がシュンにはあった。

 けれど実際に表に見えるのは、つるりと黒い液晶画面。

 そのせいだろう。辻原はシュンの頬を手のひらで包み込んだまま、必然的に近づいた距離をそのままに顔を寄せる。

「ほんとに、かっこいい。なだらかな輪郭、メタリックな輝き。目を凝らすと透明な強化ガラスの向こう側で細かな四角に区切られた黒いパーツが見えてるなんて、もうえっちでしょ。心臓も、熱でも寒さでも気にしなくて良いなんて最高じゃ無い。それに、この音!」

 言うなり、辻原がシュンノ胸に耳を押し当てた。

「お、おい!?」

「……はあぁぁ、この音、鼓膜をくすぐるかすかなモーター音! シュンくんて心臓だけじゃなくて胸部まるごと交換してるんだよね?」

「え、ああ、そうだけど」

 胸に頬を寄せたままの上目遣いに、シュンはモーターが止まった気がした。辻原の顔を見るに、そんなことはないのだろうけれど。

「うん、聞こえる……モーター音の合間に、胸部パーツのクッション部がちいさく鳴ってる。シュンくんが身動ぐたびに、じぃ、じぃって……」

 うっとりと、それはもう愛おしげにささやく声に、シュンの心が限界を迎えた。

 わけもわからず沸騰しそうな感情のまま、寄り添う辻原を抱き上げてシュンは叫ぶ。

「サイボーグ化した脚の速さ、体感させてやるよ!」

「えっ」

 驚く辻原の声を置き去りにして、全力で踏み出す。

 神社の正面に長く伸びた石段を五段飛ばし、十段飛ばしと加速していく。膝のクッションパーツが着地の衝撃をやわらげつつ、ふくらはぎ部分に仕込んだバネが加速を可能にする。

「うわ、わぁ! わあぁぁ!」

 唸る風の音を押し除けて、耳元であがった感嘆の声。

 あっという間に車並みの速度に到達するなか、風に長い髪を踊らせる辻原の目が、進む先を見つめてキラキラ輝いている。走る辻原はいつもそんな目をしてゴールを見つめていたから、てっきり生身で走ることが好きなのだと思っていたけれど。

「辻原ってもしかして、スピード狂?」

「えっ、なにそれ!」

 びっくりした顔を向けられてシュンは足を止める。冷たく湿った風に草。長く伸びた草原がざわめいている。気候の変動により自生できる野生植物は貴重だからと、刈られずにあるのだろう。

 神社から町中を駆け抜けて、ふたりは河原にたどり着いついていた。

 冬の川べりはひどく寒い。寒いはずなのに、シュンはそんなことも気にならないまま、そっと降ろした辻原と向き合った。

「俺、ずっと辻原は生身で走るのが好きなんだと思ってた。いつも走るとき、すごく楽しそうだったから」

「あは、バレてた? そう。走るのは好き。だって気持ちいいでしょ、風が頬をうって耳元でビュンビュン鳴るの」

 懐かしむように目を細めて辻原は続ける。

「子どもの頃はうれしかった。生まれつき走るのが速いんだ、って言われて。走る力を伸ばすために専門のコーチについて練習して、どんどん速くなっていって。お父さんもお母さんも褒めてくれて。すごいすごいって、みんなに言われて」

 「でも」と辻原の顔が歪む。

「でも、どんなに速く走っても生身じゃ限界があった。私はもっと速くなりたかったから、脚のサイボーグ化をしたかったのに、みんなして反対するの。「せっかく生身で速いのに」「生まれ持った能力を捨てるのか」なんて。私の身体なのにね」

 体の一部を機械と入れ替えるサイボーグ化は、今や一般的な医療行為だ。

 けれどいくら一般化しても、生身こそ至上であるとする人々はいつの時代も一定数いた。できれば生まれ持った体で生きていきたいと漠然と考える人たちもまた一定数いる。

 それぞれの考えを持つこと自体は問題ない。けれどその考えを広めたがる一部の人々が問題だった。

「あ……もしかして、辻原の親がサイボーグ化反対派だったりする?」

 反対派を納得させることは難しい。これはもうサイボーグ化に関わらず、古来からわかりきっていることだ。

 そのため政府は逃げ道として、未成年者の手術には親の同意が必要だとすることで声の大きい生身至上主義者との軋轢を避けているのだった。

 むくれ顔でうなずく辻原は、そんな大人たちの都合で被害を被っているひとり。

「シュンくんは馬鹿らしいと思うでしょ? 生身至上主義。だってサイボーグ化の良いとこいっぱい知ってるもんね」

 期待した目で見られて、シュンはうっかり全力で賛同したくなるけれど。

 ──たぶんそれは違う、よな。

 気持ちにストップをかけて、考え考え言葉をつむぐ。

「……正直なとこ、俺は生身が一番良いとかそういうの、よくわかんないんだ。俺のこの体だって、生物として生き残ってくための選択のひとつだと思えば、進化のひとつなんじゃねえのって思うし」

「……うん」

 辻原は頷いてくれた。頷いてはくれたが、納得のいってなさそうな様子にシュンは慌てて続ける。

「でも! でもさ。なんかなあ。生身とかあれこれ考えなくても、走ってる辻原さんの姿はきれいだなあって。思ったりした、わけですよ……」

「んふっ、なんで急に敬語?」

「いや、それはなんというか、話の流れっていうか勢いっていうか……。あ! 俺で良ければいつでも辻原さん抱えて走るから! 脚の稼働限界までなら、どこまででも連れてくし!」

 恥ずかしいことを口にしている自覚はあった。顔面の液晶に照れを示す斜めの線が浮かぶのを止められない。

 けれど言ってよかったとも思っていた。

 なぜって、辻原が屈託なく笑ってくれたから。

 ──この顔が見られただけで良いや。

 シュンがほっとして気を抜いた瞬間、顔の中央部にこつんと何かがぶつかった。

「へ」

 網膜カメラに大写しになった辻原の顔。そして口のあたりに感じる、柔らかいもの。

 ──いや、いやいやいやいや! これ当たってるだろ! 辻原の唇と、俺の、俺の口が……!

「ありがと」

 辻原はきれいに笑ってすぐに離れていった。身動きを止めたシュンを置いて辻原は機嫌良く河原の土手を上がりだす。

 固まったシュンをよそに、華奢な背中はゆるゆると遠ざかっていく。

 ──いや、あの、サイボーグ化してても、感覚神経は通ってるんですけど……。

 シュンが顔面パーツの性能について言い出せずにいるなて知りもせずに、辻原はくるりと振り向きにこにこ笑う。

「ねえシュンくん! 次、いつ一緒に出かけられるー? どこ行くか、今から予定立てちゃわない?」

 軽やかな呼び声にシュンは「ああ」と答えながら、どうにか足を動かしはじめた。

 ふたりで出かける、いやその前にふたりで予定を立てるという甘美なお誘いに引き寄せられるままに。

 ──感覚神経のことは、まだ言わなくて良いか。

 シュンはこっそりと結論づけると辻原に駆け寄り、歩幅を揃えて歩き出した。

Q.あなたにとって〝SFらしさ〟とはなんですか?

A.現代から地続きの未来にあるだろう世界で生きる人たちの姿を想像させるもの

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