陰キャ小説家のくだらない独り言
――これは、ある友人から聞いた話である。
というか、「実際に起こったことを小説としてまとめてくれ」と依頼されたから書いているだけのことである。その場には私も同行していたのだけれど。
私の古くからの友人は探偵であり、その付き合いは立志舘大学に通っていた頃まで遡る。
探偵の名前は「明智善太郎」というが、これがかなりの変人である。髪は生まれつきの赤髪であり、常に丸いサングラスを着けている。――故に、その素顔を見せることはあまりない。
とはいえ、私の前だとサングラスを外すことが多い。サングラスの下には、日本人離れした碧眼があり、恐らく――その眼を隠すためにサングラスをかけていたのだろう。本人にとっては、その碧眼はコンプレックスの塊にすぎないのだから。
かくいう自分も、立志舘大学に入学するまでは「生きづらい」というコンプレックスを抱えていた。自傷行為、向精神薬の過剰摂取、自殺未遂――私は常に「死にたい」と願っていた。
だからこそ、明智善太郎という存在は――私にとって「心の救い」となったのだ。そして、彼と出会ったことによって、私はようやく自分の心の中に「人間らしさ」を見出した。
結果的に、彼とは10年以上の付き合いとなっており、今でも連絡を取り合う仲である。
たまに、彼とは別の友人から「そろそろ善太郎くんと結婚しなよ」と言われることがあるが、彼と結婚する気は――今のところ、全くもってない。飽くまでも「仕事上の付き合い」でしかないのだ。
そういう訳で、私の仕事は――小説家だ。ペンネームは「卯月絢華」であり、本名は「広瀬彩香」という。あまりにもありふれた名前なので、ペンネームぐらいはちょっと遊んでみたかった。
立志舘大学のミステリ研究会に在籍していたということで、専門に書いているのは――ミステリである。中学生の時に読んだ京極夏彦の『姑獲鳥の夏』と『魍魎の匣』で衝撃を受けて「こういうミステリを書いてみたい」と思ってミステリ作家を志したのは良いが、現実はそんなに甘くはない。
あまりの売れ行きの悪さに、担当者から「溝淡社文芸第三出版事業部のお荷物」と馬鹿にされることが度々あり、新作もノベルスや単行本ではなくライト文芸レーベルから発刊されることが多い。――ナメられているのか。
少し前に「作家は経験したことしか書けない」という論調が炎上していたが、経験したことを書こうと思ったら――殺人を犯すことになる。
当然だけど、殺人は立派な犯罪なので、言語道断である。それなら、「人を殺さないミステリ」を書けば良いじゃないかってなるけど――余程の裁量がない限りつまらないモノになってしまう。
じゃあ、私にできることはなんだろうか? それを考えると、難しい。売れないぐらいなら、筆を折る――つまりは断筆して小説業を廃業するしかないのだ。もっとも、私の場合は筆じゃなくてダイナブックのキーボードをジミヘンのようにぶっ壊すことが筆を折ることになってしまうのだが。
話が脱線してしまったが、とにかく――この小説は、卯月絢華という売れない小説家と明智善太郎という碧眼の探偵が巻き込まれた奇妙な事件にまつわる記録である。