第36話 銀髪の少女
教室の中央で意識を失っていた少女は多くの生徒に見守られている中で意識を取り戻した。
沢山の視線が自分に集中していることを感じ取った少女は自然と戦闘態勢をとっていたのだが、誰からも攻撃をするという意思が感じられなかったのでそのまま様子をうかがうことにした。
そんな少女を見た生徒たちは意識を取り戻したことに安心したのか自分の周りから離れていっていた。
「良かった。あのまま死んじゃってたらどうしようかなって思ってたんだよね。ドクターポンピーノに殺された人はちゃんと生き返らせてもらえないって噂があるみたいだから心配してたんだよ」
「私としては君が死んだところで問題無いと思っていたんだけど、会長の話だと君を殺してしまうと君の星と戦争にでもなってしまうんじゃないかって話になるみたいでビビってしまっていたんだよ。君って、大使みたいな存在なのかな?」
「大使と言えば大使かもしれない。でも、ワシを一方的に倒せるような奴がいる星に対して宣戦布告などするとは思えないな。ワシ以外に異星人と戦うことが出来るモノなどほとんど残っていないのだ。数百年前に突然現れた銀髪の少女によって多くの戦士の命を奪われてしまってな、その中で生き残ったわずかな戦士の子孫がワシと言うわけだ。あの女に殴られたことまでは覚えているのだが、ワシはいったいどれくらいの攻撃を受けたのだろう」
「ポンちゃんの攻撃なら一回だけだったよ。二発くらってたとしたら、君の内臓は全部壊れてただろうね」
「たった一発か。この銀髪の少女と同じくらい強い者がいるという事なんだな」
「その銀髪の少女なんだけど、映像とか写真とかってあったりするのかな?」
「もちろんあるぞ。こちらから仕掛けなければ何もしてこないという話なので、万が一にも攻撃してしまわないように写真は毎日見るように心がけているのだ。お前たちも銀髪の悪魔に遭遇しないように気を付けた方がいいぞ。この星は好戦的な若者が多いようだからワシらの二の舞にならないように気を付けた方がいいな」
少女が見せてくれた写真はみんなが想像していた人物と同じだった。
突然現れた銀髪の少女が多くの戦死の命を奪っていった。そんな話を聞いて思い浮かぶ人物像はイザーなのだ。
強くて銀髪で少女。それだけの共通点でイザーを連想するのもどうかと思うのだが、イザーに対するイメージなんて強い銀髪の少女で十分なのである。誰よりも強く、誰よりも美しい銀色の髪の毛を持つ少女。他に似たような人がいるのであれば見てみたいと思うくらいにイザーのイメージが固まってしまっているのだ。
「その写真の女の子なんだけど、うまなちゃんに似てるね」
「髪の色は異なっているが、確かに言われてみれば似ているような気もするな。ただ、ワシにはあの娘から脅威を感じる事は無かったな。好戦的なだけで実力のない虫のようなものだと思っていたぞ」
「ちょっとその写真を借りるね。確かめたいことがあるんでその席に座って待ってて頂戴」
少女から写真を借りた工藤珠希は前に撮っていたイザーの写真の横に銀髪の少女の写真を並べてみた。
みんなが知っているイザーよりも髪の色がややくすんで見えるけれど、それは印刷技術によるものなのか経年劣化によるものなのか判断が出来ない。
ただ、見せてもらった写真からは戦士たちを虐殺するような人には見えないので、この少女が言っている事が本当なのか疑わしく感じていた。
それにしても、こうして見てみるとイザーと栗宮院うまなはそっくりなんだなとみんな思っていた。
二人の相違点は髪の色と戦闘能力でそれ以外に関しては大々的に言及されるようなモノでもないようだ。
「この写真ってどう見てもイザーちゃんだよね?」
「間違いなくイザーちゃんだと思う。でも、何百年も前にってのは引っかかるんだよね。イザーちゃんが過去の世界にあるあの子の星に行ったんだとしたら、なんでそんな場所に行ってしまったのだろうという新しい疑問が出てくるね」
「イザーちゃんはこんな話なんて覚えていないとは思うけど、あっちの世界からイザーちゃんが帰ってきたらあの子の星に行ったことがあるかどうかだけ聞いてみようかな」
「私も太郎に聞いているよ。太郎は何も知らないとは思うけど一応聞いてみることにするよ」
「それにしても、イザーちゃんって場所だけじゃなく時間もいじれるって事なんだね。知らないことだらけだよ」
「それは私たちも初耳だったよ。イザーちゃんが時間今で干渉出来るって誰も知らなかったんじゃないかな」
「この写真の人はイザーちゃんで間違いないと思うよ。ボクは行ったことが無いんでわからないけど二人は行ったことある?」
工藤珠希の質問に対して二人は首を横に振っていた。
栗鳥院柘榴は海外になら行ったことがあるけれど、さすがに他の星には行ったことが無かった。イザーと一緒に行動すれば行ったことがある場所も増えていくとは思うけれど、今のところ栗鳥院柘榴とイザーが一緒に行動するという事は無いのであった。
鈴木愛華にいたっては、海外に行ったこともないしこの地を離れたことも学校行事以外で一度も無いのであった。




