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スキル、クズ。私は奴隷として生きた。  作者: 七緒 縁
第三章 ドレイ激動 
34/55

32、 ヨコシマナ神

「マダム、なんだか様子が変だよ」

 アタシの背にコハクが触れた。

 そして変なのはアタシも感じていた。

「ああ。……レヴィ?」

 だが行動する間も与えられず、目を疑うようなことが起きた。

 

『……サクッ』

 レヴィの掌が、まるで鋭利な刃物のようにミルの腹を突き刺したのだ。

 そしてレヴィがベッドから体を起こす。

 

「きゃぁぁミル姉ちゃん!!」

 ユキの叫びが、疑いようもない事実だと告げている。

 

「かはぁっ」

 ミルの口からは、真っ赤な液体が噴出した。

 アタシはミルに手を伸ばす。

 

『ドォォォン』

『パパパパパッ』

 かぶった花火の大きな音に、アタシの動きが鈍った瞬間……。

「ハッピーニューイヤー、うふふふ」

 聞きなれない言葉を発しながら笑んだレヴィに目を奪われ、アタシの手は止まっていた。

 

 レヴィがミルの腹から手を引き抜く、するとミルの体は力なく床に倒れ込む。

 

 レヴィはミルをひどく冷めた目で一瞥。

 ベッドの端で手刀をぬぐい、ベッドから降り立った。

 おぼつかず、レヴィの足は震えている。

「もう、……随分鈍ってるわねぇ。早く諦めないから」

 

 違う、コイツはレヴィじゃない。

 アタシの内側で、疑念が一気に膨らみ、ある一点に収束していく。

 

 その間に、カルロがミルを抱き上げる。

「おい、ミル‼ しっかりしろ!」

 

 アタシは、空中で止まっていた手を思いっきり振り、叫ぶ。

「皆、部屋から出るんだ‼」

 

 その場のほとんどが状況が飲み込めていない、あまりにも異常な状態だった。

 だが、それでも命令に従い、皆は直ぐに動き出す。

 アタシのあとを通って戦闘要員以外は扉を出ていく。

 

 レヴィは気にした様子もなく、拳を握ったり開いたりしている。

 そして踏み出すと、やはりプルプルと足の筋肉が震えていた。

「もう、ほんとダメダメじゃない。この体」

 

 そしてアタシは、導き出した答えを叩きつけた。

「貴様……、邪神イースルールだな……」

 アタシの中では、既に確信していたのだ。

 明らかにレヴィではない。

 眼前にいる者の正体だ。

 

「はぁ? なに、邪神呼ばわりしてんの? 

 ……あぁ、思い出した。

 お前、エミネムの孫じゃない? ああ、そうだそうだ。

 父親に殺されかけて逃げ出した、あの腰抜け姫ね」

 

「おい! レヴィをどうした!」

「……口の利き方に気をつけろよ? 腰抜け姫。

 なに、無様に生きてんのぉ? 犯されて捨てられて、そのまま殺されればよかったのに」

「答えろ!」

「きっしょ。ま、いいわ。レヴィはぁ私の下僕になった。今は胸の奥でお休み中。あは、どう満足?」

 

 震える足を休めるようにイースルールはベッドに腰かけた。

 

 その時だった。

『バリィィン』

 甲板側から、窓を破って乱入してきた人影。

「トウマ! やめろ!」

 アタシが叫んだ瞬間にはもう、トウマは長剣でレヴィの姿をしたイースルールを斬りつけていた。

 

「馬鹿なの?」

 イースルールは、レヴィのか細い指先で、ありえないほど軽々と長剣の刃をつまんで、無造作に捨てる。

 その動作で、トウマは壁際まで転がされた。

 

 だがワンテンポ遅れて、攻撃を受け止めたレヴィの指と腕がバキバキと音を立てて砕けた。

「……。満足に力も引き出せないじゃない。ほんとゴミ奴隷ね」

 あまりに凄惨な光景だ。

 なのにイースルールは痛がる様子もなく、ただ肩を竦めている。

 

「トウマ、止めろ‼ レヴィの体だぞ!」

 そうカルロが叫ぶと、レヴィの顔をした邪神が顔を緩めた。

「え、なになに、お前オオザカトウマなの? 

