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第44話 工藤珠希の匂い

 昨晩の出来事は夢だったのだと思うことにした工藤珠希はいつものように学校へ向かっていたのだが、通学途中にある公園で昨日会った人たちが遊んでいるのを見て現実だったのだと思わされたのだ。

 あの人たちに見つからないように足早に移動していたところ、隊員たちも工藤珠希に気が付いたようだったけれど、お互いに気付かなかったフリをしてその場は何事もない事になっていた。

 犬の散歩をしているおじいさんも公園には入らずにゆっくりと公園を一周していた。おじいさんだけでなく犬も公園の中を見ないようにしているのに気付いた時は、クリームパイの部下と言うのはとんでもない集団なのだろうと思い知らされた。


「なんと、ワシの部下を名乗る集団が珠希ちゃんに迷惑をかけてしまったのか。それは申し訳ないことをしたな。よし、学校が終わったらワシが直接あいつらに文句を言って珠希ちゃんに迷惑をかけないようにさせるからな」

「別にそこまでしてくれなくても平気だよ。学校に来る途中に見かけたけど、お互いに気が付かなかったフリをしてやり過ごしたからね」

「珠希ちゃんがそう言うんだったらいいんだが、それではワシの気がおさまらんのだよ。何か償いでもさせてくれないかな?」

「本当にそんなことしなくても大丈夫だよ。ボクはあんまりあの人たちと関わりあいたくないなって思ったから。だってさ、ボクの事をメスを興奮させる匂いを発してるとか言ってくるんだからね。それっておかしいよね」


 クリームパイちゃんには難しくても他のみんなはそんな事無いと言ってくれると信じていた工藤珠希ではあったが、その予想に反して誰一人として言葉を発する者はいなかった。ただ黙って目を逸らしているのを見ていると、あの隊員たちが言っていたこともあながち間違っている事ではないんじゃないかとさえ思えたのだ。

 ただ、それが本当に正しいことなのか自分ではわからない。メスを興奮させる匂いと言われても本当に出ているのか確認のしようもないし、本当に出ていたとしたら嗅いでくれた人に対してとんでもないことをしているという感じになるのではないだろうか。そう考えてしまった工藤珠希はいつも以上に安全に気を遣うようになっていた。


「ねえ、黙ってられるとボクは困っちゃうんだけど。ボクってそんなに臭い?」

「臭いとは違うんだよ。珠希ちゃんから出てるのは完全にいい匂いであって、その匂いを嗅ぐとワシらはみんな興奮して夜も大人しく眠ることが出来なくなっちゃうんだよ」

「私はそういうの感じたことないかな。珠希ちゃんから出てるフェロモンって普通の人間には効果ないのかもしれないね。でも、私も愛華も珠希ちゃんのことは好きだよ」


「じゃあ、今から順番に珠希ちゃんの匂いを嗅ぐのでサキュバスとレジスタンスに別れて一列に並んでください。持ち時間は一人三十秒ですからね。それ以上は強制的に死をプレゼントしますからね。私と愛華にそんなことが出来るのかと思うかもしれないけど、うまなちゃんも協力してくれます。なので、皆さんを殺しちゃうのも楽勝なんですね」

「できるなら私は誰も殺したくなんて無いよ。明日になれば生き返れるとしても、死ぬというのは言葉に言い表すことが出来ないくらいには苛酷だからね。どれくらい苛酷かと言えば、地獄に行くことが出来るか調べたんだけど、珠希ちゃんが想像している地獄を百回繰り返して真人間になったとしても今までと何も変わらない。私たちにはわからないかもしれないけど、直接感じなくても珠希ちゃんのことは好きだからね」


 栗鳥院柘榴と鈴木愛華は工藤珠希に優しい口調で話しかけてきた。いつもと変わらぬ二人の姿に工藤珠希は嬉しく思っていた。

 一方、サキュバス達はそんな事は気にすることもなく綺麗な列を作って並んでいた。こんなに綺麗に並ぶことが出来るんだと感心するほどであった。

 いつも好き勝手自由気ままに行動しているサキュバスがちゃんと列を作って順番も決めているというのは少し意外だった。


「それじゃ、私たちも並んでくるんで珠希ちゃんは無理せずに頑張ってね」

「黙って立って時が過ぎるのを待ってるよ。本当に嫌なんだけど、我慢してやりきるよ」


 匂いを嗅がれることなんて大したこともないだろうと軽く考えていた工藤珠希ではあったが、自分の考えが甘すぎたという事に気付くまで時間はかからなかった。

 良く知っている顔が自分の体にくっついてしまうんじゃないかと思うような距離にあって、自分の匂いを嗅いでいるというのは何とも言い難い恥ずかしさのような屈辱を感じさせるには十分であった。

 正確に時間を測ってもらっているので文句はないのだけど、三十秒と言うのは意識してみると長い時間のように思えた。朝昼晩によって同じ三十秒でも体感的に異なるように思えるのは何故なのだろう。そんな事をぼんやりと考えていても三十秒が三秒に感じるようなことはなかった。むしろ、三十秒が三分くらいになってるんじゃないかと思ってしまうくらいに時間の流れが遅くなってしまっていた。


 サキュバスだけでもいいような気もしているのだが、レジスタンスのみんなもいい機会だからと並んでいた。

 他のクラスの生徒も並び始めていたり教職員もこっそりと並んでいるのは誰も注意してくれなかったのだ。

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