第40話 二人のバカ
クリームパイが殴っていたクリーキーは当たり所が悪かったのかその場で死亡が確認された。
そのついでではないと思うが、クリームパイは性懲りもなく襲い掛かってきた栗宮院うまなを今日も殺していた。
非公式記録ではあるが、今月のキルカウントランキングでクリームパイが一位を目指せるような位置にランクインしていたのである。
「クリームパイちゃんの弟も連れてご飯でも行こうよって誘おうと思ったんだけど、弟君が死んじゃってるんだったら誘えないよね。うまなちゃんは今日もクリームパイちゃんにちょっかいかけちゃって返り討ちにあっちゃったし、なんで仲良く出来ないんだろうね」
「栗宮院うまなからはワシと仲良くしたいという思いは伝わってきているんだがな。どうもその方法が間違っているとしか思えないのだが、それはワシの弟と同じなのかもしれぬな」
「小さい時からそんな感じだったの?」
「まあ、そういう事になるかな。クリーキーは生まれた時から死んでいたのだが、翌日には生き返るという事を繰り返していだのだ。何度殺しても翌日には生き返るので当初は奴の言う通り皆から尊敬もされていたし鍛えようによっては本当に天才だと思えるような素質はあったと思うのだ。でもな、クリーキーはその能力を過信しすぎていて相手の攻撃を避けるという事をしなくなってしまったのだ。それはワシが原因ともいえるのかもしれないが、クリーキーの生まれ持った性格の影響が強いのだろう」
「うまなちゃんだけじゃなくて、この学校のサキュバス達はみんな次の日には生き返ることが出来るからって理由で死んでもいいような特攻ばっかり仕掛けてくるもんね。イザーちゃんみたいに死なないように立ち回ってればみんなも強くなったと思うんだけど、そのための努力って結構しんどいもんね」
クリームパイの弟のクリーキーはドクターポンピーノがいなくても翌日には生き返ることが出来るという能力があるそうだ。
処置室に安置されているクリーキーの遺体はドクターポンピーノが修復作業を行わなくても自然と体が治っていっていたとあとから聞かされたのだが、ドクターポンピーノが修復作業を行う事で復活までの時間が短縮する可能性もあると考えられている。ただ、クリーキーの修復作業を行うよりも先に栗宮院うまなの修復作業に入らなくてはいけないのでドクターポンピーノがクリーキーの体を修復する日はやってこなかった。
「うまなちゃんとクリーキー君って仲良くなれそうな気がするんだけど、クリームパイちゃんはどう思う?」
「ワシは合わないと思うな。お互いに相手の事をバカだと思っている節があるし、自分より下だと思っている人間とは仲良くならないだろうな。ワシから言わせれば二人ともバカだとは思うのだが、クリーキーも栗宮院うまなもバカと仲良くしたいなどとは思っていないだろう」
「そういう見方もあるわけね。確かに二人とも特攻を仕掛けることしか出来ないバカだとは思うけど、二人が協力したらちょっとは脅威になるんじゃないかな」
「柘榴がどう考えているのかわからないが、真っすぐに向かってくる蠅が二匹に増えたところで影響などないだろう。多少動きが変わったところでバカが二人同時に攻めてくることには変わりないし、気を付けることも何もないんではないかな」
クラスに完全に溶け込んでいるクリームパイは少しずつ口の悪いところが出てきているようなのだが、それはみんなに対して気を許しているという証なのかもしれない。
ただし、クリームパイが悪く言うのは栗宮院うまなとクリーキーに対してだけなので悪意があるのではなく、本心から二人の事をバカだと思っているだけなのだろう。誰もが口にしないことだが、クラスメイトだけではなくドクターポンピーノも同じように思っているような気はしていた。
「ねえ、クリームパイちゃんってうまなちゃんとクリーキー君にだけ当たりがきついよね。何か特別な理由でもあるのかな?」
「何も無いんじゃないかな。愛華ちゃんは何かあると思う?」
「私も理由なんて無いと思う。でも、何度死んでも懲りずに向かってくる二人の事は悪く思ってないんじゃないかな。こんな言い方はおかしいかもしれないけど、クリームパイちゃんって二人を殺す時って凄く楽しそうにしているように見えるんだよね」
「その言い方は確実に誤解を招いちゃうと思うよ。ボクもそう感じる時はあるけど、クリームパイちゃんはそこまで性格悪くないと思うな」
「でも、今日だってクリームパイちゃんが楽しそうに二人の背骨を折ってたからね。どうしてそうなったのかわからないけど、背骨が折れた二人の体を重ねて何か作ろうとしてたからね。アレは普通の人じゃ出来ないと思うよ」
「確かにあの行動はちょっとアレな人じゃないと出来ないかもね。死体を冒涜するようなことは避けた方がいいと思うよね」
「それはそうなんだけど、毎日のように返り討ちにあってる二人がクリームパイちゃんにそうさせてるって可能性だってあるんじゃないかな」
「たぶん、あの二人が毎日やってこなければもっと平和的な日常が送れているとは思うな」
毎日のように回収されている栗宮院うまなとクリーキーの遺体を見ながら工藤珠希と鈴木愛華は小さくため息をついていたのだった。




