Break 01 報い
「――どうして、私から智くんを奪ったの?」
そんな事言われても、別に私が智也くんを奪ったわけじゃない。あなたは勝手に智也くんに惚れていて、勝手に智也くんに絶望しただけなのに。
それでも、友人は話を続ける。
「私は智くんのことがずっと好きで、仕事でも良い関係になっていた。でも、突然振られた。私は振られた理由が分からなかったけれども、この間――偶然、難波であなたと智くんが手を繋いで歩いているところを見てしまった。私はショックで言葉が出なくて、そのまま道頓堀で独り泣いていた」
――それがどうしたの? 恋愛する相手を選ぶのって、自由じゃん。私の好きにさせてよ。
そもそも、この女子会を計画しようと思ったのはあなたの方じゃないの。文句を言う筋合いはない。
グラスに、赤ワインが注がれている。――確か、「智也くんと結婚した時に飲もう」と思って買ったワインだったかな。
1998年産のボルドーで、価格は100万円。
目利きのワインセラーから買ったモノだから、相当美味しいモノなのだろう。
でも、そのワインは友人の手によって栓が開けられてしまった。
「――これが、智くんの血なの?」
あなた、何を言ってるの? そんな訳ないじゃん。
「これを飲めば、私は智くんと一つになれる」
――絶対違うと思う。
「でも、あなたには汚れた血を飲ませるしかない」
汚れた血? ますます言ってることが分からない。とりあえず、私も友人が注いでくれたワインを飲んだ。
ワインというモノはアルコールだから、飲んだら自然と脈拍が早くなっていく。でも、脈拍の早くなるスピードが――おかしい。
――あなた、ワインの中に何を入れたのよ?
「――ふふふ、あははははは!」
こんなの、友人じゃなくて――ただの悪魔だ。
私は、悪魔の誘惑に嵌められてしまった!
そして、悪魔の誘惑に嵌められた結果、私は――意識を失った。
***
――これで、私は智くんと一つになった。
でも、何かが足りない。
一体、何が足りないのだろうか?
そう思った私は、ホテルの一室を後にして、箕面にある智くんの自宅へと向かうことにした。
そうだ、部屋から出る前にこのアメシストを置いておかないと。
アメシストは昔から「酔い止めの効果がある」って聞いていたけど、更に遡れば――ギリシャ神話で「酒の神が女性を美しい石に変えた」という逸話のもとになった宝石としても知られている。
当然、美しい石になった女性は死んでいる。つまり、水浦阿佐美という女性はこの時点で――死んだも同然だ。これからは、私があなたを支配してあげる。
――これは、私から智くんを奪った報いだ。