余話2 レヴィの手記
私たちは、海路から古都テンピンへ向かっている。
途中、海上都市デネバで物資の補給を予定している。
その後は、いくつかの島都市と港街を経由して、約二ヶ月ほどの航海の予定だ。
状況が刻一刻と変わっていく最中、考え得る一番安全なルートなのだそうだ。
出港して数日経った現在、海上の生活になんら不自由はなかった。
もともと、海洋技術が進んでいたイシスの船は快適で、ミモザの面々が生活するのに余りある設備だった。
基本は帆船だが、極少人数で扱えるよう手が入れられているらしい。
そして無風状態でも僅かではあるが、魔石力推進で航行できるという。
因みに航行については、ホークさんがイシス出身で、かつスキル【運び屋】で、操船できるらしい。
そう言えば、ホークさんとは殆ど話をしたことが無い。
と言うのも、殆ど館に留まらず移動を繰り返しているからだ。
だから会う度、会釈をして終わる。
ホークさんとは一度、ゆっくりお話しできたらと思っている。
食料も備蓄は万全、むしろ今までより食事が豪華になった。
そうそう、食事と言えば、私が勉強を教えていた奴隷の子供の中に、【料理人】を発現させた子がいた。
おかげで料理が格段にグレードアップしたのだ。
ついでに言えば、その子が専属になったので、私たち奴隷は料理当番をする機会が減った。
味見ができなくなったことは残念だが、それでも美味しい食事は凄く嬉しい。
私は、改めて十五歳の少女たちのことを思い、個性を考えながら授業内容を考える。
名前は、ユキ。
スキルは【料理人】
目の下に二つほくろのある黒髪の子。
雪の日、赤ん坊の彼女は捨てられていた。
幼いうちに奴隷商に売られ、巡り巡ってミモザにやってきた。
ミモザ歴では私より先輩だ。
アキは、親が死んで以来浮浪児をしていた。
十二歳で食べ物欲しさにパンを盗み、その時に捕まって奴隷にされた。
罪人奴隷にならなかったのは幸いだったけど、随分と酷い目にあったようで、心を開いてくれるまで随分時間がかかった。
淡い金髪も綺麗。
スキルは【奏士】で、将来どんな音楽を奏でるのか楽しみだ。
コハクは一番小さい。
十五歳になったのに、まるで子供みたいだ。
けれど、三人の中では一番発言力があるみたい。
頼りになる小さな姉といった風格だ。
父親は罪人で奴隷落ちした結果、彼女も奴隷になったらしい。
それから父親は、鉱山の労役で死亡。
彼女は売りに出され、ミモザには調教の名目でやってきたが、依頼した貴族も他界したためミモザの子になった。
栗色の髪のコハクのスキルは【走術】で、ホークさんがとても期待している。
実は、館にいた時より仕事が少ない。
それも当然だ。
接客が無いのに、奴隷はいる。
おかげで手持無沙汰だったが、ここ、船倉の脇に書室を見つけた。
だから、仕事のない時間は書室で授業の準備をしたり、本を読んで学んでいる。
このご褒美のような環境は、マダムからの言い付けでもある。
私に、学ぶことでいろんな分野で役立てというマダムの指示だ。
私は頭の整理を兼ねてメモや日記を綴っている。
勿論、内容を知られてはいけないこともあるから、必ず燃やす。
それに何の意味があるの? と、ミルに問われたことがある。
明確な理由は答えられなかったが、書くことで身近に感じることができる気がして、少しだけ幸せな気分になる。
そう伝えたら、ミルはいつもの感じで、
『レヴィって、そういうとこ、あるよね』
と、笑っていた。
全く、その通り。私の変な癖。
些細なことで幸せを感じて少しだけ高揚する私の癖。
そして今日も綴る。
今日は、あの子達の個性も加えて……
館の人々。
・マダム・スカーレット【本名不明】
【スキル】勇者、偽装術
紅い髪の美女。ミモザの女主人。そして私のご主人様。
・カルロ・ロット
【スキル】英雄技
栗毛、顎髭の似合う優しい男性。ミモザの用心棒
・ノーマ・デュボア
【スキル】医術
黒髪を束ねた学者肌の女性。
体調管理や勉強を教えてくれる。
・レリン・キモン
【スキル】化粧士
長い金髪、仮面の女性。
スキルを使う度……、娼館のマネージャー。
・トウマ・オオザカ?
【スキル】葬儀屋
黒髪に近い茶色髪の男性、塔の管理人。
そして……弔い人。
・ホーク・シュバリエ
【スキル】運び屋
皮のストローハットを被る男性、髪は……? 館の外の仕事をしている。
館の奴隷達。
・サシャ(罪人奴隷)
【スキル】ライカントロピー、聖女の法術
金髪中長、長身。スキルの影響? よく見ると毛先の色が違う。
不器用で優しい人。
・ミル
【スキル】調香師
茶色髪の束ね髪、館で最初の仲良くなった子。
子供っぽいのに反して……体型は大人。
奴隷、十五歳組。
・ユキ
【スキル】料理人
黒髪、目の下、ほくろ。おっとりとした料理の達人。
・アキ
【スキル】奏士
淡い金髪、最近は竪琴を学び始めた。大人しい子。
・コハク
【スキル】走術
十五歳組のリーダー。
一番小柄、【走術】の中にある【ランナー】で風のように走る。
娼館のお嬢様達。
・ヨーコ
【スキル】魅了術
娼館ミモザのナンバー1。美しい長い金髪。美貌と気品の塊。
・ユング
【スキル】盗賊技
ナンバー2。黒髪ショートの軽業師。テクニックは随一とのこと。とにかく良く寝る。
・ミランダ
【スキル】舞踊士
ナンバー3。栗毛色の長髪、その踊りを目当てに客が絶えない。潔癖。
そして、この三人のお嬢様には裏の顔がある。
娼婦であり、ミモザの諜報員なのだ。
前にユングお嬢様が腕を落として帰って来た時、私はパニックになったのを覚えている。
あと……、
・トマス・ルルーリ
【スキル】英雄の剣技、英雄魔法技、収納空間?
金髪の……幼馴染。
前は泣き虫で、優しい子だったのに、変わってしまった。
色々あって、大嫌いで、憎んだこともあるけど、文字にすると和らぐ気がする。
なぜ、あんなに変わってしまったのだろう?
丁度ペンを止めたところで、
『コンコン』
扉をノックする音。
「はい。どうぞ」
「レヴィ、ご飯だよ」
ミルが覗き込みながら笑った。
「うん、今行くね」
私は、インクの蓋を閉める。
ペンを置いて、紙に火をつけた。
第二章 終




