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スキル、クズ。私は奴隷として生きた。  作者: 七緒 縁
第三章 ドレイ激動 
33/55

31、ヒドイ仕打ち

 時々、あの声が囁いてくる。

『苦しいよねぇ、苦しいに決まってるよねぇ?』

 私は正気ではないのかもしれない。

 感覚が何もないことがこれほど苦しいとは思わなかった。

 

 あぁぁぁがぁぁぁがああああ、あ、あ、あ……。

 

『凄いわねぇ貴女。エミネムはこの半分の時間で落ちたのよ? 

 知ってるでしょ、エミネム。前の王様』

 

 はぁはぁ。

『どうやって精神保ってるの? やっぱ、自分を分裂させて会話とか?』

 はぁはぁ。

『答えてくれないのね、つまんないわ』

 ……。

『けど、もう壊れかかってるのね。うんうん、わかるわ』

 壊れ……かけ?

『ねぇ、死にたい? 助かりたい?』

 ただ苦しかったんだ。

 

 苦しい、苦しい、苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。

 うわぁぁぁぁ!

 

 客観視する私と、悲鳴を上げている私がいる。

 あ、可哀想に。

 あれはもう、私ではない別の何かだ。

 私はただ、それを冷たい檻の中から眺めている。

 

『ふふ、苦しいわねぇ。

 助けて下さいイースルール様、何でもします。

 って、ほら、言えばいいのよ?』

 ……。

『まだ? あっそ、じゃ、またね』

 イースルールの囁きは消えた。

 

 

 何もない。

 何も感じない。

 辛い。

 苦しい。

 助かりたい。

 誰か助けて。

 わからない。

 苦しい。

 

 あぁぁあああがぁ、ああああ。あ、あ、あ、あ、

 心は、砕けそうだ。

 

 どれほど経ったかもわからない。

 それより、あとどれだけ続くのだろう。

 

 だめだ私は、もう“もたない”――。

 

 あぁ、いやだ、たすけて……。

 たすけて。

 助けてください。

 助けてくださいイースルール様。

 

 何でもします……。

 

『ふふ、ほんとうに?』

 あぁぁぁ、あ、あ、お願いです。

 助けてください。

 どうか、お助けくださいイースルール様。

 

 私の中の、知らない誰かが懇願してた――。

 いや、ふふ、私自身だ。

 

『やぁっと折れたぁ。

 長かったぁ、最長記録かしら。

 精神世界で十年くらいね』

 

 

 ――指先にわずかな感覚が戻った気がする。

 本当にわずかに、何かを触れているような感覚。

 

 私は、指先で貪るように感覚を楽しむという快楽を得た。

 たったそれだけなのに、押し寄せる恍惚感に溺れてる。

 わずかな感触が、指先だけで気持ちがいい……。

 その時、私の手に、違う感覚が起こった。

 

『あなたのお友達が手を握ってくれてるのね。

 優しい子よねぇ。

 どう、気持ちいいでしょ? 

 心地いいでしょう? 

 さ、ほら、下僕になると誓いなさい』

 

 ああ、感覚が気持ちいい、幸せだ。

 異常なほどの幸福感。

 私の心がとろけていく……。

 ……このお方には逆らえない。

 

 下僕になります。

 

 と、思った瞬間、

『確かに、聞いたわよ? 

 これでやっとお前を得ることができた。

 ふふ、本当は、お前なんてどうでもいいのよ? 

 必要なのはお前のスキル。

 お前が『クズスキル』だと思っている、アレ。

 アレはね、世界にとっては邪魔でしかない不必要な力。

 もう、最初からスキルを捨ててくれたら話が早かったのにぃ』

 

 ……どういうことだろう。

 

『一年近く体を動かしてないのよお前。リハビリが必要よね。とりあえずこの娘で試そうかしら』

 娘? 試す?

 するとほんのわずかに、うっすらと視覚が戻った。

 

 私の視界にうっすらと、ミルの微笑む姿が見えた……。

 

 まさか、

『うん、そのまさかよね』

 

 !? ミル! 逃げて!! 逃げて! 逃げてぇ!!

『無駄よ。

 お前は折れて、契約したの。

 もう手遅れなの。大人しくしてなさい』

 

「に……げ……て」

 私は体のごく一部、指先と、そして唇を、わずかに喉を震わせる。

 

『へぇ? 凄いじゃない、わずかでも逆らうなんて。ま、いいわ――』

 と、イースルールの気配が遠ざかっていく。

 

 いや違う。

 遠ざかっているのは私だ。

 自分の体という慣れ親しんだ殻から、魂が無理やり引き剥がされるような、凄まじい違和感。

 愛しい仲間たちの姿が、急速に小さくなっていく。

 

『ガシャン』

 と、音が響いた瞬間、すべての感覚が戻っていた。

 

 だけど、私は全面が石で閉ざされた牢獄の中にいた。

「え、どういうこと?」

 手足は鎖に繋がれている。

「まってここはどこ!? イースルール様!? 助けてくれるんじゃなかったのですか! ねぇ、ねぇってば!」

 

 私の精神は、完全に囚われていた。

「うわぁぁぁぁ!!」

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