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#匿名SF短編企画  作者: 八雲 辰毘古
▼参加作品
4/33

01:想像の先にあるものは

▼あらすじ

物書きは経験してないことも想像で書けるって言うけど……それって本当に想像?

「説明は以上。この状況、証言、証拠の全てがあなたを犯人だと指し示しているのです!」


 スリーピースのピンストライプ柄のスーツを着こなした男性が指し示したのは、一人の中年男性だった。

 暖房が効いた室内とはいえ、冬のこの時期だというのに額にびっしりと汗をかいている。

 たぶんあれが脂汗と言われているものだろう。

 たるんだ顎肉をプルプルと揺らしながら、スーツの男を睨みつけている。


「……面白いことを言うもんだね。探偵さん。そんな想像力があるなら、あなたは小説家にでもなった方がいい」


 あ……っとオレが思った時には遅かった。

 中年の台詞に、さっきまで真面目な顔で持論を展開していたスーツの男の表情(かお)が一変した。


「おぉ! 僕が趣味で小説を書いていることをご存じとは! なかなかお目が高い! そうなんですよそうなんですよ。趣味の人間観察や探偵稼業を活かして小説を書いて投稿サイトにあげたところ、なかなか好評でしてね! 自分の才能が怖いっ!

 あ、もしかして読者の方ですか? 僕、男性向けR18専用サイトをメインに活動していて『荒縄(あらなわ)(ばく)』というペンネームなんですが……ご存じですか? 最新作は父親の後妻と主人公がピーでギャンしてドギャンピーが……っ!」


 スーツの男の怒涛の勢いに、中年男性が明らかに引いている。

 なんなら周囲でこの状況を見ていた人たちも一歩引いている。

 ……どうすんだよこれ。

 ……仕方ねぇなぁ。


揺人(ゆうと)さん? 結局犯人はこの人なんですか? 被害者以外立ち入ることの出来なかった密室で、被害者を殺害したのはこの人なんですよね?」


 スマホの画面を中年男性に押し付けるようにして何事かを説明していた揺人さんに声をかけると、小さな舌打ちが聞こえてきた。

 舌打ちしたのは……揺人さん、アンタかよっ! そっちの犯人だと言われたおっさんじゃないんかよっ!


「そそそそそうだ! どうして俺が犯人だと……っ!」


「ソラくん。キミ理解(わか)ってないねぇ。投稿サイトに投稿している物書きがリアルで読者に会えるなんて天文学的数字なんだよ? この機会、大事にしなくていつするんだっ!」


「いや、人間一人死んでる方が大事だろうがっ!!」


 ソラと呼ばれたオレは問答無用でツッコミを入れる。まったくこの人間はもうっ!

 拾ってもらった恩はあるが、もうそろそろ返し切った……どころか、そろそろオレがこの人間を面倒見てるほうが多くなってないか?


「まぁ、確かに犯人を逃がしては殺された被害者も浮かばれないだろうし。仕方ない。とりあえず握手してから犯人と探偵というあるべき立場(すがた)に戻りましょうか」


「だから俺はっ! 犯人じゃ! ないっ!」


 中年男が揺人さんから逃げようとするも、妙に素早い身のこなしで揺人さんが男の手をつか……いや握手だなアレ。


「ふむふむ。……あぁ、なるほど? あなた殺された男の隠し子なんですね? この家で家政婦をしていたお母様が乱暴されて……その後、男の妻に着の身着のまま追い出されたと……。あぁ、確かにそれは……」


「ひっ!? ……な、何を……っ!?」


 男が揺人さんの手を振り払う。

 それを気にした様子もなく、誰に聞かせる訳でもない言葉を紡ぎ続ける揺人さん。

 その姿は傍から見れば少しだけ異様だった。

 

「いちおう探偵を本業にしているのでね。恨みがあったとしても人を殺すのはよくない……というべきなのでしょうが……。恐らく僕の推測が正しいなら、殺された男も碌な人生を歩んでいなさそうですし……。まぁでも……罪を裁くのは僕じゃないんで。大人しく捕まってくださいね?」


