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スキル、クズ。私は奴隷として生きた。  作者: 七緒 縁
最終章 ドレイ神殺し
49/55

43、シングン

 玉座の間から場所を会議室に移した。

 再会の喜びもそこそこに、差し迫った脅威に対し話し合わなくてはいけないからだ。

 

 

 重厚な作りの長机を間に置いてイシス側には、私と両サイドをカノースさんとトマスが。

 テレーズ側にはホークさん、サシャさん、ミルの順に腰かけている。

 

「女神イースルールは以前言いました。

 この私、レヴィのスキルは世界にとって邪魔であると。

 だから何が邪魔なのか考えたのです。

 あの、カノースさん、水晶を持ってきていただけますか?」

「簡易的なものしかございませんが、よろしいですか?」

「はい、それで大丈夫です」

 カノースさんは付き人を手で呼び寄せ、小声でいいつけると、付き人は早足で会議室を出て行った。

 その間もミルは、トマスを時々睨みつけている。

 

 程なく、私の前に水晶を持った付き人が戻ってきた。

 そして両手に収まる程度の簡易的な水晶を私の前に置いた。

 みんなの視線が、水晶に集まっているが、私はまず傍らの美しい司祭に視線を向ける。

「水晶を使う前にカノースさん。貴女が見たというイースルールのスキルを教えていただけませんか?」

「はい、【イースルール】【スキル創造】【混沌】【神罰】【神殺し】でした」

「ありがとうございます。

 そして先ほどホークさんから伺ったマダムの、いえ、クレア大公殿下が見たというスキルは、【イースルール】【スキル創造】【邪神】【神罰】【神殺し】でしたね」

 そう私は羽ペンを走らせて二つのスキル構成を書き出した。

 そして向かいの席から確認できるよう机の上を滑らせる。

 

 【イースルール】【スキル創造】【混沌】【神罰】【神殺し】

 【イースルール】【スキル創造】【邪神】【神罰】【神殺し】

 

「ん、【邪神】が【混沌】に変わったのかな?」

 サシャさんが言った。私は頷き文字の上に指を置く。

「はい、おそらく“これも”進化形スキルです」

「待ってくれ、進化形スキルとは? しかも、“これも”だと?」

 と、ホークさんが慌てたように腰を上げて、紙と私を交互ににらんだ。

「ホーク殿」

 とカノースさんが声を挟む。

「失礼……」

 ホークさんは席に腰を下ろした。

 

 改めて私は、席から腰を持ち上げる。

「進化形スキル。おそらく今からお見せできると思います」

 そうリンゴよりやや大きい程度の水晶に手をかざす。

 

 そして水晶にスキルが映し出された。

『【拳打レベル9】』

 

「は? レベル9ってなんだよ⁉」

 トマスがテーブルを叩くように立ち上がった。

 他のみんなも驚いている。

 

 水晶には、説明や選択内容は映らないから、私は口に出して読み上げる。

 

 カチ。

「【レベル上限にアップグレードしますか? >>>はい いいえ】

 という問いに対して、アップグレードします。

 はい、です」

 

「ん? レヴィ、今、何て言ったの?」

 ミルが問いを向けてきたけど、サシャさんがそれを制止する。

「まずは、見よう」と。

 

 カチ。

「【レベルが上限に達しました。進化しますか? >>>はい いいえ】

 という問いに対し、私は進化します。

 はいを選びます」

 

 【【拳打】は、解放スキル【神殺し】に進化しました】

 【それに伴い、リスクも変化します】

 

 そして、水晶に映し出されるスキル表示が変わった。

『【神殺し】』と。

 一瞬、部屋の空気が凍りついた。

 ミルたちですら、息を呑むのがわかった。

「か、神殺し……だと? まさか、イースルールと同じスキルを?」

 カノースさんの血相が変わるのが見えた。

 

「はい。そしてイースルールがすぐに襲ってこない理由も、ここにある気がします」

「なるほど、イースルールはスキルを恐れているのか」

 ホークさんは、天井を仰ぎ見るように腕を組んで思案しているようだ。

 

「でも、ちょっと待って、ならなぜレヴィを閉じ込めたの?」

 と、ミルが首を傾げ、トマスは頷いてから言った。

「ああ。レヴィを殺せば済む話じゃないか?」

 ミルが立ち上がり、見たことないような目力でトマスを睨みつけた。

「あ? こらクソトマス。何がレヴィを殺すだ? その前に、お前をちぎるぞ」

「はぁ⁉ クソ⁉ ちぎる⁉」

「……ちょ、ミル。うん、落ち着いてね。

 トマスもさ、ま、まあ、可能性の話だから」

 と、私は右手でミルに『どうどう』と、手を振ってなだめた。

 この二人は、本当に相性が悪い。

 

「で、私、考えたんです。

 そして可能性を二つ思いつきました。

 一つは私が死んだら、またどこかで【拳打】もしくは、【神殺し】に進化できるスキルが生まれてしまうのではないか? と」

 私は、みんなを順に見た。

 異議があればそれを聞き逃さないためだ。

 

