Break 02 罠
――誰か、助けてくれ。
オレは確かにこの事件の犯人を追い詰めたが、追い詰める過程でスマホと車をボコボコに破壊され、その挙げ句――監禁された。
そもそもの話、オレが彩香と宿南刑事に「事件解決の協力」を依頼したことが間違いだった。普通に考えれば、この事件の犯人は宿南刑事に言われなくても分かりきっていた。けれども、オレはソイツが犯人だとは信じたくなかった。――だから、敢えてこういう回りくどいことを行ったが、結果として悪手となってしまった。
暗闇の中で、悪魔の声がする。
「――善くん、久しぶりね。高校の時以来かしら?」
当然、オレはその質問に答えていく。
「そうだな。――正直、オレはお前が嫌いだった」
「そうなの? 私は善くんのことが好きだったけど」
「そう思うのはお前の勝手だ。オレには――他に好きな人がいたからな」
「好きな人? 一体、誰よ?」
「探偵にも守秘義務がある。――お前に対して教える訳にはいかねぇ」
「ふーん。――じゃあ、死んでもらおうかな?」
「良いのか? お前は既に2人を殺しているが、オレを殺せば3人殺したことになる」
「それがどうしたのよ? まだ殺していないじゃないの」
「それはそうだな。――お前、何をした」
動悸がする。心臓の鼓動が早くなる。息が苦しい。――薬を盛られたか。
確かに、お前は高校を卒業した後、同命社大学の薬学部を専攻していたから――そういうモノの扱いは慣れているのは当然だろう。しかし、「人を殺す薬」は薬なんかじゃねぇ、ただの「毒」だ。
今のオレは、水浦阿佐美や中川智也が味わった感覚――死ぬ間際の感覚――をこの身で味わっているのか。アイツらはこの悪魔に毒を盛られて、そして、死んだ。確かに、2人とも「安らかな顔」で眠っていたが、それは心臓が早くなる拍動に耐えきれず破裂したことによって、そのまま意識を失ったのだろう。
心臓が、強く脈を打つ。――オレ、死ぬんだな。いわゆる「心房細動」の状態なのか。
オヤジ、オレ――刑事になれなくてゴメン。オレは、「京都府警のキャリア刑事」という輝かしい未来を蹴ってまで「探偵」という職業になりたかった。オヤジや母親は、オレの夢について反対していたけど、確かジジイ――明智六之進――だけは反対していなかった。ジジイも探偵という職業を目指していたらしいから、多分「孫の夢」を応援していたのだろう。
走馬灯が見える。――ああ、オレはとんだドラ息子だな。どうせ行き着く先は地獄だろう。天国になんて行けやしないぜ。
――なんだ、これ。ホトケか?
――いや、ホトケじゃねぇな。コイツはまだ生きている。でも、どうせ同じ穴の狢だ。オレもコイツも、待っているのは「死」だけだ。
――サイレンの音? だけど、スマホが壊されている以上、オレは警察に連絡することができねぇ。じゃあ、一体誰が連絡したんだ?
――大量の足音がする。ああ、そういうことか。