「だから! 俺は! 犯人じゃ……っ!」


 中年男が反論しようとした瞬間、玄関が大きな音を立てて開き、警察官の制服を着た人間とスーツを着た人間がなだれ込んできた。

 それを見て窓から逃げようとした中年男を素早く拘束して、外のパトカーへと連れて行く。

 あっという間の出来事に、オレや周囲で見ていた人間は呆気にとられることしかできなかった。

 ただ一人揺人さんだけは、読者を失ったことを嘆いているようだが……。いや、訳わかんねぇな。


「さて、ソラくん。玄関も開いた事ですし、そろそろ帰りましょうか。次の投稿の準備をしなくては……」


「いや、アンタ探偵が本業だろうがっ! ちゃんと警察の取り調べに協力していけっ!」


 えぇ~と不満げな男の背中を押して、顔見知りの刑事さんに声をかける。

 ……刑事さん、若干嫌そうな顔をするのは止めてくれ。正直なのは善良だとは思うが……。

 確かに、揺人さんが関わると微妙な決着になることも多いんだけどさ。いちおう犯人は間違ってないし……うん。


 スマホで文字を打ち始めた揺人さんを後目に何故かオレが状況を説明する。


「ねぇ、ソラくん。やっぱり男性向けでハート喘ぎは不人気かなぁ?」


「知らねぇよっ!! それよか犯人の動機にどこで気づいたのか説明してくれよっ!」


「えぇ~。簡単なことだよソラくん。犯人を小説の登場人物の一人と見做して、その行動をとった時その人はどんな心理状態なのかを想像するんだ」


 簡単だろう? と首を傾げるこの人は、それが本当に簡単な、誰でもできることだと信じているんだろう。

 オレは少しだけ呆れのこもったため息を吐いて……揺人さんに背を向けた。


 こうして、嵐の山荘密室殺人事件は解決したのだった。


◇ ◇ ◇


「揺人さん? 今日この後依頼人が来ますからね? シャキッとしてくださいよ?」


 『You探偵事務所』と書かれたドアにかけてある札を『OPEN』に切り替えればオレの準備は完了だ。

 揺人さんと依頼人に出す用のコーヒーもコーヒーメーカーの中で保温されている。

 くるりと事務所の中を見渡せば、オレが初めて足を踏み入れた時の乱雑さはなりを潜め、信頼できそうな探偵事務所の雰囲気を醸し出していた。

 ……信頼できる探偵事務所の基準がよくわからないが。まだまだ知らない、わからないことの方が多い。


「どうしたんだい? ため息なんかついて。何か悩み事があるなら名探偵の僕が解決してあげるよ? キミの為ならタダ働きも辞さないよ?」


 ネクタイを結び直していた揺人さんが、オレの方を見もせずに気軽な口調でそう言った。


「……いえ、オレずいぶん掃除頑張ったよなぁって思ってただけです」


 オレの言葉に、揺人さんが快活に笑った。いや笑い事じゃなかったんだが? マジで。


「あは~。確かにキミを拾った頃に比べてずいぶんきれいになったよねぇ。まさかずぶ濡れのままで掃除を始めるとは思わなかったよ~」


「そんだけ汚かったんだよっ!」


 もうキミがいないと生きていけない~なんて呑気にほざく揺人さんに思わず噛みついてしまう。

 だって本当に酷かったんだ。あの日のこの事務所は。


 ある大雨の日。オレはこの人に拾われた。


 行くあてもなく途方に暮れて雨に打たれていたオレに傘をさしかけたのが揺人さんだった。

 こんな得体の知れないオレに手を伸べて、揺人さんは自分の事務所に連れ帰ってくれたのだ。

 ……まぁ、その事務所が足の踏み場もないほど汚かったわけだが。


 事務所といっても自宅を兼ねている為、半分は居住スペースとして設えてある。

 そちらもだいぶ酷かった。いや事務所の方が来客を迎える分いくらかマシだったんだから、だいぶどころじゃないな。

 人間の住処じゃなかった。本当に酷かった。本当に……。

 それをへらへら笑いながら見る揺人さんと、悲鳴を上げながら片付けるオレ。()()に来たての初心者には全くもって優しくない展開だった。

 