 うわぁぁ、凄い! 奇遇ね! 

 ほら、あれ、試しに異世界召喚したら巻き込まれた恋人、殺しちゃって以来? 

 うわぁぁ、なつかしい。生きてたんだ? 

 しかも、その時、奴隷だった妹が巻き込まれて潰れちゃったカルロっちもいるじゃない? 

 ゴミどうしで一緒にいるの? すっごぉぉい!」

 愛らしいレヴィの顔で楽しげに罵詈雑言を吐き出した。

 それがとてつもなく腹が立つ。

 アタシだけじゃない。

 トウマも態勢を立て直しながら歯噛みしている。

 

 だが、それ以上に噴火しそうな奴がいた。

「いい加減にしろよ、貴様……」

 カルロは声を震わせながら、腰の剣に手をかけた。

「おいおい、お前さぁ、さっき、『やめろぉレヴィの体だぞぉ』とか言ってたくせにさ、剣抜いちゃうんだ?

 いいよ、抜きなさいな。

 その怪我した娘ほっぽらかして、かかっておいで? うふふふ」

 ベッドに座る邪神は、レヴィの姿で心底いやらしく笑っている。

「カルロ!」

 アタシは落ち着けという意を込めて、奴の名を呼んだ。

 勿論、それが難しいことだってくらいは、アタシもわかっている。

 

「そうよねぇ。

 恨みのある者同士、クズはクズと。

 できそこないの姫と、あとはクソ失敗作の奴隷どもと」

 そう、アタシらを順に見ていくイースルール。

 

 イースルールめ、皆が乗り越えようとしている過去を、こうも易々と弄ぶか……!

 (はらわた)が煮えくり返る。

 だが、ここで取り乱せば思うつぼだ。

 アタシは歯を食いしばり、必死に冷静を装った。

 

「ま、いい余興だったわ。

 この体に十五年位働かせて、あとは、ほら、あれ、【聖女ライカン】の子供、あれは素材良さそうよね。

 育ったら、もらうことにするわ」

 宣言めいた呪詛を垂れ流し、レヴィの姿をした邪神はふわりと浮き上がった。

 

「まてイースルール、奴隷の杭‼」

 アタシが叫んだ瞬間、片足に残るレヴィの奴隷の杭が光った。

 そして、尋常ではない激痛が襲うはずだ。

 

「……ああ。なるほど。

 これは痛いわね。

 しっかしひどいことするのね。

 本当に苦しむのは私じゃないのに。

 けど、まあ、いいわ」

 

『スパーンッ』

 イースルールは指先を振るうしぐさで、自らの体でもあるレヴィの足を切り落とした。

 落ちた足はフワッと浮き上がり、イースルールの小脇に収まる。

 

 イースルールは、トウマが破った窓を一瞥。

 ちょうどいいとばかりに、そこから羽毛が飛ぶように抜け出して上昇していく。

 

 アタシは窓に駆け、そこからイースルールを見上げた。

「まて貴様! レヴィを返せ!」

 

「ふふ、嫌よ」

 イースルールは折れた方の腕を持ち上げた。

 するとその手のひらに人の頭ほどの黒い球体が発生。

 それを船の上へと、まるで遊戯のように放り投げた。

 

 そして黒い球体は、加速しながら落ちてくる。

 アタシは船倉にいる仲間たちを背にかばうように両腕を広げた。

「まずい! 勇者の盾(ブレイブシールド)!!」

 咄嗟にアタシは、勇者の技を叫んだ。

 

『ドォォォォォォォンッ』

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