第6話:視線の先は
週末の昼下がり。
潤に誘われて、駅前の雑貨屋へ出かけた。
店の中は賑やかで、色とりどりのアクセサリーや雑貨が所狭しと並んでいる。
「これ、朱美好きそうだな」
潤が小さなイヤリングを手に取って呟く。
その瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。
「エララは、こういうの似合わないかな」
「……わたし?」
「うん。けど、なんかエララはもっと素朴なのが似合いそうだ」
言葉は優しいけれど、彼の視線はまたイヤリングへと戻る。
そんなとき、潤のスマホが震えた。
画面を一瞬見て、潤の表情が少し変わる。
「朱美からだ、ちょっと出るな」
店の外へ出て電話をする潤。
エララは、遠くで笑い声が混じる会話をただ見つめていた。
やがて戻ってきた潤が言う。
「朱美が近くまで来てるんだ。これから会ってくる」
「……うん」
短く返すと、潤は軽く手を振って去っていった。
残されたエララの手には、何も買っていないレジ袋が一つ。
ガラス越しに、外の光が滲んで見えた。
<あとがき>
第6話では、エララが改めて「潤にとって朱美が特別な存在」であることを痛感する場面を描きました。
何気ない会話や仕草の中にも、人の心の向きは隠せない――そんな現実を、彼女は静かに受け止めています。
潤は悪気なく朱美の話をするけれど、それがエララには小さな棘のように刺さってしまう。
まだその痛みの正体は、恋なのか、憧れなのか、自分でもわからない。
次回は、エララと朱美がもう少し近い距離で関わる場面。
互いの心の奥に、まだ見えていない影が少しずつ差し込んでいきます。