 そんなことを徒然と思い出していると、ピィンポーンと若干間の抜けたインターフォンの音が響く。

 ちらりと時計を見れば、依頼人との約束の時間だった。

 揺人さんを見れば、勝手知ったるとばかりに自分のマグカップにコーヒーを注いで飲んでいる。

 足音を立てず近づいて、揺人さんの首にそっと指を伸ばす。

 揺人さんは……オレに向かって差し出すように首を傾げた。……とても無防備に。


「……ネクタイ、曲がってますよ」


 くぃとノットの部分を直して、オレは揺人さんに背を向ける。……依頼人を迎え入れるために。


「……なるほど……? ストーカーに狙われている気がする……ということで、ストーカーの正体を暴いてほしいということですね」


 依頼人用に設えてある応接セットで、依頼人と揺人さんが向かい合っている。

 揺人さんの手にはあらかじめ依頼人にサイトからダウンロードして記入をお願いしている依頼書がある。

 それを見ながらふんふんと頷くスーツの男性は、見てる分には仕事ができそうで信頼もできそうだった。

 ……傍から見る分には。

 掃除が嫌いでだらしなくて男性向けエロ小説を書いてるとはとても思えまい。それにちょっと変な特技があることも……。


 一つ(かぶり)を振って、依頼人の前にコーヒーを差し出す。

 大人しそうな見た目の女性は、恐縮したように会釈してくれた。

 そのおどおどした様子に、探偵事務所に来るまでに物凄い葛藤や勇気が必要だったことが伺える。

 揺人さんに促されるままに、揺人さんの隣に腰を下ろす。

 揺人さんが一通り見終わったらしい依頼書を受け取って目を通せば、案の定ストーカーに狙われていると思われる不審な出来事が彼女の周りで起きていた。


「ちなみに……ストーカーか置いていったメモなどは今日お持ちですか?」


 少しだけ前のめりになった揺人さんが依頼人に訊ねると、依頼人の女性は大きめのバックからいくつかの紙片を取り出した。


「これは……玄関の郵便受けに直接入れられていた物です……」


 紙片を受け取った揺人さんが深い思考に沈むように僅かに目を伏せた。

 すっとオレの方に伸ばされた手に、依頼書を返す。

 ペラペラと紙をめくる音だけが、事務所の中に響いた。


「えっと……。この方と……この方。ご友人と書かれてますが、本当はどういったご関係ですか?」


 揺人さんが指し示したのは二人分の名前。漢字のイメージからしてどちらも男性だろう。

 その名前を見た依頼人の顔が僅かに歪んだ。


「えっと……しばらく前に付き合っていた男性と……その元恋人です」


「……なるほど? このご依頼、引き受けましょう。

 もちろん正式にはこれから調査いたしますが、念のためこのお二人との接触には細心の注意を払ってください。……けっして二人きりにはならないように」


 きっぱりと言い切った揺人さんは、いったいどんな推理を以てその答えに行き着いたのか。

 気にはなるが、依頼人の前で言うつもりはないらしい揺人さんの考えを汲んで、ここは押し黙る。


 何か心当たりでもあるのかしばらく沈黙を続けていた依頼人は、きゅっと口元を引き結んで頭を下げた。


「……どうぞよろしくお願いいたします」


 何度も頭を下げながら帰っていく依頼人を見送って、オレはふっとため息を吐いた。

 チラリと視線を投げた先には窓から外を臨む揺人さんの姿があった。


「揺人さん? さっき示した二人って……」


「ん? あぁ、僕の小説にもよく出すタイプだよ。あぁいう依頼人みたいな大人しいタイプを狙って……ね。まったく、悪いことを考える連中っていうのは……」


 やれやれといった様子で揺人さんがテーブルに手を伸ばす。

 手を付いた先にあったのは依頼人が口を付けなかったコーヒーカップだった。

 揺人さんの長い指がカップに触れた瞬間。


「揺人さん?!」


 ガシャリという音と共に、真っ黒い液体がガラステーブルに広がっていく。


「火傷してないですか?!」


 自分の指先をじっと見つめている揺人さんに手を伸ばして……触れることに少しだけ躊躇する。


「っ!? まずいっ! 依頼人が危ないっ!」


 オレの躊躇などなかったかのようにオレに背を向けて事務所を飛び出していく揺人さん。


「ちょ?! まっ?!」


 スーツの背中を慌てて追いかける。

 あの根っからのインドア派は、長身な見た目と違って荒事が苦手なのだ。

 危ないとか叫んで駆けつけても、あの人だけだと二次被害が出るだけだ。


 そんな言い訳をしながら揺人さんを追いかける。

 ……オレの本来の仕事でもあるし……なんて心の中で言い訳をしながら。まったく……無意識なんて……本当に(たち)が悪い。


「きゃぁぁぁぁぁっ!」


 道の先で女性の悲鳴が響いた。

 恐らくさっきの依頼人のものだろう。

 オレはさらにスピードを上げて、追いついた揺人さんの背を掴んで後ろに放り投げた。