 するとホークさんとカノースさんが同じタイミングで、

「なるほど」

 と頷いた。

 

 そしてミルが急かすように手を挙げる。

「で、レヴィ。もう一つは?」

「うん。もう一つの可能性というのは体です。

 理由はわかりませんが、私の体を使いたい理由があったのではないか。

 と考えました」

 

「ふむ。その根拠は?」

 と今度はトマスの問いかけ。

「うん、根拠は、カノースさんです。

 もし、ただ強い体が欲しいだけなら、なぜイースルールは貴女を選ばなかったのか。

 私はずっと、それが不思議でした」

「私ですか?」

 そう私が、突然名を挙げたからカノースさんが、訝しげに首を傾げた。

 

「はい。というのも、体を乗っ取った場合、イースルールの【スキル】が反映されるようですから【聖女】が使えないということになります。

 ですが、それを差し引いても身体的にはカノースさんの方が全て優れていたのに乗っ取ろうとはしなかった」

「そうか。……いやいや、レヴィ様? 申し上げにくいですが全てと仰いますが、貴女様は相当にお美しいのですよ」

 と、カノースさんが大きく首を横に振った。

 私は照れてしまった。

「あの、お世辞でも嬉しいです」

 お綺麗なカノースさんに言われるのは素直に嬉しかったのだ。

 

「レヴィは、そういうところあるから」

 ミルが言うと、サシャさんも頷いた。

「ん。天然」

 

 天井を何度か仰ぎ見た後、ホークさんが人差し指を立てる。

「その仮説が正しければ一つ疑問なのだが、テレース大公領、つまりクレアの所に攻め込まない理由は?」

 

「はい。これも仮説の域を出ませんが、【勇者】の存在ではないかと」

 当然、みんなの視線がミルに向かい、ミルは素知らぬ様子で視線を窓の外へと。

「なくはない話だ」

 と、ホークさんは顎に手を当てると再び思案を始めた様子だった。

 

 そこへ、突然だ。

「カノース様、取り急ぎと、使いが来ております!」

 扉を開け放ち、イシスの騎士が頭を下げた。

 

 

「どこの使いですか?」

 と カノースさんが問いかけた瞬間だった。

「実は、ぶふぁぁ」

「どいてどいて! 騎士さんごめん‼」

 騎士を踏み台にして、なんとコハクが飛び込んで来たのだ。

 息一つ乱していない。

 まるで隣の部屋から散歩に来たかのように、彼女はそこに立っていた。

 

「えっ、コハク⁉」

 今日一番の驚きで私の声がひっくり返った。

「ねぇちゃん久しぶり! って、そうじゃなくて! 

 二日前、イースルール軍がテレース領に向かって進軍を始めたよ! 

 たぶん、あと三日の内にはぶつかるよ!」

 

 えっと、つまり船で数日かかる距離をコハクはここまでたったの二日でたどりついたということだろうか。

 しかも騎士をかいくぐって部屋まで来たのだ。

 そんなの驚かないわけがない。

 

「まずいな、レヴィの予想が正しければ、勇者不在を狙われたということになる」

 思案を止めホークさんが立ちあがった。

 話している暇はないみたいだ。

 以前カノースさんに言われたように決断は早い方がいい。

 私も立ち上がる。

「カノースさん、イシスの軍船を全部出してください。

 トマスは指揮を。

 そして私は旗艦でホークさん達を乗せて先行します。

 それなら三日以内でたどりつくのも可能なはずです」

 イシスの造船技術は他に類を見ない。

 旗艦は独自の技術である魔道推進の粋を集めた代物だ。

「処女航海の準備を、ただちに行います」

 そうカノースさんが自慢げな表情で頭を下げる。

 トマスは、

「了解」

 と頷き、その場から足早に出て行く。

 

「レヴィ、いいの? 貴女の嫌いな戦闘になるんだよ?」

 ミルが私に歩み寄り、表情を曇らせた。

 彼女はいつだって私の気持ちを汲んでくれる。

 だからこそ、逃げちゃいけないのだ。

「嫌いだけど動かないともっと悲しいことになるから。

 そうはさせない方法も考えるよ」

 するとサシャさんも歩み寄ってきて、昔と変わらず私の頭に手を乗せた。

「泣きそうな顔。変わらないね。優しい子」

 知らない間に、そんな顔をしてしまっていたのか。

 それはきっと言われて気づくような、そんな私の癖なのだ。

「もう、そういうことすると本当に泣きますよ?」

「ふふ、いいよ。そしたら撫でてあげるから」

 サシャさんは微笑んでいて、なんだか昔よりも柔らかな顔をするようになった気がする。

 きっとこれが母親になるということなのだろう。

 私は、少しだけ泣きべそになっていると思う。

 そして頭に乗ったサシャさんの手を捕まえて言った。

「もう、撫でてますよ」

 

 そして約一時間の準備の後、私たちはクレア大公殿下の領地、古都テンピンへと出港した。

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