 体勢を崩して目を丸くした揺人さんの顔が一瞬オレを見るも、それを無視して依頼人の元へと向かう。


 道を曲がった先にいたのは……路地に追い詰められる依頼人と、依頼人の前に立ちふさがって逃げ道を塞いでいる二人の男の姿だった。


「何してんだっ!」


 大声を出せば、依頼人の女性を追い詰めていた男の一人がこちらを向いた。

 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて嘯く。


「ちょっとした痴話げんかですよ。なぁに何の心配もいりません。ちょっと彼女が誤解してんでその誤解を解きに来ただけですから……部外者は引っ込んでな」


 低く落とされた語尾は明らかに脅しを含んでいた。

 ちらりと依頼人に視線を向ければ、必死に首を振っている。

 このまま見捨てては寝覚めも悪いし……依頼料が手に入らなくなりそうだ。


「……生憎、依頼を受けたからには部外者じゃないんですよねー」


 オレの返しに目の前の男たちが殺気立つ。手荒なことはしたくないなぁと思っていると、相手の男たちがオレに近づいてきた。


「なぁ、兄ちゃん。まだ若いからわかんねぇかもしんねぇが、男女のもつれってぇのはよ……」


「ソラくん気をつけて! そいつらナイフ持ってるっ!」


 やっと追いついたらしい揺人さんの大声が路地に響いた。

 ついでに息を呑む依頼人の声も。

 つか、あの人……。なんでそんなこと大声で言っちゃうかなぁ。

 ほらぁ、目の前の男たちがさらに殺気立っちゃったじゃん……。


「ちっ! なんで知ってんだあの男……。殺すしかなくなっちまったじゃねぇか」


 どっかで見たネットミームみたいなことを呟きながら、オレに近づいてくる男たち。

 その手には、揺人さんの叫んだ通り鈍く光るナイフが握られていた。


「……めんどくせぇ。あぁ、めんどくせぇ……」


 おもわず愚痴が口を吐く。

 あぁ本当に……。

 

「何ブツブツ言ってんだよっ!」


 男の一人がナイフを振りかぶる。


「ソラくんっ!」


 ついでに揺人さんの悲鳴じみた声も。


「オレ……単なる調()()()なんだけどなぁ……」


 ふわりと身体を浮かせ、男のナイフをよける。

 そのまま男の首に踵を落として意識を刈り取る。着地ついでに地面すれすれで足を回せばもう一人の男が足を引っ掛け縺れるようにして路地の壁に激突してそのまま気絶したようだ。


「……やれやれだ」


 手をついた時に付いた砂ぼこりを払いながら周囲を見渡せば、意外と勇敢だったらしい依頼人が気絶した男たちの身体を跨いで、こちら側に逃げてきていた。

 そして、どこか複雑な表情でオレを見る揺人さんの姿もあった。

 そんな彼の様子にため息を一つ。


「とりあえず警察ですね」


 揺人さんから借りているスマホを操作して、馴染みの刑事さんに電話する。

 ありがたいことに2コールで出てくれたので事情を説明すれば、速やかに動いてくれた。


 こうしてストーカー……に見せかけた人身売買未遂事件は幕を下ろしたのだった。


◇ ◇ ◇


「……揺人さんは……なんでただのストーカーじゃないとわかったんですか?」


 あと男たちがナイフを持っていた件も……。


 刑事さんからの事情聴取を終えて事務所に帰ってきてみれば、事務所の玄関は鍵がかかっていなかった。

 侵入者はいなかったようなので一安心だが、不用心なことこの上ない。


 新しく淹れ直したコーヒーを手渡しながら揺人さんにそう訊ねれば、不思議そうな顔で見返された。


「いや……なんとなく? 僕が小説に書くなら……こうするかなぁっとビビッとひらめいちゃって……? ほら、僕って名探偵だから。それにしてもキミが淹れてくれたコーヒーは美味しいねぇ。もうないと生きていけないよ」


「……そうですか」


 揺人さんが名探偵かどうかはともかく、確かに小説を書く人にとっては、登場人物になり切って思考をトレースしたり、経験していない事すら想像で補ってしまうことなど容易いのだろう。揺人さんが名探偵かどうかはともかく。

 だけど……。

 揺人さんの()()はそれだけで説明ができないということを本人は気付いているのだろうか。


 気づいていないんだろうな……。


 ふぅと吐いたため息を、揺人さんが褒めてくれたコーヒーと共に再び口内へと押し戻した。


◇ ◇ ◇


「……うぅ、さむぅ……」


 探偵事務所が入っているビルの屋上。

 チラチラと儚い星が瞬く冬空の下、オレは片耳にイヤホンを突っ込んだ状態で寒風に吹かれていた。


「さて……報告報告。……調査コードYAQMより定時報告。調査対象は『()()の力』を残しているが、無意識化で使用しており、本人に能力の使用に関する意識は存在していない。今後、『始祖の力』を継ぐものはさらに減ると考えられる。……っと、こんなもんかな。あー、そろそろここでの調査も終わりかねぇ」


 そこまで呟いた瞬間、ざわりと胸に寒風が染みた。


「……うー、くっそさみぃ。なんで他のエリアにいる奴らは建物の中からでも通信できんのに、オレだけダメなんだよぉ……」


「それはたぶん……日本の建物と海外の建物では設計に関する基準が違うからじゃないかな?」


「っ?!」


 オレの寒さに対する恨み節に、思いがけない方向から(いら)えが来た。

 振り向いた先にいたのは、屋上のドアにその長身を預け、どこか面白そうな表情でオレを見る……。


「揺人さん……」


 ドキドキとこの星の人間で言う心臓にあたる器官が跳ねる。

 そんなオレの動揺を後目に、すたすたと近づいてきた揺人さんがオレにふわりと被せたのは……大きなブランケットだった。

 冷たい風から守られ、ふわりと胸が温かくなる。


「日本の冬も意外と冷えるんだよ。キミが風邪を引くかはわからないけど、温かくしないとね……。あと日本の建物は耐震、免振に関する基準が高いから、鉄筋を多く入れる工法が取り入れられていてね。そのせいで電波が通じにくいんじゃないかな?」


 宇宙からの通信がどんな感じなのかまでは知らないけど……。


 そう告げる揺人さんの表情(かお)はどこまでも穏やかだった。


「……いつ……から……?」


 オレの疑問は、揺人さんに正確に通じたらしい。

 恐らく俺にブランケットをかけた拍子に、オレに触れたからだろう。


「うーん、最初からと言えば最初から? キミが、キミたちが『始祖の力』と言っているのは、恐らくこの星で超能力って呼ばれる(たぐい)のものだろう? その中でも僕の力はいわゆるESP系ってとこかなぁ。

 だから……物や人に触れることによって時々視えちゃうんだろうねぇ。例えば……犯人が被害者の隠し子だったり、ストーカーが人身売買のためにターゲットを狙ってるのに気づいたり、ナイフを持っていることだったり……」


「……オレがアンタの力を調査しに来た宇宙人だったり……とか?」


 カラカラに乾いた口からやっとのことで絞り出した言葉は、冬の静かな空気を通じて意外としっかり響いた。


 こくり。

 

 頷きを返す揺人さんに、オレはじりりと後ずさる。

 カシャンという音と同時に、オレの背中に落下防止用の柵が触れた。


 一歩、一歩、距離を詰めてくる揺人さん。

 頭の片隅に残ってた冷静な部分が、相手の記憶を消して、ここから立ち去ってしまえばいいと囁く。

 だけど、頭の中には揺人さんに拾われてから今日までの日々がくるくると巡り始める。

 あぁ、これが走馬灯ってやつなのかもしれない。……いやあれって死ぬときに見るんだっけ?

 

 半端な地球の知識が混乱に拍車をかける。

 カシャンともう一度音がして、オレを逃がさないとばかりに柵を掴む二本の腕が現れた。持ち主はもちろん揺人さんだ。


「ねぇ、きっとまだキミが知らない日本のことや地球のことが沢山あるよ。だからさ……まだ還らないで? キミがいなきゃ……」


 さみしいよ。


 揺人さんの渾身の本音は、寒風に攫われ消えていく……はずだった。だけどオレの耳元で落とされたソレは、しっかりとオレの中へと侵略(はい)ってきた。


 だから、オレは一つため息を吐いて、揺人さんの手を躊躇なく握りしめた。


「まだ帰還命令は出ていないんで、もうちょっといますよ。だからもう少し……教えてくださいね? 地球のこと、日本のこと、それから……」


 アンタのことを……。


 つないだ手に伸ばした思いは、どうやら無事に伝わったらしい。

 にこりと微笑む揺人さんの手にぎゅっと力が込められる。


 見上げた先には、チラチラと儚い星の光が瞬いていた。

Q.あなたにとって〝SFらしさ〟とはなんですか?

A.SFと言えば、ジュール・ヴェルヌの時代から今ある科学(現実)をベースとしてこう発展したら面白いだろうと空想する、いわゆる空想科学がメインのジャンルだと思います。

 しかしながら、昨今はずいぶんと空想科学に現実が追いついてまいりました。

 そのような中でも沢山の方が多種多様なSFを描く。それはとてもすごいことだと思います。

 翻って自作ですが、SFを空想科学ではなく『少し不思議』を題材に執筆させていただきました。

 ここをお読みの方はすでに弊作をお読みだという前提で、敢えてお訊ねしたいと思います。

 皆さまが描いたSF、実はどこかにある未来を読み取ったものではないでしょうか?

 なんて戯言を残して当方の”SF(少し不思議)らしさ”語りを終わらせていただきます。

 企画に参加させていただきありがとうございました。

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